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2.元勇者? 申し訳ありませんがレベルが、その……足りませんね

 転生者転生斡旋所、ハローワールド。

 世界をめぐる転生者が自らを磨くために転生先を求める神の世界の機関である。


 転生者はここで神を求め、自らの実力に見合う転生世界と生物を見つけて世界へと転生していくのだ。


 それは神へと至る長いらせんの道であり、立ち止まる事は許されない。

 格はたやすく堕ち、上げるのは至難。

 故に転生者は世界での生を終えるとすぐにここを訪れて世界を選び、神に己を売り込み世界をめぐる。


 自らの格を上げるために。

 豊かな転生格を得るために。

 そして、自らの欲望を満たすために。





「申し訳ありませんが人類転生はレベルが、その……足りませんね」


 カウンターの向こうで履歴書を出す転生者に彼女は深々と頭を下げた。

 彼女は地味なスーツに簡単にまとめた地味な髪形の落ち着いた若い女性である。

 カウンター越しに転生者と対応するその姿は一言で表すなら受付職員だろうか、彼女は出された履歴書の向きを変え転生者に戻すと今度は軽く頭を下げた。


『主神 ベルティア 328(正)』


 彼女の身分を示すネームプレートが胸元に輝く。


 世界主神ベルティア・オー・ニヴルヘイム。

 受付職員のように見えても一つの世界を統べる神であり、数多の転生者を受け入れ世界を回す中堅世界の最高神だ。


 ……これは、いつものパターンになりそうです。


 ベルティアは静かな表情のまま、心の中で身構える。

 ベルティアが感じた通り、転生者は怒りに顔を歪ませベルティアに迫ってきた。


「なぜだ!」

「いえ、ですから人類として転生するにはレベルが一桁足りません」

「いや、だって前の世界では俺勇者だったんだぜ。レベルだってまだ千六百万もあるじゃんか。つーかなんでレベルが減ってるんだよ!」


 ああ、やっぱり……


 と、ベルティアは心の中で嘆息する。


 この手の転生者は面倒臭いのが相場だ。

 おかしいと叫び、何とかしろと脅し、上司を呼んでこいと怒鳴るのだ。

 世界主神であるベルティアに上司などいないのに。


 まったく面倒臭い相手である。

 自己評価と現実の乖離が激しいが故の行動だろうが巻き込まれる者にとってはえらい迷惑だ。

 見た目が地味で淡々と仕事をしているのが組し易いと思われるのだろう、ベルティアはよくこの手の輩に絡まれて時間とレベルを無駄に捨てていた。


 憤慨する転生者にベルティアが説明する。


「文明を構築出来る人類枠は最低でも九桁、一億レベルは無いと足りないんですよ。正直、千六百万程度の方に勇者なんて偉そうな事が出来たのか私としても首を傾げる所でございまして」

「やってたんだから仕方無いだろう、その頃はレベルはもっとあったんだ!」

「申し訳ありませんがここは転生面接の場なので、前世に関する苦情はあちらでお願い出来ますでしょうか」

「たらい回しにする気かあんた!」


 ああやっぱり面倒臭い。


 親切を前に憤慨する転生者にベルティアは嘆息した。

 場違いな転生者にストレス半端無い。


 人類とは文明を持てる人間やエルフ等の種の事である。

 一般的な世界の人類はレベル九桁、一億以上から。

 その位のレベル桁、つまり格が無いと概念を自在に操る生物に転生は出来ないからだ。


 概念とは現実には存在しないが現実に適用できる物事の考え方だ。

 言葉、数字、理論等々。

 これらは現実にそれ自体は存在しないが現実と結びつけるとものすごい威力を発揮する。現実に起こる個別の事象を結びつける糊のような役割を果たすのだ。


 糊で結ばれた事象が組み合わさった物が文化であり、文化を束ねたものが文明。

 文明とは概念を操れないと使う事も理解する事も出来ないのである。


 ベルティアの持つ世界の人類もレベルは一億以上。

 目の前の転生者はまずこれをクリアできていない。


 さらに勇者と呼ばれるような人の枠を超えた者は十億以上が当然だ。

 桁にして十桁。これが勇者の格である。


 この転生者は八桁だから勇者と言うには格が二つほど足りない。

 本人は勇者と主張して止まないがありえない。獣の格なのだから。


 人にすらなれない者が勇者になれる訳が無い。

 勇者という存在は人々が崇めるカリスマの如き存在であり、人より上位の存在へと昇華する直前の姿なのである。牛や猪の格の転生者に務まるはずがないのだ。


 つまり、アレだ。


 またですか……


 ベルティアの額に汗が浮かぶ。


 アレとはあれだ。アレである。

 神であるベルティアをずっと悩ませている世界運営の手法である。

 ベルティアはその手法をほとんど使わないが、不思議ととばっちりがベルティアにやって来るのだ。


 どうして私にばかり来る? 

 見た目がペーペーなのがいけないのだろうか。

 だって仕方無いじゃない吊るしスーツ安いし楽なんだもの。


 とベルティアは心の中で愚痴り、しかし納得できずに首を傾げた。


「何してるんだよ」

「いえ、どうしてこうなったと首を傾げております」

「真面目に対応しろよ! 役職も無いペーペー社員が」

「正社員の正ではありません。ああもう仕方ありませんね、私の仕事ではありませんが処理させていただきます」


 万歳。

 もう諦めましたと両手を上げて、ベルティアは机の脇に置いた情報端末を引き寄せた。


「あなたの個人情報を拝見させて頂きます」


 ピッ。

 軽い電子音と共に転生者の情報が読み込まれ、ベルティアの眼前に羅列されていく。


 世界をめぐり続ける転生者の履歴は膨大だが肝心な情報は直近の十個くらいだ。

 ベルティアは直近の転生記録を眺め、やはりと大きくため息をついた。


「あなたの前世は勇者。これは間違いありませんね?」

「ああ」

「その時のレベルは二百八十五億。一般的な人類の格を二つ上回ってますね」

「そうだ。溜め込んだレベルを元手にスキルを得て世界で無双した。いやー気持ちよかったわホント」

「で、今は千六百万まで激減した、と」

「そうだ! 何故減ってるんだよオイ!」

「使ったからですよ」


 やはりまたアレである。

 ベルティアは端末を操作し必要書類を用意すると、心底面倒臭そうに転生者を見上げた。


「あなた、チート詐欺に遭いましたね?」

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