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16.生かさず殺さず。それがベルティア世界流

 エリザはベルティアの後輩であり、共にマキナに師事する従神だった。

 ベルティアが淡々と世界を耕し実績を示す中、エリザはマキナの表面的な事しか学ばずに生贄世界のチート搾取を実績として示していた。


 短期的な実績は当然チート搾取の方が上。

 だからマキナの従神は皆エリザを賞賛していた。


 しかしマキナはエリザに一定の評価をしていたが、ベルティアには触れる事を許した本命世界をエリザには決して触らせはしなかった。

 エリザが世界を耕せなかったからだ。


 上位格神にとっては本命世界が唯一の世界。

 生贄世界は本命世界の為ならどれだけ潰しても惜しくない世界であり、本命世界に力を捧げる為の餌でしかない。


 そして世界を混乱させるチート搾取は本命世界では決して使われる事はない。

 本命世界におけるチートは限界まで水を注いだコップの水を激しくかき混ぜるようなもの。そんな事をすれば水が飛び散り減ってしまう。

 本命世界では逆に格が落ちるのだ。


 だからマキナはエリザに本命世界を触らせなかった。

 しかし、エリザはマキナが自分をどう評価しているかを理解していなかった。

 本命世界に淡々とベルティアが手を入れるそばで目先の実績を誇り、取り巻きに世界主神に最も近いのは自分だと誇らしげに語っていた。


 数字は一目瞭然だ。

 故に意味は考えない。表面に現れた数値の意味を考えるのは難しいのだ。

 だからマキナがベルティアを先に世界主神と認めた時、エリザは激高した。


 エリザはわかってなかったのだ。

 搾取も淡々と積み上げた世界と転生者があればこそ成果が上がるという事を。

 マキナの世界だからそれが顕在化していなかった。誰かが搾取できる基礎をしっかり作っていたからチート搾取は可能なのだ。


 ベルティアを追うように世界主神となったエリザはマキナの所でしていたように世界を耕したそばからチートで荒らし、最初は成果を獲得した。

 しかし生産を蔑ろにした略奪がいつまでも成果を獲得できるわけが無い。

 荒れた世界はしだいに活力を失い、やがて停滞した。


 転生者からすればチートは神の露骨なひいきである。

 そんな者達が我が物顔に好き勝手する世界、努力の全てが神のひいきで無意味にされる不公平な世界で生きるなどバカらしくてやっていられない。

 神が手を出し過ぎた世界は歪み、転生者にとってすこぶる生き難い世界となる。

 それをエリザは理解していなかった。


 対するベルティアはエリザ達が悪戦苦闘する間も淡々と世界を耕し、出来うる限りの公平な評価と恩恵で世界を回し続けた。

 時に世界に神の力を行使する事もあったが嵐や竜巻などの自然現象の軽減や顕現した異界の討伐の助力であり、それも人類格の文明が繁栄を始めるまでの事。

 それ以降は転生者を送り込んで見守り、ときどき星のめぐりに手を出すだけだ。


 ベルティアはハローワールドで淡々と転生者を獲得し、世界を耕し世界を広げていく。

 不毛の地が細菌や微生物に耕され、植物が根差し、やがて動物が闊歩する……

 それは神の力ではない。全て転生者達の努力が為した事だ。

 ベルティアは生命を適切な地に配して世界を導き、耕し広げて格を上げていった。


 エリザとベルティアの差ははじめ微々たるものであったが、何億年も続けば明確な差として現れる。

 ベルティアの格が四十一桁に達してもエリザは三十六桁あたりの格をうろつくばかり。

 その差五桁、十万倍。

 生産主体世界と略奪主体世界の差が如実に現れたのだ。


 エリザにこの結果が認められる訳が無い。

 彼女はベルティアの成果を妬み、彼女を相手にもしないベルティアを恨み、どう足掻いても届かない現状に苦悩する。

 そんな状態になってさらに数億年、ベルティアの格が四十三桁半ばに達した頃にエリザは唐突に理解した。


 あぁそうか。ベルティアの世界から略奪すればいいのか……と。


 自らの世界で生み出せないのならば生み出す世界から略奪すればよい。

 しかしすでに七桁の格の差を持つベルティア世界にエリザの世界だけでは太刀打ちできない。


 だからエリザは自らと同じく伸び悩んだ取り巻きの神々に計画を持ちかけてグループを作り、日時を合わせて一気にベルティア世界へと侵攻を開始した。


 その数、およそ一万。


 エリザ達はベルティア世界に侵攻すると同時に他の神々を煽り、勝ち馬に乗る神々の数を増やしていく。

 同じように伸び悩んだ神々は自らの鬱憤を晴らすかのようにベルティア世界に侵攻し、耕した世界を食い散らかした。


 エリザ達に煽られ最終的に侵攻した世界は数億。

 すでにベルティア世界の転生者で対応できる数ではない。


 あまりに異常な大規模侵略にベルティアは戦闘に特化した竜などを投入したが焼け石に水だ。

 銀河が一つ食われ、日に四十桁ものレベルを減らしていく圧倒的な侵攻に世界の作り直しに等しい自らの大規模直接干渉を検討し始めた頃……


『余が世界を守るのじゃ!』


 ベルティアの従神イグドラが、ベルティアの世界に飛び込んだ。

 エリザの誤算はベルティアの為に身を挺して世界を守る神が居た事だ。


 イグドラシル・ドライアド・マンドラゴラ。

 ベルティアの下で世界を耕していた従神だ。

 植木鉢の住人である神になりたての小さな彼女が自らのレベルを力に変え、異界の侵攻を片っ端から潰して逆侵攻をかまして回ったのだ。


 小さくとも世界に存在し得ない力を持つ神である。

 侵攻した者達は神の援助を受けていても転生者。二十桁以上の圧倒的な格の違いに対抗できるはずがない。


 そして侵攻した神々にはイグドラのような者などいない。

 侵攻したのは自らが利を得る為であって犠牲になる気はさらさら無い。ベルティア世界を侵略した数億の異界はイグドラ一人の格落ちによって派手に駆逐されたのである。


 これが現在にまでベルティア世界に尾を引く三億年前の出来事だ。

 その後怒り狂ったイグドラ大好きマキナが侵略した世界に生贄世界を投げまくり、転生者に格落ちさせた神々数百。煽られて侵攻した神々はこれはたまらんとマキナに土下座で詫びを入れ、お前達のせいだと煽ったエリザとグループの世界に侵攻した。

 その侵攻はベルティアが止めに入るまで続き、エリザ達はギリギリ神として踏みとどまったのだ。


「あの、ところでイグドラ様はまだお戻りになられないのですか?」

「あー、困った事に性欲に目覚めちゃって。何しても実を作っちゃうのよね」

「えーっ……それは困りますーっ!」


 当初はエリザ達の苦悩を知った事ではないと放置していたベルティアだが、イグドラが色ボケしたと知ってからはエリザ達の世界を援助することに決めた

 何とか神の座に戻そうとベルティアが与えた力が全て性欲、つまり実を生す事に使われてしまうからである。


 エリザの世界が滅びてしまえばベルティアの世界が派手に食われる。

 せっかく助けた世界を食わせる訳にはいかないのだ。


「だからしばらく食べられてちょうだいね」

「うぅううう……早く、一刻も早くお願いいたしますうぅううう……」


 生かさず殺さず。

 イグドラがエルフに対し行っている事をベルティアもエリザ達に行っている。

 害した相手に親切に色々教えるのも自分とイグドラの為。

 神の世界はセコく、そしてえげつないのである。


 そして同時に思うのだ。

 はじめからエリザ達にアドバイスしておけば、こんな面倒な事にもならなかったな……と。

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