狼少女の雨の寒い夜
雨の朝、やはり異世界といえども雨が降るようであり、宴会後の朝は雨に見舞われた、二日酔いで頭を痛めるゲルトはその雨に濡れながら昨日酒を飲んでいた地面に附している、その姿は昼ドラの殺人現場のようであり、ゲルトに当たる雨は楽しげに弾けてはゲルと周辺を水たまりにしていった。
ある程度するとゲルトの顔付近に水たまりができ、流石に溺れてしまいそうだと濡れた腰を起こした、重さなどという概念はゲームにはなかったが、流石に濡れた装備、主に羽は重たく重心が狂い、足元がおぼつかない
「おらよっと!」
《ガン》
濡れたままでは寒いとようやく立ち上がり、周囲に雨宿りが出来る場所がないかと見渡すと、防水性の有りそうな服を着た兵士たちが大急ぎで道などに土のうを積んでいた、其処には昨日酒を飲んでいたベルリッヒが下半身以外の装備を脱ぎ捨て土のうを担ぎ歩いていた、
そう、今は戦時中なのである、幾ら街を占領したとはいえ、いつ王国軍が来るとは限らない、何と言っても王国軍の失態は放置すればするほど汚名が広がるのだ、幸いこの雨であるから今日の戦闘は避けるであろうが街の補強は急ぐものであった
「ベルリッヒさん、おつかれです」
「おお!、天使さん、雨に濡れてはなんだ、セラフィムバタリオン本部がここの道を真っすぐ行った所にありるから暖をとっていな」
「そんな、お手伝いしますよ」
ゲルトがそう言うとベルリッヒは慌てて止めた、ゲルトは何故だと思いながらも反抗はせず、素直に本部に向かうことにした
、雨に濡れながら道をゆくと、其処にはどこかの商人の屋敷であったであろう少々豪華なお屋敷があった、しかし屋敷の窓は全て鉄製の板が貼られ、ドアの前には兵士が4人ほど見張っている、その光景を見ればその屋敷が本部なのであろうということは安易に想像ができた
ドアの前の兵士たちはゲルトの姿に気がつくと少し小走りで近づいてきた
「さあこちらへ、温かい食事などがあります」
「ああ、ありがとう」
ゲルトは兵士たちに言われるがままに屋敷の中に入った、屋敷内は赤いカーペットにシャンデリア、さらに金色の飾りなどがある典型的なファンタジーの屋敷であった、屋敷内はほのかに暖かく、見回りの兵士たちが結構いるらしくそれなりに物音がすする、その屋敷の何もかもがゲルトからすれば珍しく、思わず周囲をキョロキョロしてしまっている、そのゲルトの姿を見て『何をやっているのだろうか』と言う疑問の目で兵士が見ているが、ゲルトはそれに気がつかない。
兵士に連れられ、部屋にはいると其処は少し大きめな部屋であり、丸いテーブルが4つほど並べられており、木製の椅子がテーブル一つに4つほど並べられていて数人の女中と休憩中の兵士、そしてミハエルが座っていた、部屋の中は暖が取られており、薪の燃える《パキ、ミシ》と言う音が鳴り響く、
ゲルトが入ってきたことに気がつくとミハエルはゲルトに向かって微笑みながら手招きをした、まあ顔も名前も知らない兵士か女中と同席になるならばまだ知っている人物のほうがいいとゲルトは迷いなくミハエルのいる、一番暖炉に近い席に座った
「凄い濡れてますね、風引いちゃいますよ」
そんなに濡れているかとゲルトは体を見渡した、まあ濡れている、服からは水が滴り落ちている、暖炉の熱で水分が蒸発し、自分の体からは湯気が出ているといえばどれほど濡れているかがよく分かるであろう。
「まあ、数分もしたら乾くし何とかなるでしょ」
ゲルトがそう言うとくすくすと手を口に当ててミハエルが笑う、その無邪気な笑顔にはゲルトだけではなく、周囲の表情も緩くなる、ゲルトはそんな笑顔を見ながらテーブルの薄味のポテトスープを飲み、暖炉を眺めた
暖炉の火と言うのは結構よく見たものだ、というのも冬になると毎年動画サイトで【薪を燃やす放送】がされており、毎年のその放送と熾天使世界のアップデートが重なるため、その放送を見ていたのだ、ついでに放送時期は毎年クリスマスのため、イブにゲーム、クリスマスに撒き燃やしというひどく残念な生活であったことも思い出し少し寂しくなる
そう思っているとミハエルは少し不思議そうに訪ねてきた。
「そう言えば、王国兵が一人も来ないのっておかしいですよね、幾らなんでも偵察兵の一人でもきて可笑しくないのですが、、、」
そう言われればそうである、攻めこむとまでいかずとも、偵察も着ていないと言われればおかしな話である、こんな大惨事、なにも起きないというのはある意味薄気味悪いものであった
「なんか、セレスが言うには、聖典議会っていう隣国同士の議会で揉めてるんじゃないかとは言ってたけど、こんな大事にすら出兵できないほどって、、、なんなのかな」
聖典議会、テレサレム法王国を中心に、聖王国、マレー帝国、グラセム連邦、サイアラム公国の5カ国に加え、四凶の鯱、傭兵団長キットの二人による世界最大規模の議会である、特に四凶と言われる神に近い存在の一人がいることで有名であった
教会のような内装の議場、ステンドグラスの光は怪しげに議場を照らし、円卓には議会参加者が座る、そして円卓に座る者達の後ろには各国の首相を守る兵士が円卓を囲んでいる
「緊急聖典議会招集にご参加いただき有難うございます、テレサレム法王国法王、プロタリアは心より皆様に感謝申し上げます。」
金色の髪に神官服の法王は表情を暗くして挨拶をした、というのもこの議会参加者は全員中は良くない、議会参加国の全ては【戦時中】なのである、つまり他と戦争をしている余裕はないのだ、そのため聖典議会にはある条約が結ばれている
――議会参加国の国境の兵力はピッタリ2万人用意し、それ以上もそれ以下も動かしてはならない
この条約は兵力を動かせないように固定し、お互いに警戒せずに住むようにするものであり、変動をなくし確実に誤魔化せないようにするものであった、さらに拘束力は高く、もし歯向かえば四凶と傭兵団が敵になるというものだ
そんな議会開催の理由は簡単である、セラフィムバタリオン、それは新たな戦力、この緊張した情勢においてこれほどの不安要素はなかった、通常は全議会兵力をもって叩き潰す要因である、速くしなければ手がつけられなくなる
「では私から、聖王国内では亜人共がセラフィムバタリオンと名乗り、1大隊ほどの戦力で旗揚げ、恥ずかしながらも街を占領されてしまいました、そこで討伐隊の招集、及び国境軍の一時兵移動の許可を頂きたい、ご賛同いただける方は挙手を」
聖王国の出した討伐隊編成及び国境軍の一時移動の提案及び許可、円卓の手は無論上がった、議員誰もがあげると思われた、しかし、数は
――賛成5名、反対1名、不参加1名(鯱)
全員が思わず法王を見た、しかし、よくよく考えれば法王国がこの提案を賛同できるはずがないのだ、法王国とは宗教国家、【天使降臨】が確認されれば絶対に攻撃などできないようになっている、6枚羽の天使、一瞬で消えた屋敷、更には神が相手とあれば四凶の動きも怖い、法王は脂汗をかきながら議員の視線を受け止めた
「法王、心中察します、無論貴殿の国の情勢も、しかしこのままでは下手すれば貴国も滅びます!!」
感情的に円卓に手をつく聖王国王、その腑抜けた顔からは想像できない迫力に周りは思わず圧倒された、しかし法王の考えは変わらない、否、変えられない、もし本物の天使出会った場合、攻撃したなどあれば革命騒ぎになり自国が滅ぶ
そんな問答を他の首相達は、表情にこそ出していなかったが内心笑っていた、そう、どちらかが自滅すれば嬉しいのだ、この議会はあくまで戦闘を避けるためのもの、勝手に滅ぶ分には自国には対して損害はない、むしろリスクの消滅と上手く行けば領土確保出来るぐらいにしか考えていない
結果として、法国が調査団を結成、セラフィムバタリオンを調査し、天使が本物であった場合は【自国単体での解決】をすること、と言う結果になった、無論聖王国に国境軍2万と戦争に使う兵力22万、それに加えてセラフィムバタリオンを即座占領する力などなく、天使が本物であった場合、本格的に厳しいこととなる
閉会後、聖王国国王の顔は暗く唇を震わせ、目に涙を浮かべる結果となった、調査実施日が4日後、その4日後までにどう最悪の場合そうするかを考えなければならないのだ、聖王国国王の眠れぬ夜がこの日より続いた。
セラフィムバタリオン本部二階、小さな部屋の中にセレスがいた、小さな机に紙を並べ、使わなくなった資料を後ろの暖炉に投げ入れた、彼女の隣には女のエルフ兵が立っている、彼女は今、今後どのように動くかの作戦を考えていた、彼女の立ち位置は副司令官というよりも参謀であり、その実力は、彼女一人で600人の価値があるとミハエルに言わしめるほどであった
「う~ん、まあ上手く行っているね、と言うかこの状況は想像以上過ぎて涙出る」
彼女の立てた作戦は、この街で籠城するのではなく、この後ゲリラ戦を行うことで聖典議会軍の動きを止め、戦争で疲弊したこの国をじわりと潰すというものであった、しかし今になって現状が変わったのだ
――天使の降臨
仮に彼が偽物だとしてもセレスにはどうでも良かった、羽があって膨大な武力があれば偽物だとは誰も思わない、そして武力は館を秒速でチリにするほど、まったく申し分ない役者である、
セレスには天使降臨の時点で聖典軍は出てこないのは分かっていた、当たり前だ、天使を攻撃するシスターなんてそうそういない、少なくともあの法王国にはできない、そして聖典議会に構造上、満場一致でなければ連合の部隊は編成されないということも知っていた
それならばここで籠城し、貴族を手中に収め、力を付けるほうが圧倒的に速い、しかも有利である、宗教狂いの貴族、王国嫌いの貴族、交渉次第で味方になる貴族なんていくらでもいる、戦争で疲弊した王国軍ごときでは籠城したセラフィムバタリオンは止められない
こんな状況に思わずセレスは頬を上げた、彼女の頭には王国を潰すことしか頭にない、その可憐な見た目に反し、心のなかは固まった血液よりもどす黒く、そして何よりエルフ特有の長寿で蓄えた知識量は何より強い武器であった
《コンコンコン》
「ベルリッヒだ、入っていいか」
「良いですよ」
ベルリッヒが部屋に入った、体は拭いたようであるが未だ少し湿っている、服装は布のズボンに白いシャツ、作業を会えた後だからか少し表情に疲れが見えた、彼は部屋にはいると暖炉の前に座り込み、暖炉に入りきらずに落ちていた紙を暖炉に入れた
「ところで、大丈夫なのか、今後」
ベルリッヒが心配そうに尋ねると、セレスは少し残念そうな表情でペンを顎に当てて、椅子を回し暖炉の方を向いてその問に答える
「大丈夫とは限らないけれど、後数日で来る調査団にあの天使が本物だと証明できれば恐らくうまくいくわ」
そう、絶対ではない、しかしもしも証明に失敗したところで、その場で殺して【神の国の使いを試すとは、無礼千万】などといえば時間稼ぎにはなる、手がないわけではない、
「ところであの作戦はミハエルに言わなくて良いのか?」
「ダメダメ、あれ以上あの子に働かせたら倒れる」
少々心配そうに尋ねるベルリッヒにセレスは即座に返答をした、今回の作戦、つまり法国調査団に対する作戦、それは大したものではない、特別難しいものでもなく、資料にすれば1枚程度のものである、しかしもしゲルトがいなくなるような事態になれば終了であり、現段階でセラフィムバタリオン内に出された命令は【天使ゲルトに絶対に無礼を働くな】である、しかし、ミハエルにはこの命令が出ていない、というのも今回の街の占領の作戦から今行っている街の補強まで、軍略面での作戦を考えたのはミハエルであり、その疲労と彼女の性格からして、これ以上の作戦支持は無理と判断されたのである。
そうした状況下の中、この雨の音が鳴り響く室内でセレスは事務仕事に励む、一つは天使の運用、天使は武力としてだけではなく、宗教が絡むありとあらゆる事情を有利にすすめることができるため、最初に天使の立ち位置などをシッカリと組む必要がある、次にセラフィムバタリオンの行動理念、元々【亜人、人外、死霊解放】が目的であるが、せっかく天使がいるのだ【天の使いによる平等化】のような感じのほうがよほど耳障りが良い、こういった理念等は受け取り方の印象が大事である
その二つの作業だけでも大変なのに加え、食料分配、武装状況、偵察隊の報告のまとめ、彼女の仕事はあまりに多く、机の上の紅茶は二桁台で継ぎ足している
セレスが机に向かい大量の資料に目を通し、その雑務を消化していると突然街の警鐘が鳴り響いた、セレスは思わず席を立ち上がり外を見る、後ろに座っていたベルリッヒはすぐに立ち上がり、外に走っていく、館内の兵は騒がしくなり、外にいた兵士は緊張感を持った顔付きで臨戦態勢に入る
現段階での襲撃は予想外であり、セレスの表情には困惑と焦りが見える、そうして不安げに窓の外を眺めると、雨の降る空のもと、真っ白な羽を6枚掲げる天使は宙を舞い、敵がいると思われる方向を眺めていた。
街中の警鐘が鳴り響いた、兵士たちはすぐさま臨戦態勢になり、ミハエルは兵士たちに命令をする、その姿はまさしく隊長であり、兵士たちはその命令に従い剣をとった、そんな中、ゲルトは空を飛んで周囲を見渡した、正門より少し西側に確かに人影が見えた、しかし雨のせいか若干見えにくい、数は100ほどであろうか
しばらくすると城門付近には兵士たちが馬防柵の後ろに並び、いつ敵が来ても良いようにしている。
ゲルトはポーチの双眼鏡を取り出し敵の姿を補足する。、その姿はローブ姿に尖った帽子、未だ高みの見物をするゲルトは少し下をうつむきながらなにか見たことがあると考えこむ。
その姿はゲームの【ユザーウィッチ】と呼ばれるMPCに非常に似ていて、ゲームのユザーウィッチはレベルが25で魔法攻撃をしてくる敵であった、ゲーム内では馬防柵などを用いた戦法は愚策とされていた、というのも確かに敵が全員近接であればいいが、後衛魔導職相手には一切の効果を示さないためである。
そうと気がついたゲルトはミハエルの元まで急降下した、その姿は急降下爆撃機を連想させるような降り方であり、その姿に一部の兵士は思わず見とれてしまう
「ミハエル!!、あれは魔法使いだ、馬防柵じゃなくて対魔法障壁じゃないと損害出るぞ!」
ゲルトがそう言うとミハエルは少し驚いた表情を見せた後、一気にその表情を震わせた、恐らく疲労による判断ミスに気がついたのであろう、彼女は急いで支持を伝えようと大きな声で叫んだ
「全軍!!、馬防柵の前に魔導障壁を貼れ!、敵は魔道士だ!」
《ザアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア》
しかし彼女の声は届かない、雨のせいで声が全然届かないのだ、今から指示を出したのでは間に合わない、そんな慌てふためく様子を見かねてゲルトは羽を揺らして宙を浮いた
「ああ、もう俺が何とかしてくるから」
ゲルトがそう言うと頼みますといった表情でミハエルが見つめる、ゲルトは四次元ポーチから対人武器を取り出し、カタパルトで発射されたように垂直に中を舞った、ゲルとの羽は速さについていけなく下を向く。
ポーチから取り出した武器は【狙撃銃・霧疾風】、レベルは30の武器でああり、ゲームではPKで使われることが多かった、ゲームの中では職種関係なく装備ができるが、その威力はレベル30以上には数発当てないと倒せず、40超えるとダメージにならない低火力武器であった、しかし、スコープによる索敵能力、ノックバックが付くため魔道士の詠唱阻害に一役買っていた。
ゲルトはある程度の高さまで行くとその場で静止して、スコープを覗いて敵がどのようなものかシッカリと見ようとした、ゲームであれば雨天時でも関係無かったが、やはりこの世界だと少々雨天時は見難い
とわいえ、射程距離内であるためゲルトはボトルを引いて狙いを定めた、その木製の銃は第2次世界大戦時のモーゼルkar98がモデルではあるが、その精度は明らかに現代の狙撃銃に匹敵する
《カシュン》
発砲時の乾いた音は雨の湿った空気に響く、すると敵の隊長のような立ち位置にいたウィッチが吹き飛んだ、ゲームであれば1mほどのノックバックだったのだが、明らかに3mは吹き飛んだためゲルトは驚く気を隠しきれなかった、しかも吹き飛んだウィッチは起き上がらない
「え、ちょ、まさか」
思わず声に出してしまう、こんな低レベルな武器でまさか死んでしまったのかと、この武器で死ぬということは魔道士だとしてもレベルは10以下である、その弱さには混乱を禁じ得ない。
そんな雑魚相手に貴重なアイテムを使用して戦うのは馬鹿馬鹿しいと、ゲルトは敵の方向まで一直線に降下した、その速度はかなり早く、正門から500mほどに敵まで10秒とかからなかった
6枚の羽をふわりと広げ、白い服は濡れても尚透けすらしない、高速で降下してきた天使を前にウィッチ達は思わず数歩後ろに下がった、紫色の魔道士装備にゲームで言う所の檜の棒程度のやっすい武器、その上霧疾風でやられるほどのレベル、弱すぎで話にならないとゲルトは数歩前ににじり寄り、彼らに敵意の有無を一応訊いた
「貴様らは何をしに来た」
そう言うとウィッチの中のひとりが声を震わせながら答える、先ほどの銃撃でかなり驚いているのであろう、その声には覇気が感じられない
「わ、私たちはエルフの血を取りに来たんだ!!、魔道士にとってエルフの血は高級品、あの街に攻め込めば大量に取れると思ったんだ!!、い、いいだろ、エルフごときいくら死のう」
《ザシュ、ガガガガガガガガガガガガガガ》
ウィッチの言葉が終わる前にゲルトは腰の後ろにかけてある二つの短剣をウィッチに突き刺し,そのまま地面に叩きつけた、短剣の名前は【春月】【春風】、二つ合わせて【春疾風】、疾風装備の中でも名器とされる剣、レベルは30ほどだが、強力なノックバックが付く装備であり、魔道士、商人などの後衛職は必須武器であり、レベル290代のプレイヤーにも愛用されていた
ゲームであればノックバック付与の武器で壁や地面に叩きつけた場合、連続ダメージになるだけであった、しかしこの世界でそれをやると地面に押し付けられた体はまるでとれたての魚のよう跳ね上がり、体はどんどんと肉片に変わっていく、その姿に他のウィッチ達は恐怖で思わず逃げ出そうとする、しかし相手は天使、真っ赤に染まった天使相手に逃げ出しても無駄だと悟り思わずその場に座り込む
「うっわ、、、」
しかしそんな状況でもっとも驚いていいたのはゲルト本人であった、その肉片に変わりゆくウィッチだが、ゲルトはそれを意図してやったわけではない、まさか地面に押し付けたらノックバックし続けて肉片になるとは思わなかったのだ、
そして慌ててもはや死を待つだけだと這いずるウィッチ達だが、少しすると何かを思い出したかのように後ろの馬車から鎖を引いた、鎖の長さはそう長くはなく、馬車の荷台からは無気力に少女が引きずられてゲルとの前に投げ出された、赤と青のマーメイドドレスに赤みがかった白い髪の毛を腰上まで伸ばし、金色の瞳を輝かせ、犬のような耳を垂らしている、ゲルトは最初獣人族かになかと思った
しかしそれは違うと気がついたのはその少女が立ち上がってすぐの出来事である、その少女の表情が険しくなると、青白い煙が立ち顔が狼のように変形した、【ヴェアウルフ】、ゲームで言えばレベルは40ほどの魔物、弱点以外は全て耐性がある事で有名な種族であり、攻撃力こそ低いがこの種族でプレイするプレイヤーも多数存在した
《ガチャ》
ヴェアウルフは拳を握りしめ、こちらに構えを向けた、その姿は非常に寂しいものであった、ヴェアウルフは盾職のはず、通常であれば後ろの魔導部隊が魔法を使えばそこそこの火力になるはずだというのに魔道士は一目散に逃げ出した
《ドガン!!!!!!!》
そんな逃げ出す魔道士に気を取られていたゲルトは隙をつかれヴェアウルフの攻撃をまともに食らう、仮にゲルトの職業がナイトであればよかったのであろう、しかし商人にとっていくら低レベルとてそのダメージは普通に大きく、思わず10mほどゲルとは吹き飛んだ、彼にとってはこの世界で初のダメージである
「うーん、やばいな」
ゲルトは思わずつぶやく、というのもレベル40ほどの相手を前にゲルトの敗北はありえない、何と言っても熾天使世界の近接はプレイヤースキルに依存する、避けるのが上手いゲルトは油断しなければまず攻撃が当たらない、しかし、セラフィムバタリオンは人外種解放軍、ここでヴェアウルフを殺すことは流石にまずい
では、説得するかというとそういうわけにもいかない、ヴェアウルフの目は焦点があっていない、先程から言葉もはっしない、その姿は明らかに異常であり、精神異常の魔法、または薬でも使われていることが予想された、
「はぁ、、、独身の重課金玄人ゲーマー舐めるなよ!!」
ゲルトは一言漏らすと腰に剣を戻して拳を握った、その表情には若干の不安と自信が入り交じる、かくしてゲルトのこの世界初のまともな戦闘が遂に始まった。