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天翔ける宙(そら)の彼方へ  作者: 早秋
第2部第4章
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(4)カケルとナウスリーゼの疑問

 しばらく感心していたカケルだったが、ふと思い出したようにナウスリーゼを見て聞いた。

「私としては構わないのですが、本当によろしいのですか?」

「あら? なにがでしょうか?」

「これまでは、神国だけに出ていたのではありませんか?」

 ナウスリーゼが『天翔』の本部にも出てこれるようになると、神国の優位性が失われることになりかねない。

 そのせいで、今は着かず離れずの関係を保っている神国との関係が崩れるかも知れない。

 あるいは、『天翔』を神国の関係がそのままであっても、周囲からはまた違ったものとして映るだろう。

 それが、カケルには不安要素のひとつでもあった。

 

 そんなカケルに、ナウスリーゼは小さく笑ってから答えた。

「大した問題ではありませんよ。そもそも、私が直接降臨していることは、神国でもごく一部の者しかおりませんから。外で話されているのは、あくまでもかもしれない(・・・・・・)という可能性だけですし」

 実際には本当に降臨しているのだが、それを確定する証拠は、神国はまったく出していない。

 ナウスリーゼの降臨のことに関しては、神国の表向きの立場は「肯定も否定もせず」なのだ。

 そんな状態で、『天翔』にナウスリーゼが降臨することになったとしても、大きな影響があるわけではない。

 それに、ナウスリーゼもカケルも、『天翔』の本部に降臨することについては、表に漏らすつもりはない。

 クロエやミーケ辺りは気付くかもしれないが、それもあくまでも「かもしれない」であって、確証を得たものではないのだ。

 そんな曖昧な情報を、クロエたちが外に漏らすはずがないのだ。

 

 ナウスリーゼの返答に、カケルはなるほどと頷いた。

 カケルの心配は、ナウスリーゼの降臨という優位性を失った神国が、余計なことをしてくるかもしれないという事だった。

 だが、その不安は、一応ナウスリーゼの言葉である程度は抑えられた。

 完全になくなっていないのは、別にナウスリーゼを信頼していないわけではなく、あとから余計なことを考える輩が出てくる可能性もあるからだ。

 そんな先のことまで考えていては、何もできなくなってしまういので、カケルはその程度の不安要素は無視することにした。

 

 

 先ほどナウスリーゼは、自身が降臨する理由として後ろ盾になるという建前を語ったが、それはあくまでも表向きの理由でしかない。

 本音は、やはりカケルとあの世界の話をしたかったという思いが強い。

 というわけで、早速とばかりにナウスリーゼは、この場でその話を出すことにした。

「ところで……あちらにあった『ゲーム』というものは、こちらでは再現できないのでしょうか?」

 これまた微妙な話題を出してきたなと、カケルは内心で苦笑していた。

 カケルからすれば、ナウスリーゼはそのゲームの登場人物(神?)でだったのだ。

 今でこそこうして現実に存在する者として話をしているが、それに対する違和感がまったくないわけではない。

 もっとも、その違和感は悪いものではないのだが。

 

 そんなカケルの思いを見抜いたのか、ナウスリーゼは小さく微笑みながら続けて言った。

「私がゲームの登場人物であることを気にされているようですが、それこそ気にされるだけ無駄ですよ?」

 あっさりとそう言い切って来たナウスリーゼに、カケルは首を傾げた。

「――というと?」

「そもそもあちらの世界……というか、少なくとも日本という国では、創作物が神になることなど日常茶飯事ではありませんか」

 日常茶飯事というのは多少大げさではあるが、確かに日本ではありとあらゆるものが神となっていた。

 それは自然現象から、そんな物までと首を傾げるようなものまで、様々だ。

 そんな中で生まれた女神としてのナウスリーゼは、作り物(ゲーム)の中での神だったことに対する特別な思いはなにもない。

 敢えていうなら、むしろ生み出してくれてありがとうという感謝の想いがあるだけだ。

 

 コロコロと笑いながらそう言ってきたナウスリーゼを見て、カケルはそんなものかと思った。

「確かに、言われてみればそうかもしれませんね。それから、先ほどの問いの答えですが…………今すぐは難しいというのが答えでしょうか」

 単純にゲームというだけであれば、リバーシや将棋など、それこそ地球上でも遥か昔から存在していたものがある。

 ただし、『ヘキサキャスタ』のような高度な技術に支えられたゲームを作るのは、そう簡単に出来るわけではない。

 少なくともカケルひとりで考えて創り上げるのは、ほぼ不可能といっていいだろう。

 それをするには、基礎的な技術がこちらの世界にはまったく存在していないのである。

 

 カケルの答えに、ナウスリーゼはある程度予想をしていたのか、あまり残念そうな表情を浮かべずにただ頷いた。

「やはりそうですか。あのシステムは中々面白いと思ったのですが……」

 ナウスリーゼの言葉に、カケルは首を傾げた。

 女神がゲームに興味を示すのは不思議ではないが、ナウスリーゼからは、それだけではない何かを意図しているように感じたのだ。

「システム……ですか。ゲームそのものではなく、あれ自体を何かに使うつもりですか?」

「ええ。あれでしたら危険なくカオスタラサ探索の訓練を出来るようになると思いませんか?」

「……ああ、なるほど」

 ようやくカケルは、ナウスリーゼが何の目的でゲームを作ろうとしていたのかを理解した。

 要するに、実際にカオスタラサを探索する前の訓練装置として利用しようとしていたのだ。

 

 何度か頷いたカケルだったが、少し残念そうに首を左右に振った。

「ですが、同じものを作ったとしても、私のような者が出来るかは疑問ですよ?」

「そうなのですか?」

「ゲームは所詮作り物でしかありません。勿論、現実さながらの訓練をするという意味では使えますが、あくまでも仮想バーチャルでしかありません。そこで訓練をしたとしても、どこまで身に付くかは……疑問ですね」

 勿論、あちらの世界にも、シミュレーターを使って訓練をするという事は、いくらでも行われている。

 そのため、まったく役に立たないとは言わないが、それが即現実に役立てるとなると疑問である。

 だからこそ、飛行機のパイロットなども、シミュレーターでの訓練ではなく、現実の飛行時間が重視されていたりするのだとカケルは考えている。

 

 カケルの説明に、ナウスリーゼはなるほどと頷いていた。

 この辺りの感覚は、世界さえ想像することが出来るナウスリーゼだからこそ感じる差なのかもしれない。

「安易に考えすぎましたか……」

 そう言って反省するナウスリーゼに、カケルは首を振った。

「いえ、そこまで言うほどでおありません。実際ないよりはあったほうがいいことのは確かです。……ですが、それに手をつけるには、膨大な人手と手間がかかりますから、ちょっと遠慮したいですね」

 それは、カケルの掛け値なしの本音だった。

 今からコンピュータのような物の基礎理論から考えて、ゲームを作るとなると、とんでもない労力がかかる。

 全てをカケルが考える必要はないにしても、手間がかかるのは確かだった。

 

 出来れば遠慮したいという思いが顔に出ていたのか、ナウスリーゼは少し慌てて手を振っていた。

「いえ、すみません。別にカケル様に押し付けるつもりはなかったのです。簡単にできればいいなと考えていただけで……」

「そうですか」

 ナウスリーゼの言葉に、カケルはホッと安堵のため息をつくのであった。

コンピュータもなにもないのに、一からゲームを作るとなると、とんでもない労力がかかりますよね……。

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