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天翔ける宙(そら)の彼方へ  作者: 早秋
第2部第3章
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(5)探索前

 軍との交渉を終えたカケルは、翌日には機上の人となっていた。

 変に屋敷に残っていれば、現状をどうにかしようと押しかけてくる者が出てくるかも知れない。

 そんな余計な騒動を起こすつもりはないので、さっさと逃げ出した方がいいのだ。

 ……という言い訳をしつつ、早く探索に出たかったというのがカケルの本音だ。

 落ち着きがないが、ひとつの場所にいると、何やら体がムズムズしてくるのだから仕方ない。

 

 今回目指す場所は、ペルニアからは二つのルートを抜けた先にあるカオスタラサになる。

 コンラート国王から依頼された未探索のカオスタラサは、当然誰もまだ誰も探索した結果を持ち帰ったことが無い場所になる。

 そうした新規エリアを誰よりも早く見れるという事も、冒険者としての醍醐味だ。

 むしろカケルにとっては、それがこの世界での一番の楽しみとなっている。

 

 それは常に傍にいるクロエにも当然伝わっていた。

「随分とご機嫌ですね」

「ああ。テミス号に乗るのは久しぶりだからな」

 テミス号は中型機に変えて以降、試験飛行は行っていたが、まともな探索を行うのは初めてになる。

 機体が新しくなって、どの程度動けるようになったのか本格的にわかるのは、試験ではなくこれから行う飛行によってだ。

 これから調査に向かう場所は、テミス号の性能を試すには、うってつけの場所なのだ。

 

 それがわかっているクロエも、すこし嬉しそうな顔になっている。

「そうですね。出来れば、思い通りに動いてくれればいいのですが」

 新生テミス号は、きちんとクロエと相談しながら、どういう性能にするのかを決めていた。

 機体の技術レベルは、『天翔』ではなく、ダナウス王国に合わせたものだが、だからこそ王国からの依頼を消化する意味がある。

 技術レベルが高い『天翔』の機体で調査ができても、その後で王国の機体が開発できなければ、なんの意味もない。

「駄目だったら駄目だったで、きちんと調整すればいいさ」

「そうですね」

 軽い調子で返してきたカケルに、クロエはそう答えつつ頷いた。

 機体の性能が考えたよりもうまくかみ合わなかったなんてことは、よくあることだ。

 そのたびに調整をしては、自分たちに合った機体を作り上げるのが、醍醐味のひとつでもある。

 

 ここで、カケルとクロエの会話に、黙って話を聞いていたミーケが混じって来た。

「私も楽しみですにゃ。それから、そろそろ目標地点に着くにゃ」

「おっと。少し熱中しすぎたか」

 いろいろとクロエと話し込んでいるうちに、ベルダンディ号が目標としていた場所に着いていた。

 ここから先は、テミス号で先行して調べに行かなければならないので、カケルたちは移動する必要がある。

 ミーケに促されたカケルとクロエは、ベルダンディ号の艦橋から移動して、テミス号へと乗り込むんだ。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 テミス号に乗り込んだカケルたちは、早速とばかりにベルダンディ号から調査対象のカオスタラサへと向かった。

 実際にはベルダンディ号がいる地点が既に調査対象の範囲内にいるのだが、この辺りは安定している場所なので、さほど警戒する必要はない。

 問題なのは、ルートを中心にして十分ほど進んだ範囲からだ。

 その範囲は、既にダナウス王国側でも十分に把握出来ている、いわば探索済み領域となる。

 この場合の探索済みというのは、あくまでも確認できているだけで、採取などが終わっているわけではない。

 

 とにかく、依頼を受けているのはそれよりも外側の範囲で、出来る限り詳細に調査をしなければならない。

 ちなみに、ベルダンディ号でも探索自体は出来るだろうが、カケルはするつもりはない。

 なぜなら、ダークホエールを討伐したときと同じで、ダナウス王国が持っている技術力で探索を行って初めて意味があると考えているためだ。

 それもまた、カケルの計画の一部なのである。

 

 テミス号に乗り込んで出発したカケルは、艦橋の雰囲気を見て苦笑していた。

「あ~、いくら初探索だからといって、そんなに緊張していたら上手くいかないと思うぞ?」

「そうですね。すこし張り詰めすぎですね」

 カケルの同意するように、クロエが追随して来た。

 テミス号にいる乗組員は、今までとは違って、完全に新規で募集をした者たちだけになっている。

 これまではスクルド号と混合で訓練を行っていたのだが、今回からは当初の予定通りのメンバー構成なのだ。

 

 さてどうしようかと一瞬考えたカケルは、艦橋を見渡して、目の前にある機器を操作した。

 船全体に声が流れるようにしたのだ。

「さて、諸君。これから新生テミス号は、初めての探索を行うことになる。我々からすれば、技術レベルが低い船での探索だが、それは大した問題ではない。むしろ、難しい挑戦をこなせたからこそ、人々は挑戦者に対して称賛を与えるのだ。称賛を得ることができるか、ただの無謀な挑戦者となるのか。それはこれからの結果にかかって来る」

 そこで一度言葉を区切ったカケルは、艦橋を見渡した。

「私は決して無理なことを押し付けるつもりはない。君たちが十分な力を発揮できれば、困難も打ち破ることができると信じている。――以上だ」

 カケルはそう言い切って、艦内放送を切った。

 見れば艦橋の乗組員たちの表情も変わっている。

「お見事です」

「さすがですにゃ」

 最後にクロエとミーケを見れば、そう言いながら揃って頭を下げて来た。

 

 カケルはそのふたりの様子と艦橋をもう一度見回しながら言った。

「いよいよ未探索領域に突入するわけだが……さて、どうしようか」

「にゃ? すぐに入らないのかにゃ?」

「皆の技量ならそれでも大丈夫だとは思うがね。一応、慣れる必要はあるだろう?」

 ここに来るまでに、テスト飛行や訓練で十分に乗り込んではいるが、今回のように危険地帯に入るにはあと一歩の覚悟が必要になる。

 そのためにも、わざわざいきなり現場に連れて来たのだ。

 

 ちなみに、カケルたちはのんびりと会話をしているが、未探索領域に入る前も普通に比べれば、十分に危ない領域を通っている。

 ヘルカオスはいないが、障害物や避けなければならない自然環境など、今いる場所はのんびりと進むことができる場所ではないのだ。

 それでも、これから先に向かうところに比べれば、安全地帯なのだ。

 なにしろ、未探索領域にはヘルカオスが嫌と言うほど出てくる。

 それらの性質を見極めつつ、探索できる場所を増やしていかなければならない。

 

 そうした場所を進むためには、乗組員の慣熟状態は気になるところだ。

「さて、どうしようか」

 そう呟いたカケルの言葉が聞こえたのか、クロエが意味ありげな視線を向けて来た。

「どうした?」

「いえ、カケル様が皆にお優しいという事はわかっていますが、少し考えすぎでしょう」

「心配しなくても、皆はちゃんとやってくれるにゃ!」

 クロエに続いてミーケがそう言うと、カケルは苦笑して見せた。

 確かに、少し考えすぎていたようだと思ったのだ。

 ついでに、緊張しているのは自分も同じだったと。

 

 先ほど言ったように、彼らであれば十分にこなせると思ったからこそ、依頼を受けたのだし、何よりもテミス号の乗組員として採用しているのだ。

 無茶と無理は違うが、彼らにとってはこれから先のことは、無茶であって無理ではない。

 それならば、きちんと彼らを信用して、先に進むべきだろう。

 そう考えたカケルは、艦橋を見回してから宣言した。

「これより未探索領域に向かう。進路は――」

 こうして、テミス号は、危険地帯へと進み始めるのであった。

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