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天翔ける宙(そら)の彼方へ  作者: 早秋
第2部第4章
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(5)保留

 ナウスリーゼとの会話は、その後も少しだけ続いていた。

 といっても話していた内容は、大した内容ではなく、以前の世界での日常のとりとめもない話だ。

 ナウスリーゼは、あの世界の日本で生み出された神といっても過言ではないので、やはり日本での生活も気になっているようであった。

 カケルとしても、久しぶりに日本でのことを話せてすっきりとした気分になっている。

 あるいは、カケルがそうしたものをため込んでいると考えて、ナウスリーゼがこの場を設けたのではないかと思えるほどに気分が良くなっていた。

 

 以前の時よりも少し長めに話をしてから、ナウスリーゼがその場から消えていた。

 それを見送ったカケルは、東屋を離れて、先ほど通ってきた出入り口へと向かう。

 そして、クロエたちが待つ部屋へと入ったカケルは、思わず入り口の手前で立ち止まってしまった。

「――――ええと……何、この空気は?」

 クロエとカリーネの間に漂っている微妙な空気を感じたカケルは、少しだけ顔を引き攣らせつつそう切り出した。

 出来ればそのまま気付かなかったふりをしておさらばしたいところではあったが、残念ながらそういうわけにもいかなかったのだ。

 

 カケルの問いに、クロエがニコリと微笑んでから言った。

「カリーネ様がカケル様にお話があるそうです」

 そう言った笑顔に怖い圧力ものを感じながら、カケルはうむと頷いてカリーネを見た。

「それで? 話とはなんでしょうか?」

 この場には、自分たち以外にも神国の関係者がいるので、カケルはあまり砕けた口調にはしていない。

 

 そのカケルに、カリーネは極上の笑顔を浮かべながら言った。

「はい。それは、私がカケル様のお傍に仕えることについてです」

 そのカリーネの言葉を聞いた瞬間、カケルは顔をひきつらせた。

「い、いや、ですからそれは以前から……」

 断っていると続けようとしたカケルを、カリーネは首を振ってとめた。

「はい。以前に会ったときならその答えでもよろしかったと思うのですが、今は本当にそうでしょうか?」

 小さく首を傾げながらそう聞いて来たカリーネに、カケルは言葉を止めてしまった。

 

 『天翔』が外部と一切の関わりを持たずに、完全に鎖国(?)した状態であったならば、カリーネの言葉は冗談だといって躱し続けることが出来た。

 ただし、現在の『天翔』は、少なからず外部との接触を行っている。

 しかも、ほかならぬカケル自身の行いによって、それは起こっている。

 『天翔』だけではなく、カケル自身の能力も徐々に知れ渡るようになっている今、このまま好き勝手に過ごすのは難しくなっている。

 ……と、考えられているだろう。少なくとも、『天翔』関係者以外の国々では。

 

 ところがどっこい、カケル自身はそう思われても構わないと考えていた。

 『天翔』に集められている各国の戦力データを見ても、さらには、この世界での技術レベルを見ても、『天翔』が負ける要素はどこにもない。

 それは、『天翔』以外のすべての国が団結して、『天翔』に襲ってきたとしてもだ。

 それほどまでに、『天翔』と他の国々の間では戦力の差があるのだ。

 そんな状態なので、別に無理に他国の要求を聞く必要はないのである。

 

 ただし、直接的な戦力とは別の問題が、今回の件で出てきてしまった。

 それが何かといえば、ナウスリーゼ神からの要請によって、『天翔』の本部に直接話ができる場所を設けるという話である。

 別にカケルは、その場所のことを外部に漏らすつもりはないが、何かあったときのためにナウスリーゼ神との繋がりがあることを外に伝える手段があるに越したことはない。

 それは別に、直接的な力(武力)でなくとも、可能性として起こり得ることだ。

 そうしたことを考えれば、巫女であるカリーネとの繋がりがあればいいのは、紛れもない事実であった。

 

 そんなことをひとしきり頭の中で考えたカケルは、少しの間を空けてからカリーネに答えた。

「その話は、少し考える時間をもらえませんか?」

 カケルのその答えを聞いて、周囲の者たちが少しだけ騒めいた。

 これまでは、けんもほろろの対応だったのだから、そのカケルの変化に驚くのも当然だろう。

 ただし、カリーネはその答えを予想していたのか、ニコリと笑って言った。

「はい。私はいつまででもお待ちしております」

 それはそれで重いんだけれどと思いつつ、カケルはそれを口にも顔にも出すことはなく、ただ黙って頭を下げた。

 この場で即答できなかったのは痛いが、だからといってすぐに決断できるようなことでもない。

 

 とりあえず、カリーネへの返答は保留となったところで、今回の神国の中央への訪問は終わりとなった。

 カケルにとっては大きな事案が二つできてしまったが、どちらも下手に扱うことができない問題である。

 まずは、そのうちの一つを解決するために、カケルはベルダンディ号に乗り込み、『天翔』本部へと向かうのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 ウルス号には、カケルの為に用意された私室が幾つかある。

 ウルス号が改装されるたびにそれらの数は増えて行っているのだが、その中には誰にも知られていないような部屋もある。

 その中には、人の手が入らずに、疑似精霊であるウルスが直接建設した場所もあるのだ。

 カケルがナウスリーゼ神を呼ぶために選んだ場所は、そうした部屋のうちの一つだった。

 その部屋の管理は、完全にウルスの管理下にある精霊たちが行っているので、クロエにも知られていない。

 そのため、ナウスリーゼが降臨(?)するためには、最適の場所なのだ。

 

 そんな秘密の部屋に入ったカケルは、ナウスリーゼから帰りがけに渡された道具を取り出した。

 ナウスリーゼは、その道具の一部分に触れて話しかければ、あとは任せてほしいと言っていた。

 そして、カケルが言われた通りに触れて話しかけると、突然その部分が光り出した。

「うわっ!? なんだ、これは?」

 思わずそう声を出してしまったが、返事が返って来ることはなかった。

 

 その代わりなのかどうなのか、光が収まったあとの部屋に、一枚の手紙が置かれていた。

 その手紙は、カケルが部屋に入ってきたときには無かったものだ。

 手紙に気付いてカケルがそれを黙読すると、差出人がナウスリーゼであることが分かった。

 そこには、手続きが上手くいったことが書かれており、今は忙しくて会えないということまで謝罪と共に書かれていた。

 

 その文面を見て、律儀な神様だと苦笑をしたカケルは、その部屋を後にするのであった。

保留二件。

内一件無事消化。

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