10.先輩は敏腕チートセールスマン
「エリックです。レベルは六十です」
「バードです。レベルは三十八」
「ウィランです。レベルは二十」
「十六」「八」「五」……
着物幼女がニコニコしている脇で気持ち悪い転生者達の履歴書類提出が続く中、ベルティアは引きつった笑顔で彼らの書類を受け取っていた。
マキナが連れてきた転生者は軒並み呆れた低レベル。
しかも前世は二十一桁の旧人類格とか二十桁の準旧人類格といったベルティア世界には存在しない高レベルの転生者達である。
ここまでひどい搾取チートはマキナの紹介以外では見た事が無い。
レベル五って何ですか一体?
二十一桁の旧人類格から一桁のウィルス格までどうやって搾り取ったんですか?
ベルティアの頭に疑問が渦巻く。
転生者のレベルを余す所なく搾り取る。
さすがの技術力である。
マキナは幾万と存在する生贄世界をチート世界として運用し、ジャンキー達に気持ち良いチートを提供する敏腕チートセールスマンだ。チート前の世界整備からプランの提案、実行、そしてレベルの回収までノウハウの蓄積が半端無かった。
「先輩、エルフ発展キャンペーンは五桁からになっているのですが」
「一万くらい補填してあげれば良いではありませんかまったくケチくさい」
「じゃあ先輩が「連れて来てあげた私にこれ以上の善意を払えと?」……はぁ」
くそぅセコい。やっぱセコい。
二十一桁のレベルをかっぱいで五桁返す気も無いとかさすがですね先輩……
請求は気前良く、支払いは渋る。
このがめつさこそが上位格神である。理不尽姫と揶揄されようがやった者勝ちなのである。
そして搾り取られた者達は、これまた爽やかな笑顔で談笑していた。
「いやぁ、俺ら今回も堕ちたなぁ」「エリックは六十余ったか。まだまだ甘いな」「つーかレベル五とか攻めすぎだろお前」「おかげで最期はレベル足りなくてチート発動せずにやられちった」「まぁレベル五じゃ何もできんわな」「ウィルス格だもんなぁ」
わはははははは……
呆れるほどの低レベル共が互いの健闘を称え合う。
転生チートでチキンレース。
これがチートジャンキー共である。転生を繰り返して稼いだレベルを一度の転生で一気に消費し俺つえぇを楽しむ阿呆共だ。
こつこつと貯めていくタイプのベルティアからすれば超もったいない。
せっかく稼いだレベルなのにと思ってしまうのであった。
「あぁ、せっかくの旧人類格が勿体無い」
ベルティアがぼそり呟く。
旧人類格というのは神々が初めて定義した人類格の事である。
レベルは一垓。二十一桁。
能力は高いが必要レベルも高すぎて使いにくい為ダウンサイジングが進められ、ベルティア他多数の神々が採用するレベル一億台、九桁のテンプレート種である人類格が定義された。
旧人類格はその名の通り古い人類格なのである。
ちなみに広く利用されるテンプレート種の定義に関わった神々は使用時に支払われるロイヤリティでウハウハだ。
ロイヤリティを支払っても良いくらい、生物種定義はすこぶる面倒。
ベルティアも挑戦した事はあるが、歪なものしか出来なかった。
……異界を顕現させなければ世界樹もなかなかの種なのですが。
と、ベルティアはため息をつく。
異界の大規模侵攻のあった三億年前にベルティアはテンプレート種を改造し攻撃特化型の種を定義したが、種としての持続安定性は致命的に悪かった。
改造種で実用に耐えたのは竜くらいだ。
それも種としてはずいぶん歪である。安定していたテンプレート種を攻撃特化にするあまり妙な種になってしまったと反省しきりのベルティアであった。
「レベルは使うものですよベルティア」
転生契約書類を記述しながらぼやくベルティアの言葉を聞いていたのだろう、にこやかにマキナが言う。
「投資は大きく、回収はがめつくです。どうせ彼らはジャンキーなのですからどこかでチートに引っかかります。ならば私が生贄世界で要望を満たしてあげようではありませんか。お望み通りの世界を作り、レベルを余す所無くかっぱぐのです!」
「「「「「さすが我らの理不尽姫!」」」」」
着物幼女にジャンキー共が土下座する。
いや、聞こえはいいけど身ぐるみ剥がされてるだけですからねあんたら。
私がイグドラで困ってなかったら次はウィルスですからね。
ベルティアはそう思いながら淡々と契約を完了させ彼らを転生させていく。
マキナはチートプランを提示し転生者と合意した後にチート転生を行いレベルを回収しているのだ。もはや商売。完全な合法チートである。
そしてベルティアは不評なエルフ転生者を大量に獲得できる。
だからベルティアに不満はあっても文句は無い。
ジャンキー共のエルフ転生は問題なく終わり、ベルティアはマキナに頭を下げた。
「先輩、ありがとうごさいました」
「他ならぬイグドラちゃんの為だもの。餌はいくらでも用意いたします」
「餌とか言わないでくださいよ」
衆目を集める上位格神の餌発言に転生者がまた離れていく。
ベルティアの涙目にマキナはふぅとため息を漏らした。
「相変わらず貴方は遊び心が足りませんねぇ……また足元すくわれますよ?」
「彼女達とは和解しましたから大丈夫ですよ」
「第二、第三の彼女達が「出て来ませんよもう」そういう所が堅苦しいのですよ貴方は……」
三億年前の事を言っているのだろう。
これでもマキナは心配しているのだ。
しかしベルティアももう独立した世界主神である。
問題は解決済みなのに心配されても困る。
マキナもそのあたりは承知しているのだろう、話題を変えてベルティアにすり寄ってきた。
「で、イグドラちゃんは? イグドラちゃんは元気?」
「元気ですよ」
マキナは昔からイグドラにご執心である。
イグドラが植木鉢にいた頃はニート三人組の如くベルティア宅に入り浸り、イグドラを愛でていたものだ。
ちなみにイグドラの方は鬱陶しい思っている。
先輩、ペットを構いすぎて嫌われるタイプですよね。
と、ベルティアは思いながら端末を操作して世界に根差すイグドラの姿を映し出した。
「あらぁ、相変わらず逞しい姿ねぇ。でもイグドラちゃんだから許しちゃう。早く戻っていらっしゃい。餌はまだまだたくさんあるからねーっ」
きゃーっ、きゃーっ!
歓声を上げながらマキナは端末にかじりつく。
だから餌とか言わないで下さいよと心で泣くベルティアであった。




