第1章 1話 記憶
周りからは様々な音と鼓動が全身に響き、暖かさが頬を撫でる。それと同時に締め付けられる胸、生きてるという絶望感。綺麗な朝日を受け止め、重たい目蓋をゆっくりあげていく。その瞬間鼓膜が破れんとばかりに揺れ、声の主たちが抱きしめて来た...。
「希!希!目が覚めたんだな!よかった!本当に、本当によかった」
「希ちゃん!希ちゃん...戻って来てくれた。」
鼻水と涙でグショグショな顔で誰かの名前を呼ぶ。全く知らない男性と女性に抱きしめられ考えるより先に口が動き、その言葉が二人を呑み込む。
「ごめんなさい...誰ですか?僕は...。」名乗る前に二人は動揺を隠せないのか、詰まりながらも必死に語りかけてくる。
「お、お父さんとお母さんだよ!希、忘れちゃったのか?希は正真正銘俺たちの娘だよ!」男性の言葉に違和感を覚えた...。
「すいません...鏡ってありますか?」母らしき女性が僕の手の甲に手を添え、手鏡を握らせる。僕は鏡に映る姿に驚愕し思わず悲鳴に近い声をあげ、言葉を続けて...。
「女の子になってる!?嘘でしょ!?」脳内で必死に情報整理するも、現状は理解出来ずベット上で放心する。意味不明な状況を打破する方法考え、出した答えは...。
リモコンを手に取り、電源をつけた。
液晶画面に映るニュースは、非現実的状況裏付ける。報道されていたのは、最近自殺をした匿名の少年。匿名で名前が分からないが、場所、時間帯、家族構成その他諸々が僕と一致していた。記憶はそのままで、何故か僕は此処にいる...。
死んだはずなのに...。
最期の日の願い事がフッと想い浮かぶ...。
今、目の前の男女が親と理解した上で聞きたい事がある。
「ぼ、私って病気?」体には痛みも外傷もなく健康そのものなのに、病院にいる事が不思議で仕方なかった。女性が僕の頬をそっと撫でながら微笑む。
「希ちゃん、あなたはね。2年も前に交通事故にあったのよ。だけど、あなたは大きな事故にも関わらず無傷だったの...。それなのに何故かずっと眠ったままで...今日あなたは目を覚ましたのよ。」
2年前の事故......ズキっ!!
こめかみに痛みが走る。痛みと共に記憶の引き出しが開かれた。2年前僕も交通事故に遭った事があり、2年より前の記憶が曖昧でよく分からない。しかし、ここ2年間の記憶は曖昧ではなく残っていた。
たしかその時も今みたいに病院で目覚めて、知らない人に...。
知らない人?親だったはず、学校に行っても何にも分からず浮いていて...。女みたいって言われたり、距離を置かれた事があったなあ...。いじめに嫌になって僕は...。