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天翔ける宙(そら)の彼方へ  作者: 早秋
第2部第3章
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(4)交渉の内容

 カケルがコンラート国王との会談を終えた数時間後には、一人の軍人がとある書面を持って屋敷へと訪ねて来た。

 最後にカケルが国王へ頼んだことを実行するために、わざわざその日のうちに持ってきたのである。

 軍という組織を考えれば、信じられないほどの早さの対応だ。

 その肝心の内容というのは、

「ありがとうございます。これで、軍港がある場所では、補給が可能になります」

「いや、何。こちらも煩わしい交渉の手間が省けて助かるからな」

 ――ということだ。

 

 いかにベルダンディ号が大きな船だとしても、遠征を行う以上は必ず補給の問題が出てくる。

 強引に『天翔』の勢力圏からひたすら補修部隊で繋ぐという方法も取れなくはないが、それだとどうしてもかかる金額が大きくなる。

 それなら現地近くで補給したほうが、確実に安上がりなのだ。

 とはいえ、いちいちその場で交渉するのも手間になる。

 それならば、いっそのこと、どこに行ってもほぼ間違いなく存在しているであろう軍に頼むのは、ひとつの選択肢なのだ。

 

 勿論、問題が無いわけではない。

 補給を頼むということは、それだけで船の人員がどれくらいいるのかなどの推測ができてしまう。

 わざと多めに頼んだり、逆に少なく頼んだりと、小手先の技術(?)を使って誤魔化すことは出来るが、それはあくまでも細かい算出を防ぐくらいで、大まかな人数は読まれてしまう。

 そんなことをするくらいなら、最初から必要分だけを頼んでしまったほうがいい。

 

 それに、そもそもカケルは、ベルダンディ号の情報に関しては、あまり隠すつもりはなかった。

 理由はいろいろあるが、一番大きなものとしては、抑止としての意味がある。

 自分たちが持っている技術力よりもはるかに高い水準の相手とは、そもそも力で対抗しようという気は起きないものだ。

 中には敢えて突っかかってくる組織もあるが、少なくともダナウス王国に関しては、よほどのことが無い限り、そんな馬鹿な真似はしないだろうとカケルは考えている。

 それならば、最初から情報をある程度は公開してしまったほうがいい。


 それに、ベルダンディ号は確かに『天翔』の技術の粋を集めて作られているが、それですべてであるわけではない。

 特に、軍事という面では、技術そのものも重要だが、それ以外の部分も非常に重要になって来る。

 そうしたことが情報として相手に知られなければ、大きな問題はないのだ。

 もっとも、それらを知られたところで、今の技術力の差では跳ね返すことができるだけの余裕はあるのだが。

 勿論、ダナウス王国では使われていないような資源や加工品は、直接『天翔』からの補給に頼ることになる。

 ただし、それらはさほど頻繁に補給しなければならないという物でもなく、必要になったときだけ『天翔』に戻って補給すればいいような物ばかりである。

 

 というわけで、総合的に判断したうえで、補給に関しては軍に頼んでしまったほうが良いと判断したわけだ。

 それ以外にも、民間の業者と取引をすると出てくる余計なしがらみなども、軍に押し付けてしまえるという利点もある。

「民間の業者へは、そちらが通達してくれるのだろう?」

 当然のようにそう言ったカケルに、軍の担当者はさも当たり前だという顔で頷いた。

「勿論です。それをしなければ、補給のたびに面倒なことになりますから」

 軍が通達を出さなければ、ベルダンディ号やテミス号が入るたびに、民間業者がうちを使って補給をしないかという誘いが来ることになる。

 そのたびに、いちいち軍が牽制していては、業務に支障が出てくることもある。

 それならば、最初から通達を出してしまったほうがいい。

 そうしたこともカケルの狙いの一つにあるのだ。

 

 カケル側もダナウス王国の軍の側も、それぞれにメリットが大きいと判断したうえでの契約は、さほどの時間もかからずに終わった。

 その話の終わり際になって、交渉担当者が申し訳なさげにこんなことを言ってきた。

「それで、出来ればで結構なのですが、小さな港に立ち寄る際には、事前連絡が欲しいです」

「ああ、それはそうだろうな」

 担当者の言い分に、カケルは当たり前だという様子で頷いた。

 いかに軍といえども、小さな港では相応の物資しか保管していない。

 そこに、軍を運用していくうえで影響が出るほどの補給をされては、そもそもの役目が果たせなくなることもある得る。

 そうなる前に連絡が欲しいと言ってくるのは当然のことであり、カケルも十分に理解できることだった。

 

 ただし、どうしても連絡が出来ない場合もある。

「ただ、ダメージを負った場合など、緊急の場合もあるが、それは構わないのだろう?」

「それは勿論です」

 カオスタラサでは、時に予想もしないような災害が起こることもある。

 そうした場合には、事前の連絡など悠長なことをしている場合ではないことも往々にして起こり得るのだ。

 当然軍の側もそのことはよくわかっているので、そこまで無茶なことを言うつもりはないのである。

 

 そんなことを会話しつつ、補給に関しての軍との契約は、無事に終わることとなった。

 なんだかんだで、王との通信から始まり、軍との契約まで行ったことで、すぐにでもベルダンディ号に戻れるような時間では無くなってしまった。

 結局、この日のうちに探検に出ることを諦めたカケルは、屋敷で一泊してからベルダンディ号へと戻ったのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 その日、ペルニアの各所では、ちょっとした騒ぎが起こることとなった。

 その原因の中心にあったのは、当然ながらカケルの乗るテミス号が入港したことにある。

 カケルの冒険者としての腕は、直接契約するに値するだけのものはあるし、それが無理だとしても契約ができれば様々な恩恵を得ることができる。

 そうした利権を狙って、各民間業者が、様々な駆け引きを行っていたのだ。

 

 とはいえ、相手は以前から連絡を取ろうとしても、中々直接の話まで持っていけない猛者だ。

 どうやって話をするかで頭で悩ませつつ、他業者相手に牽制をしつつと、各担当者は忙しい時間を送っていた。

 場合によっては、談合もどきを行って、それぞれが牽制をすることもあった。

 ところが、ある時を境にそれらの駆け引きがぱたりと止むこととなった。

 

 その理由は、軍からの通達が関係各所に流れて来たからである。

『カケルに関係する補給は、国防の観点から考えて、軍が担当することになった。~(略)~既に契約も済んでいる』

 その文面を見た担当者は、一斉にカケルとの取引を諦めたのだ。

 関係者が諦める直接の原因となった一文は、国防の観点から考えて、という部分である。

 既に関係者のうちの多くの者たちには、カケルが『天翔』の重要人物であることは知れ渡っている。

 それと合わせて考えれば、この時点で軍が前面に出てくるということは、カケルに関しては国として対処をすると言っているも同然である。

 軍という巨大な組織を相手に喧嘩を売るくらいなら、初めからおこぼれを狙ったほうがいいと関係者が考えるのは当然だろう。

 

 その結果、カケルに対する事前交渉の打診は激減することとなった。

 それにより、屋敷で働く執事たちの職務がだいぶ改善することとなるのだが、それはまた別の話である。

面倒なことは軍に丸投げ!

――という回でしたw


次回は新生テミス号のお出ましになります。

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