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天翔ける宙(そら)の彼方へ  作者: 早秋
第2部第3章
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(8)ライザー国王との会談

 ロイド王国のライザー王との通信会談は、全ての準備をダナウス王国に任せたわけではない。

 別に政治的な交渉を行うわけではないが、それでも他国に任せてしまっては、何を仕込まれるかわかったものではないためだ。

 例え会話の内容が一般的なものであっても、ダナウス王国がすべてをお膳立てしたというのと、仲介した程度というのでは、大きな開きがある。

 前者にさせないために、ダナウス王国以外の組織や国家を絡める必要があった。

 

 今のところ『天翔』の意をある程度汲んで動いてくれる国家は、ひとつしかない。

 それに、神国としても、全てをダナウス王国に握られては面目が立たない。

 そのため、両者の思惑が一致したうえで、神国が口を挟んで、その存在をアピールしていた。

 もっとも、そんなややこしい政治的な思惑が無くても、神国であればカケルの意を汲んで動いてくれただろう。

 ただし、それをすれば、今度は『天翔』が神国に対して借りを作ってしまうことになるので、今回はお互いに政治的な思惑で動いたということにしたのである。

 

 

 相手が一国の王だからこその面倒なやり取りを経て、カケルはようやくライザー王との対面を果たしていた。

 ライザー王との通信は、ダナウス王国の王城内で行われているため、当然ながら周囲には王国関係者が見守っている。

 他には、『天翔』の関係者が、カケルの護衛も含めて十数人立っている。

 この状況は、当然ながら相手のライザー王にも伝わっている。

 そんな状況では話せないと向こうが言って来れば、これ幸いと会談自体を断ろうとカケルは考えていたのだが、残念ながらそう上手くはいかなかった。

 

 通信機越しに見るライザー王は、一言でいえば闊達豪放といった印象を受ける相手だった。

 獅子の獣人であると事前に聞いていたが、たてがみが生えているというわけでもなく、見た目はほとんどヒューマンと変わりがない。

 ただし、その性格が反映しているのか、まっすぐにカケルを見てくる金の瞳は、持ち主の意思の強さを示すかのように、力強さを感じさせるものだった。

 色々の方面から催促をされて、今回のカケルとの会談を申し込んできたはずだが、少なくとも通信機に映っているライザー王はそんなことは欠片も感じさせることはなかった。

 

「おう。お前が『天翔』のトップか」

 とても一国の王とは思えない一言目に、カケルの後ろにいた『天翔』の者たちがザワリとしていた。

 それとは対照的に、ダナウス王国関係者の中には、頭を抱えるような者までいた。

 それらの反応を横目で見ながら、カケルはさほど悪印象は持っていなかった。

 どちらかと言えば、ライザー王から受ける印象で、丁寧な対応をされたほうが違和感を覚えたかも知れない。

 聞きようによってはぞんざいな態度を取っているライザー王だが、身にまとっている雰囲気のお陰で、カケルはむしろ似合っていると感じたのである。

 

 そんなことを考えていたカケルに、ライザーはさらに続けて言ってきた。

「この話し方は勘弁してくれ。丁寧なしゃべりは、どうにもむず痒く感じるからな」

 ここで、普通であれば苦言を呈したりするのだろうが、カケルは微笑を浮かべながら首を振った。

「いいえ。こちらとしても、変に気を使われるよりははるかにましです」

「ホウ」

 カケルの返答を聞いたライザーは、目を細めながら見て来た。

 通信機越しではあるが、その眼力には、カケルの言葉の真意を見抜こうという意図が感じられた。

 

 その視線に気付きながらも、カケルは小さく肩を竦めながら続けた。

「どうせお互いに監視がついていて秘密の話は出来ないのですから、気取った言葉使いをする必要もないでしょう」

 カケルがそう言うと、ライザーは豪快な様子で笑い出した。

「ガッハハハ。なるほど、確かにその通りだな!」

 その気持ちのいい笑い方に、カケルも小さく笑みを浮かべていた。

 

 様々な思惑が絡んだうえでカケルとの会談に望んでいるはずのライザーだが、少なくとも今のやり取りからは、彼自身が何かや誰かに操られているという印象は受けなかった。

 勿論、一国の王という立場に立っている以上、演技をすることは一流と言っていいはずだ。

 もしそうだったとしても、これだけのやり取りで『天翔』が不利になるようなことはない。

 第一印象が良くなったということは人間関係に置いては非常に重要だが、それは国家間でも同じなのだ。

 

 

 まずは軽い挨拶を交わした両者だったが、国のトップ同士の会談がそれだけで終わるはずもない。

 笑いを収めたライザーが、カケルを見ながら早速本題に入った。

「前置きは面倒だから省かせてもらうからな。それで、本題だが、お前さんがやっている冒険者としての活動、他に手を広げるつもりはないか?」

 そう言ったライザーの意図は至極単純だ。

 カケルは現在、基本的にはダナウス王国内で活動を行っている。

 以前のカリーネの時のように、突発的な事態でも起きない限りは、それ以外の国からの依頼を受けることはない。

 そもそも、ギルドの依頼がそういう仕組みになっているのだから、どうしようもできないのだ。

 

 とはいえ、カケルとしても別にその二つだけに限って依頼を受けようと思っているわけではない。

「そうしたいのは山々なのですが、依頼を受ける仕組みがないのですよ。一々、こちらに突撃されても面倒ですし」

「それはまあ、そうだろうなあ」

 以前からもそうだが、先日受けたコンラート国王からの依頼を達成したことで、カケルの冒険者としての腕は各方面からさらに注目されることとなった。

 さらにいえば、以前は自分のところに引き込もうという目的がメインだったが、今は高難易度の未達成依頼をこなしてほしいという声が増えている。

 それは、ペルニアにある冒険者ギルドも例外ではない。

 とにかく、そうしたすべての声を聞いて依頼を受けることなど不可能なのだ。

 

 流石にライザーも、全ての依頼を受ければいいじゃないかという、馬鹿なことをいうことはなく、納得した顔で頷いていた。

 そして、すぐにニヤリとした表情を浮かべる。

「……ということは、だ。そうした仕組みがあればいいんだな?」

「そうですねえ……。私が依頼を受けるのはあくまでも気紛れで構わない。そして、変に政治的に偏っていないという条件に合致した仕組みがあれば、ですね」

「政治云々は、むしろ変にフィルターを掛けない方が、面倒が起きなくていいだろうぜ」

「ああ、それは確かにそうでしょうね」

 ここでもし、○○国の依頼は受け付けない、と最初から拒否してしまえば、逆上した相手が何をしてくるか、わかったものではない。

 ただし、前半で言った通り、依頼を受けるか受けないかの選択権は、あくまでもカケルにあるようにする。

 

 そんなカケルにとっての都合の良いシステムなど出来るのかと、暗に問いかけるカケルに、ライザーは少しの間だけ思案顔になってからもう一度頷いた。

「……確かに面倒といえば面倒だが、お互いに監視をしてるとなれば、なんとかなるんじゃねえか?」

「そうですか? それなら頑張って作ってみてください」

「おい! 丸投げかよ!」

 多少投げやりなカケルの提案に、ライザーは抗議をしつつ、それでも顔は楽しそうに笑っていた。

 

 もし、そのシステム作りが上手くいけば、今回の会談の大きな成果になるのだからそれも当然だ。

 勿論、先ほど言った通りに、一国だけで作り上げては駄目なので、複数の国が関わる必要がある。

 それらの交渉を行うのは、あくまでも提案をしたライザーだ。

 カケルはライザーの顔を見ながら、期待半分、どうせ無理だろうという諦め半分になりながら、笑みを浮かべたままのライザーを見るのであった。

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