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天翔ける宙(そら)の彼方へ  作者: 早秋
第2部第3章
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(10)初依頼終了

 カケルは、掲示板に貼られた依頼を見ながら一つのものを手にとった。

 それは、ロイド王国内で見つかっているカオスタラサで、とある資源を取って来てほしいというものだった。

 最初にその依頼を選んだのは、掲示板システム(?)を作るために尽力したであろうライザー王のことを考えたというのもある。

 だが、それよりも、必要な資源を与えて技術の底上げにつながればということもある。

 資源を取ってくれば、全体のレベルが上がって、技術レベルも上がるだろうという多少迂遠な方法ではあるが、カケル自身の目的ともあっている。

 

 そもそもカケルがこの世界全体のレベルを上げようとしているのは、ひとえに『天翔』の技術レベルを上げるためである。

 一つの組織だけで固まって研究を続けていれば、間違いなくどこかで壁にぶち当たる。

 新しく見つかったカオスタラサで、新しい資源を見つけて、新しい技術をブレイクスルーするというのも一つの方法ではあるが、それ以外にも方法はある。

 それが、他の組織が見つけた技術を使うか、あるいはそれ以上に発展、魔改造を行うということである。

 ただし、それをするためには、ある程度基礎的な考え方を持っていないといけないのである。


 今のこの世界は、カケルから見れば、どこか歪な感じがして、それを修正したいと考えている。

 勿論、カケルの考えが歪であり、こちらの世界が正常だという見方もあるだろう。

 だが、それに関しては、カケルの我が儘を通すつもりだった。

 もし、それが駄目であれば、どこかで邪魔が入るだろうし、何よりも一番邪魔しそうな存在ナウスリーゼは、そんなことになる前に、カリーネ辺りを通して警告してくるだろう。

 もっとも、ナウスリーゼは、既にカケルの考えをわかっているはずなので、今更邪魔をするはずがないとも考えている。

 神であるナウスリーゼが、その程度のことを見抜いていないはずがないというのが、カケルの考えであった。

 

 この世界のレベルを引き上げることでカケルが一番期待しているのは、疑似精霊の分野に関してである。

 疑似精霊は、育て方というものがそれぞれで違っているので、癖というものが出やすい。

 そのため、『天翔』内で作られる疑似精霊は、どうしても似たようなものができてしまうのだ。

 新しい世界の国で、それぞれ違った作り方(育て方)をしたものを見た時に、新しい発見があるかも知れない。

 それが、カケルの期待していることなのである。

 

 

 というわけで、カケルは早速依頼を達成するために、ロイド王国へと向かった。

 目的の資源が見つかっている場所が、ロイド王国内にあるカオスタラサなので当然だ。

 ペルニア周辺にあるロイド王国に向かうためのルートを通ったベルダンディ号は、ロイド王国内に入ることに苦労することはなかった。

 既にベルダンディ号のことが知られているのか、それとも依頼のことが通達されているのかは分からなかったが、検問的なものもほとんどなく通ることが出来た。


 カケルとしては楽でいいことだが、それでいいのかと思う部分もなくはない。

「この国の防衛体制はどうなっているのかね?」

 わざとらしくしかめ面を作ってそう言ったカケルに、クロエがクスリと笑いながら答えた。

「どうやら私たちが特別扱いになっているようですね」

「へえ。そうなのか」

「はい。現に他の輸送艦などは、しっかりと検問を受けているようですから」

 クロエがそう言いながら画面の一部を指すと、カケルの納得顔で頷いていた。

 その画面には、確かに検問らしきものを受けている船が行列を作っているのが見えた。

 

 その様子を見ていて、カケルはふと今更ながらに疑問に思ったことがある。

「そういえば、この世界の検問ってどうなっているんだ?」

 カケル自身は、これまでほとんどをダナウス王国内で過ごしていて、神国に渡ったときも特別扱いだった。

 そう考えれば、まともに検問を受けたことが無いのだ。

 ゲーム内では、『検問を受けている』という表現で済んでいたが、実際はどうやっているのか、多少不思議なところではあった。

「それは――」

 カケルの疑問に、クロエがこの世界での内情を話し始めた。

 話の内容としては、結局のところ、カケルが知る日本での国外から来る船の輸送とほとんど状況は変わらなかったのだが。

 

 意外なところで現実的な話を知ったカケルだったが、恐らく今後も自身がまともに検問を受けることはないだろうと思っている。

 もしあるとすれば、完全に身分(?)を隠して移動するときくらいだろう。

 その予定はいまのところないので、結局今後もないと言える。

「そういうことか。まあ、ほとんど関係ないからいいか」

 そう結論付けたカケルに、クロエやミーケもそれもそうだと頷いていた。

 カケルが関係ないということは、二人にとっても無関係ということになる。

 

 

 そんな会話をしながらベルダンディ号は、ロイド王国内を進んで行った。

 国内に入っているからといって、ライザー国王と話をするようなことはしない。

 今はあくまでも依頼の遂行中であり、王国のトップと『天翔』のトップの話し合いの場ではないためだ。

 もしこの依頼がそのようなものであれば、カケルは速攻で断っていた。

 もしかしたらそういうこともあるかと予想していたカケルだったが、どうやらその心配は杞憂に終わりそうだった。

 

 ちなみに、ロイド王国内での補給も軍港を利用することになっている。

 何だかんだ言いつつ、軍港は大抵の場所にあるので、カケルとしてもあり難いのだ。

 ベルダンディ号のことを探られることはあるかも知れないが、少なくとも外観から分かるようなことは、大したことではないので問題ない。

 むしろ、それだけで技術の全てを推測できるのであれば、大したものである。

 その程度のことで技術が盗まれるような造りはしていないのだ。

 

 そのベルダンディ号は、今回は一番近い軍港でお留守番となる。

 依頼の場所がその軍港から一度のルートを通るだけで行ける場所にあるためだ。

 わざわざベルダンディ号に戻って補給する必要が無いのである。

 

 ベルダンディ号からテミス号に乗り換えたカケルは、そのままルートを使って目的の場所へと向かった。

 その場所は、多くのヘルカオスが徘徊しているところで、まさしく危険地帯といった所だった。

 その場所をテミス号は、何事もないかのように進んで行った。

 これが、隠蔽の技術を最大限に高めた効果である。

 少なくともこの場所に出てくるヘルカオスでは、発見することが出来ないくらいに、今のテミス号は隠蔽されている。

 さながら光の届かない海の中をほとんど無音で進んでいる潜水艦のようなものだ。

 

 ペルニアにある技術でこのくらいのことは出来るので、本来であればこの世界の冒険者も同じことが出来るような者がいてもおかしくはない。

 それなのに、わざわざカケルに依頼をしてくるということは、テミス号のような機体が使われていないということになる。

 まずはこうした依頼をこなしていくことで、その辺りから世界に乗船技術を広めていこうとカケルは考えている。

 

 結局、依頼事態は特に大きな問題が起こることもなく、無事に資源を渡して終わりとなった。

 わざわざ他の資源を盗っていくような真似もしていない。

 まあ、別にカケルが依頼以外の資源を持ち出したとしても、文句を言ってくるようなことはないとわかっているのだが。

 それが、カオスタラサ内での発掘を行うものに与えられた権利でもあるからだ。

 カケルが依頼品以外を持ち帰らなかったのは、周囲にめぼしい物が無かったからというのもある。

 そんなこんなで、初めての全世界掲示板(?)依頼は、終了となったのであった。

タイトルの「初依頼」というのは、あくまでもペルニアの屋敷にできた掲示板の依頼ということです。


これで第二部第三章は終わりになります。

次から第二部第四章になります。

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