表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
105/176

105.ジャンク

本日二本目です。

 三月の陽光が降り注ぐ街道を俺たちは馬車を進めている。

戦闘地域へ出かけているという雰囲気はまだない。

俺の馬車の横に馬をつけて地球出身の勇者は大変ご機嫌だった。


「まさかもう一度スマホを充電できるとは思わなかったよ。捨てなくてよかった」


荷台に積んだポータブル電源ではゲイリーのスマートフォンを充電中だ。

この馬車の幌にはソーラーパネルも置いてあるので、これくらいのお裾分けなら問題ない。

スマートフォンのなかには大切な漫画やアニメ、画像がたくさん入っているそうだ。

ソーラーパネルを見た瞬間にゲイリーは土下座しかねない勢いで充電を頼んできた。

よほど見たいに違いない。


「スマホの中を確認できるのは1年ぶりだよ。もう一度僕のお宝たちに会えるなんて感無量さ」

「ゲイリーは何時こっちに来たの?」

「そろそろ1年2か月になるね」


結構な月日が経っているんだな。


「コウタはいつから?」

「いつからというか……」


俺は自分が召喚獣であり、日本とザクセンスを行き来していることを伝えた。


「オーマイゴーシュ!」


キラキラした目でゲイリーが見つめてくる。


「コ、コウタ……お願いがあるんだ」


まあ、そうなるわな。

地球に帰れる俺に頼みたいことは色々あるだろう。

同郷のよしみで大抵のことは叶えてあげていいと思う。


「言ってみて。犯罪行為じゃない限りなるべくきいてあげるよ」

「うん。と、とりあえず向こうのモノをいろいろ買ってきてほしいんだけど……ど、ど、どうしよう。いろいろありすぎて考えがまとまらないや」


そうかもしれないな。

1年もこっちにいるんだから欲しいものは色々あるだろう。


「じゃあさ、今晩の野営の時にでもメモを作ったら? ほら、これを渡しておくよ」


水性ペンとメモ帳を渡すと、懐かしそうな顔でゲイリーは受け取った。



 夕方まで行軍して、今日だけで45キロを走破した。

かなりハイスピードだったと思う。

馬たちが疲れないか心配だ。

出来る限り行軍してきたため宿場町は既に通り過ぎてしまった。

今日は草原の水場近くに野営する、


「ブリッツ、お前は疲れていないか?」


最近、俺たちと一緒にいられることが少なくなっていたクララ様の愛馬のブリッツはちょっとだけ機嫌がよさそうだ。

今日は一日中歩かされたが朝から晩まで皆と一緒にいられたからだ。

ブルブルいいながら俺に首を擦りつけてくる。

これはマッサージの催促だな。

この生意気なお馬さんめ。

すっかり味をしめていやがる。

だが俺のマッサージは更にレベルが上がっているんだぞ。

お前が知っているのはせいぜい黄金の指ゴールドフィンガーまでだろう? 

今の俺は神の指先ゴッドフィンガーを持つ男だぞ。

ちゃんと疲労も回復してやるからな。

スキルを使ってブリッツを癒してやったら思いっきり鼻面をこすりつけてきた。

よほどうれしかったようだ。

ブリッツはクララ様を乗せて走る馬だからいつでもコンディションは万全でいてもらいたい。


「お前は特別なんだからな」


首を撫でながら語り掛けるとブリッツは大きく頷いた。

こいつは賢いから俺の言ってることがわかっているのだと思う。


「クララ様を頼むぞ」


そう言うと胸を張るように首を上げて、当然だとばかりにいなないてみせた。



 日もすっかり沈んで辺りは暗闇に包まれている。

兵士たちは歩哨を残してそれぞれの天幕の中に引っ込んだ。

俺とハンス君はクララ様の天幕の前で見張り番だ。

中にはエマさんが一緒にいる。


「ハンス君、これを着るといいよ」


収納からダウンを出してあげた。

俺用だからちょっと大きいかな。

4月になったとはいえ夜はまだまだ冷える。

こんな時期にこんな場所で野宿だなんて会社の花見を思い出す。

新入社員の頃、場所取り要員として九段下で野宿をしたよ。

寝袋があったからまったく平気だったけどね。

山の上で寝るよりはぜんぜん寒くなかった。


「コウタさんが出してくれる服は本当にあったかいです。これって魔道具なんですか?」

「やめてくれよ。そんなこと言ったらハンス君のところのお嬢様に睨まれちゃうだろう?」


エマさんは長老派の信徒なので魔道具などの開発には否定的だ。


「すみません」


ハンス君が本気ですまなそうな顔をしてくる。


「冗談だってば。それにダウンジャケットは魔道具じゃないから安心していいよ」


エマさんの手前ハンス君は長老派の信徒ということになっているのだが、俺の見たところ本気で長老派に所属しているわけではないようだ。

考えてみれば俺もそうだ。

実家は浄土宗なんだけど積極的に浄土宗の教えを信じているかと問われると、そうとは言えないんだよね。

付き合いとか家族とか墓とかの関係でそうなっているだけとも言える。

あんまり厳しいことを言われても困ってしまうのだ。

南無阿弥陀仏で人が救われるっていう教えはわかりやすくて好きだけどさ。

しかも全ての人を救おうってところが恰好いい。

もっとも信じているかと問われると……どうなんだろう? 

困った時だけ信じちゃうタイプかな。

でも最近はイケメンさんの方にお祈りしちゃうかもしれない。

実際に会ってるしね。

願いをかなえてくれるかどうかは定かじゃないけど存在していることは知っている。


「コウタ。リストを作ってきたよ」


ゲイリーが俺のところへやってきた。

鎧をつけているが、インナーは薄くて寒そうだ。


「はいよ。ところでゲイリーは寒くないの?」

「僕は身体強化が使えるから暑い寒いはあんまり関係ないんだ」


さすがは勇者召喚。

召喚獣とはスペックがまるで違うんだな。


「勇者召喚っていろんな力を貰えるんだよね?」

「ああ。基本的な運動能力や体力なんかは地球にいた頃の50倍くらいになってるかもしれない。あと魔法も各種使えるよ」


凄いな。

魔法も複数使えるのか。


「これは他の勇者もみんな同じさ。僕の一番の特徴は『魔信』というスキルだね」

「魔信?」

「ああ。そこら辺にある木や石なんかをアンテナや通信機にしてしまう能力だよ」


それはまた軍部に喜ばれそうなスキルだ。

今回の戦闘では敗戦からの対応がやけに早いと感じたけど、ひょっとしたらゲイリーの通信機で前線の情報が送られてきていたのかもしれないぞ。


「そんなことよりリストを確認してくれよ」

「ごめんごめん……」


コウタに買ってきて欲しいものリスト

ピーナッツバター

スプレーチーズ

コーラとビール

スプレーホイップクリーム

ジェリードーナツ

「〇×△(漫画の名前)」4巻以降(英語版)

ポータル電源とソーラーパネルのセット

ジャンクなお菓子ならなんでも(できればポップコーン バターとキャラメルの2種類)



ジャンキーだな! 

ピーナツバターはわかる。

たぶん大丈夫だ。

次の奴がよくわからん。


「スプレーチーズって何?」

「知らないのかい!? スプレー缶に入ったチーズだよ。ボタンを押すとノズルからブシューっとチーズが出てくるんだ。ピザの上にかけると最高なんだぜ!」


チーズで一杯のピザの上に更にチーズですか。

さすがはアメリカだ。


「ピザだけじゃなくてホットドッグにかけるのも好きなんだ。1年の努力でこちらでもバーガーやホットドッグ、ピザなんかは作れるようになったけどスプレーチーズの独特の味は出せなくてね」


そ、そこは涙ぐむところなのか? 

いや、召喚されて1年以上、彼にとっては故郷の味なのだろう。


「頑張って探してみるよ。コーラとビールはすぐに出してやれるぞ」

「うう、ありがとうコウタ。とりあえずナマ」


さすが日本通だけあって、いうことが日本人臭い。

日本通というか日本痛ぽいけど。

それで、スプレーホイップクリームというのはチーズと同じでスプレー缶に入った生クリームだな。

これなら近所のスーパーマーケットで見たことがある。

あとはジェリードーナツか。


「ジェリードーナツってゼリーが挟んであるの?」


そんなのあったっけ?


「ジャムが挟んであるやつよ」


ほうほう、それがジェリードーナツか。


「そこにピーナツバターを追加すると最高だぜ」


最高に太りそうだ。

試してみたい気もするけど……。

漫画の英語版は洋書の専門店に行けば何とかなるだろう。


「できる限り頑張ってみるけど、俺もあんまり向こうにいってる時間が無いんだ」

「うん。できる限りでいいさ。お金はドルとマルケスどっちで払えばいい? ドルは47ドルくらいしかないけど……」

「マルケスでいいよ」

「それなら僕は億万長者さ!!」


勇者はなかなか儲かっているようだ。

次に日本に帰るのは当分先になる。

そのことをよく言い含めておいたが、ゲイリーの興奮はおさまらなかった。

とりあえずフライドチキンを食べさせておこう。

ビールとチキンでなんとか落ち着いてくれ。

あ……ダメだ。

今度は泣きながら叫び出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ