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18.神話の主の爪の垢でも貰ってこい

「お久しぶりです」

「……ええ。お久しぶりですエルロイさん」


 ここは転生者転生斡旋所、ハローワールド。

 転生者が新たな転生世界を得る為の機関である。


 しかし今、ベルティアの前に立っているのは転生者ではない。

 神である。

 見た目はちんまり可愛らしい少年であるが、これでも神。

 ベルティアはできれば彼には会いたくなかったので、返事も固いものになってしまった。


 彼の名はエルロイ・ロック・スミス。

 エリザの知り合いでベルティア世界で神話を作った神の一人である。


 なぜ、今ここに……


 ベルティアはそう思い、単刀直入に聞いてみる事にした。


「また、ヤりたくなりましたか?」

「違います!」


 エルロイが全力で否定する。

 まだ幼く可愛い顔が羞恥に染まる。

 そんな仕草は可愛い。すごく可愛い。


 しかしベルティアの心は微塵も動かない。

 エルロイはベルティアの世界でそれだけの事をしでかしてくれたのだから。


「エルロイさん。ヤりたくないならなぜここに?」

「ベルティアさん、そのヤりたい連呼を止めて頂けませんか?」

「『神の俺の子を産んでくれ』なんて言いまくった神話の主には無理ですよ」

「ううっ……!」


 容赦無いベルティアの言葉にエルロイが頭を抱えて突っ伏した。

 恥ずかしいに違いない。


 しかし力を託して送り出したのに子作りしかしなかったエルロイにベルティアは容赦する気などさらさら無い。

 イグドラの為に力と言葉を託したのにナンパ、子作り、俺つええ。

 イグドラの所に行かないどころか託した力を使い込んで子作りである。

 ベルティアが容赦しないのも当然であった。


「……容赦無いですねベルティアさん」

「喘ぎ声を聞きながら仕事するのはもう嫌ですから」

「ううっ! そ、それは仕方無いんですベルティアさん。ベルティアさんも憑依すればわかります」

「私の格では不可能です。万が一出来てもやりませんよ恥ずかしい」

「やらかした僕の恥ずかしさも気にしてくださいようわーんっ!」


 ああもう、面倒臭い……


 ベルティアは鞄から昼休みに食べようと持って来た菓子を取り出した。

 甘い物が好きだったなと思い出し、どら焼き二つを前に置く。

 そして水筒からコップに熱い茶を注ぎ、差し出し優しく囁いた。


「私も落ち着きますからエルロイさんも落ち着いてください」

「……はい」


 エルロイが真っ赤な顔を上げた。


 うっ……この赤面した顔、仕事場でよく見ましたね……


 その顔を見てベルティアは微妙に嫌な顔をする。

 忘れたかった事を思い出してしまったからだ。


 まあ彼だけが悪い訳では無い。

 お互い知らなかったが故の悲劇である。

 ベルティアは深呼吸して嫌な気分を追い出した。


 神が世界に現れるには手段が二つある。

 ひとつはイグドラが行った神自身が世界に下りる顕現。

 そしてもうひとつはエルロイが行った神の一部を世界の生物に宿す憑依だ。


 顕現は世界に入らない神の体を無理矢理世界にねじ込むために力を失い自力では戻れなくなるが、生物を依代とする憑依は神の世界から力を送り込んで依代を操るだけなのでいつでも戻る事が出来る。

 どちらもエルロイのような格の低い神しか行う事が出来ない一種の禁じ手だ。


 ちなみにベルティアの格で顕現を行うと顕現する前に世界が壊れ、憑依を行うと依代が爆散して半径数百キロメートルのクレーターが出来る。

 サイズの小さい服を無理やり着るのと同じであった。


「力の直接行使に行き詰まっていましたから、憑依は良い手だと思ったんですけどねぇ……」

「……すみません。依頼そっちのけで本当にすみません」


 神の世界からの直接的な力の行使はちまちまやったら拡散して届かず、ドカンとやったら世界が終わる。

 イグドラを救えるだけの力はあっても使えば世界がこてんぱん。


 行き詰まっていたベルティアが憑依という手法を知った時は、これでイグドラに力と言葉が送れると小躍りしたものだ。


 しかし、やってみたらこれがまたひどかった。

 イグドラがハマった性欲倍率半端無い罠が憑依に適用されたからだ。


 丁稚に堕したエリザに格の低いエルロイを紹介してもらい、力と言葉を託して適当な人間に憑依してもらったのだがこのエルロイ、憑依した途端にそこらの女性を口説きはじめた。

 そしていきなり宿屋であはんうふんである。

 ベルティア的には何してるんですかこの神? であった。


 その後も俺つええんだぜ、素敵、抱いて、俺の子を産んでくれよ、あはーん……

 こんな展開の連続である。

 ベルティアはエルロイさん、またヤッてるんですかと呆れて仕事をしていたものである。


 神の繁殖間隔はおよそ百億年。

 年中発情可能な人間に憑依すれば肉欲倍率百億倍超。この感覚の差に神の方が引きずられてしまったのだ。


 かくしてエルロイはベルティア世界にハーレム神話を作る事になる。

 彼は自分の子だけで国を興した男という神話となったのだ。

 ベルティアはその後も憑依を試してみたが神話を作るだけで終わり、これは大失敗だと諦めた。

 踏んだり蹴ったりだったのである。


「あの……」

「はい?」


 モソモソとどら焼きを食べていたエルロイはようやく落ち着いたらしい。

 真面目な顔で聞いてきた。


「僕の子供達は幸せだったでしょうか?」

「はぁ……エルロイさんの子供達はすでに寿命で亡くなっておりますが、幸せだったのではないでしょうか」

「なぜですか?」

「子孫が沢山残っていますので。それはもう呆れるほど沢山」


 本当に子孫だけで国家が出来ていますよ……


 と、ベルティアは心の中で呟く。

 エルロイは自分のはっちゃけで生まれた子供に責任を感じていたらしい。ベルティアの言葉に晴れやかな顔で微笑んだ。


「それは良かった」


 良くないですよこんちくしょう。


 心の中でベルティアはツッコミを入れる。

 エルロイはそれだけを聞きたかったのだろう、ペコリと頭を下げて去っていく。


 残されたベルティアは何とも不快な気分で転生者に応対し、かなりの転生者に逃げられた。

 客対応は落ち着きとスマイルが重要だと、反省したベルティアである。




「おいバルナゥそこじゃねえ、女、女だよ!」

「あーもう女っ気ないなぁ馬鹿竜が!」


 家に戻ると、ルドワゥとビルヌュが画面のバルナゥに怒鳴っていた。


 夕方なのに酒臭い。

 優雅なニート生活である。


 そういえば竜もメッセンジャーに使ったなぁ……


 相変わらずの二人にベルティアは当時を思い出す。

 前世の記憶を残す竜に言葉と力を託してみたが、食べられて来なさいと勘違いされて誰もイグドラに近付かなかった。

 まあ、その後本当に竜は食われるようになったのだが。


 滅多に繁殖しない竜はイグドラに食われて減少の一途を辿り、悪評が竜のなり手を奪い繁殖行為を行っても増えなくなった。

 今では生まれないので繁殖行為すらロクに行わない有様である。

 散々であった。


「そういえば、あなた方は誰かと子を生そうとは思わなかったのですか?」

「「えっ」」


 ベルティアの言葉に二人が固まる。


 その反応が答えですね……


 ベルティアはため息をつく。


「あぁ、偉そうに言う癖に自分はやらない人ですか」

「い、いやだって俺らの頃はすでにヤッても生まれなかったろ?」

「そうだそうだ」

「いえ、努力はしたのですかと聞いているのです」


 たどたどしく答える二人をベルティアは追い詰める。


「「……してない」」

「エルロイさんの爪の垢でも貰った方がいいですね。マリーナさん夕飯にしましょうか」

「はい」


 何とも情けない二人である。

 これで恋も情事も経験したバルナゥを罵倒するとか片腹痛い。


「ちなみに私は三人ほど子を産みましたから」

「「うっ」」

「産みましたから」

「「……」」


 何かを要求するように宣言するマリーナに、夕食の一品を差し出すビルヌュとルドワゥ。

 本当に情けない二人であった。


 ちなみに二人は本当にエルロイに話を聞きに行ったがまったく意味がなかったらしい。

 エルロイは結果だけを語り過程が曖昧だったからである。

 二人はなんでアレが神話の主なのか解らないとしきりに首を傾げていた。

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