(3)国王からの依頼
アルミン、フラヴィとの話し合いを終えたカケルは、テミス号、スクルド号を乗せたベルダンディ号に乗って、堂々とペルニアへと向かった。
事前に連絡などはせずにむかったのだが、ダナウス王国がどういう対応をするのかを見極めるために、敢えてそうしたのだ。
その結果としては、ペルニア周辺にベルダンディ号が姿を見せたときには、慌てて正体確認の連絡を取ってきたが、船の持ち主がカケルだと分かるとすぐに通行を許可して来た。
普通は正体不明の船の通行許可などすぐに通るはずもないのだから、その対応はさすがといえるだろう。
ついでに、カケルの通行に関しては、自由に行けるという事もこれでわかった。
勿論、『天翔』籍の複数の船で来た場合は制限があるだろうが、大型船一隻程度であれば問題ないと見なされているということだ。
その判断が正しいかどうかは別にして、敵か味方かはっきりしない国の船を相手に、随分と大胆な方針を取っていると言える。
それが大国の余裕といえばそれまでなのだが……。
そこまで考えたカケルは、徐々に近付いているペルニアを見ながらぽつりと呟いた。
「懐の広さを見せつける意味もあるのだろうが……艦隊が大損害を負ったらどう責任を取るつもりなんだろうか」
「少なくとも、今のカケル様はそんなことをしてこないということなのではないでしょうか?」
「あー、まあ、そういうことなんだろうけれどな」
現状、カケルとダナウス王国の関係は、良好といえるかどうかはともかくとして、険悪であるところまでは行っていない。
ダナウス王国の上層部もそう考えているのであれば、大型船の一隻程度であれば、受け入れる態勢を整えていてもおかしくはない。
それにしても、そんな調子で大丈夫なのかという懸念はある。
「器の大きさを見せているのか、単に、冒険者としての成果を期待しているのか……」
皮肉気な表情になってそう言ったカケルに、クロエが表情を変えないまま大真面目な顔で答える。
「どちらも、でしょうね」
今のところカケルは、冒険者として多大な成果を上げている。
それを考えれば、拒絶をするよりも快く迎え入れるのは当然ともいえる。
あくまでも冒険者カケルとしてということになるのだろうが、それはこれまでの実績があるからこそである。
そんなことを話している間に、ペルニアの港へと入っていた。
大型船はヘキサキューブ内には入れないので、ここから先はテミス号で向かうことになる……のだが、カケルはペルニアの屋敷に向かうことはしなかった。
そもそもペルニアへは補給のために立ち寄ったのだ。
大型船がある以上は、下手に船から離れるよりも船内で補給の交渉をした方がいいと考えていた。
ところが、そう問屋は卸さなかった。
それもそのはずで、大型船の補給ともなれば、その物資の量はかなりの物になる。
それらの権利を巡って、様々な駆け引きが裏で行われており、カケルが顔を見せずに勝手に決めるというわけにはいかなかったのだ。
面倒この上ないことだが、今後のことを考えれば、地上に降りてきてほしいという要請を無視するわけにもいかない。
カケルは、仕方なしにクロエを始めとした部下を伴って、ペルニアへと降りるのであった。
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屋敷についたカケルに待っていたのは、様々な方面からの連絡があったという結果報告だった。
ペルニアにある屋敷には、セリオを始めとした使用人が常駐している。
たとえカケルに直接連絡が取れなくても、あわよくば狙いで連絡を取って来る者が多数いるのだ。
それらの相手をまとめた名簿をセリオから渡されたのである。
だからといって、カケルが連絡を取る必要はないので、フーンという感じで眺めただけだ。
ただし、その名簿の中に、一件だけ無視できない名前があった。
そして、カケルが一番上にあるその名前を見るのとほぼ同時に、一人のメイドが駆け寄ってきた。
「お館様、外部から連絡が入っています。……その、国王様から」
慌てたように付け加えられたその名詞に、カケルはため息を吐くことしかできなかった。
どう考えても屋敷に着くタイミングを狙って連絡して来たとしか思えない。
さすがに、これからも拠点としてお世話になるであろう国の王からの連絡を無視するわけにもいかず、カケルは通話機がある部屋へと向かった。
「久しぶりだな、カケル」
カケルが通話機を取るなり、コンラートはいきなりそう言ってきた。
どう考えても、通話機の前で待っていなければ出来ない速さだ。
「お久しぶりです、コンラート国王」
「うむ」
「それで? 何の用でしょうか?」
「やれやれ。随分な態度だな。私は話がしたいことがたくさんあるのだが?」
「私にはありませんね」
そう言って牽制して来たコンラートに、カケルはすげなくそう答える。
その声には、一冒険者として来ているのに、国王が一体何の用だという意図が込められている。
そのことを察したのかどうかはカケルにはわからなかったが、コンラートは特に画面に映っている表情を変えることなく、頷きながら続けた。
「そうか。それは残念だな。……まあ、それはともかくとして、其方に依頼があるのだが受けてもらえるか?」
その言葉に、カケルは思わず目をパチクリとさせた。
まさか国王から直接依頼があるとは思っていなかったのだ。
「依頼……ですか。内容にもよりますが?」
「まあ、それはそうだろうな。今から送るから少し待て――」
コンラートはそう言うと、画面外にいるのだろう相手に向かって目配せをしていた。
部下か誰かに、依頼内容を送るように指示をしたのだ。
少しの間待っていると、カケルの携帯端末に依頼内容が送られてきた。
その携帯端末は、普段はセリオが持っている国王直通の端末だ。
端末で依頼内容を確認したカケルは、意味ありげな視線を国王へと向けた。
「――未探索エリアの調査、ですか。お聞きしますが、なぜ私に?」
自分を利用するつもりかと裏で問いかけるカケルに、コンラートは笑みを浮かべたまま首を左右に振った。
「勘違いしてもらっては困るのだが、その依頼は別に其方にするのが初めてではない。一応、一流と呼ばれる冒険者から軍まで、国としてもできる限りの対応を取ったのだが、残念ながら今まで一度も成功したことが無くてな」
其方であれば成功するのではないかと考えての依頼だ、と続けたコンラートに、カケルは初めて興味深げな表情になった。
送られてきたデータを見た限りでは、ダナウス王国が持っている技術レベルで探索できないような宙域には思えない。
それがことごとく失敗に終わっているということは、何か予想ができていない自然現象なり、ヘルカオスなりがいるということになる。
それらの未知の探索は、カケルにとっては願ってもいない条件だった。
誰も見たことのない風景、それを追い求めているからこそ、カケルは冒険者を続けているのだ。
何となくコンラートの手の上で踊らされているような気もするが、むしろ今回の場合はカケルにとってはご褒美である。
「……なるほど。そういうことでしたら受けるのもやぶさかではないですね」
「おおっ! それはよかった。其方に断られたら、もう後がなかったからな」
そう言って喜びの表情を浮かべているコンラートに、カケルはついでとばかりに付け加えた。
「それで、ひとつご相談があるのですが――」
そう言って続けられたカケルの話を、コンラートは目を丸くしながら聞くのであった。
ダナウス王国側も、徐々にカケルの性格を掴みつつあります。
冒険という餌をぶら下げれば、大体食いつくという分かり易いものですがw