(1)『天翔』の方向性
投稿時間、ギリギリアウト?
新人たちの訓練を兼ねた探索を終えたカケルは、ベルダンディ号の自室で送られていた書面を見ていた。
その書面は、『天翔』の最近の状況が詳しく書かれている。
中には外には出せないようなことまで書かれているが、そもそも身内しかいないベルダンディ号に送るには何の問題もないのだ。
その書面の中に、気になる文章があった。
それが何かといえば、『神国を含めたいくつかの国が、『天翔』を国として認める方向で調整中』と書かれている。
『いくつか』ということが書かれているが、それ以上の詳しいことは書かれていない。
今いる場所は、『天翔』以外の船が出入りしていることは確認されていないが、それでも国同士の重要事項になることは伏せているのだろう。
神国の名が伏せられていないのは、どこの国でもそれくらいのことならあり得そうだと思われているからである。
自室にクロエを呼んだカケルは、その文面を見せてから聞いた。
「これ、どう思う?」
カケルからそう聞かれたクロエは、少しの間考え込むような仕草をしてから、首を左右に振った。
「これだけでは何とも言えませんね。神国はともかく、そのほかの国の思惑が分かりませんから」
名前が伏せられている以上、判断しようにもその材料がまったくない。
いくらなんでもこれだけで何かを言えば、それはただの妄想の域になってしまう。
まったくの同感だったカケルは、クロエに向かって頷いた。
「まあ、それはそうだよな。……仕方ない。一旦、本部に戻ってからきちんと話を聞くか」
カケルが遠征している以上は、これ以上の詳しいことは送られてこないはずである。
内容が内容だけに、無線などを使って話すこともないだろう。
そう考えたカケルは、仕方なしに探索遠征を打ち切って、『天翔』の本部へと戻ることを決めるのであった。
♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦
『天翔』本部に戻ったカケルは、早速フラヴィの所へ話を聞きに行った。
「それで? どこが打診してきているんだ?」
カケルに向けて送る文面を作っているのは、アルミンとフラヴィになる。
外交担当のフラヴィがわざとあんな曖昧な文章にしたことは分かっているので、カケルは担当直入にそう聞いた。
聞かれたフラヴィも、直で話す分にはなんの問題もないので、あっさりと答えた。
「残りは二つありまして、ひとつがダナウス王国ともうひとつがロイド王国になります」
「ロイド王国はともかく……そうか、ダナウス王国か」
フラヴィの答えを聞いた瞬間、カケルはそう言いながら大きくため息をついた。
カケルがダナウス王国の名前を聞いてため息をついたのには、きちんと理由がある。
先日のダークホエール討伐がきっかけになっているとはいえ、国家として認めるということを打診してくるということは、その裏には正式に交易をしたいという思惑が見て取れるためだ。
ダークホエールほどのヘルカオスが討伐できるのであれば、より広くより深くカオスタラサを探索できるということだ。
となれば、当然のように採取できる資源も多くなる。
ユリニアス皇国のように、ヒューマン至上主義を掲げていて、主義主張が相いれない場合でない限りは、それらの資源を求めて国交を樹立したいと考えるのは、ある意味当然のことだろう。
それはそれで予想できたことだが、カケルがダナウス王国との交易を嫌がっているのには、別の理由がある。
それは、一言で言ってしまえば、ダナウス王国が人口侵略を狙ってくる可能性があるためだ。
この世界で最大の国であるダナウス王国は、最大の人口を抱えている。
それらの人員を『天翔』に送り込んで、国家転覆……とまでは行かないまでも、閉鎖している組織である『天翔』の意識を変えようというわけだ。
それが上手くいくかどうかは別として、そんなことをされては面倒この上ない。
現在『天翔』が抱えている国民は、全てナウスゼマリーゼとはいえ、今後他の種族を送り込まれて定住などされてしまえば、それが崩れてしまう。
勿論、『天翔』としてもそんなことをさせるつもりはないので、余計な移住者などはいらないと断ることになるだろう。
だが、そうなったらそうなったで、○○至上主義だの、差別主義者だのとお題目を唱えて来て、『天翔』の評判を下げてくるのは目に見えている。
それこそカケルに言わせれば、余計なお世話と言いたいところだが、人権やら権利を盾に自分の主義主張を押し付けてくる者は、どの世界にもいる。
そんな者たちを一々気にするつもりはカケルにはないが、面倒なことが起こるのは間違いない。
長々とそんなことを思考していたカケルは、今度はアルミンとフラヴィを交互に見て聞いた。
「……それで、きちんと対策は考えているんだよな?」
カケルがそう聞くと、ふたりは当然だとばかりに頷いた。
わざわざカケルが戻って来るまで返事を保留にしたのも、今後の『天翔』の行方が掛かっているからだ。
もっとも、カケルがどんな選択をするのか、アルミンとフラヴィにはよくわかっているのだが、そこは意見を聞かずに勝手に決めてしまうわけにはいかない。
ほとんどお飾りになっているカケルだが、こういった場合はやはり決定権はカケルにあるのだ。
カケルの問いかけにアルミンがと書面を一枚差し出してきた。
その書面には、今後のいくつかの方策とそれに対するメリットデメリットが書かれていた。
それを上から下まで読み込んだカケルは、すぐに結論を出した。
「それじゃあ、Aパターンでよろしく」
カケルがそう言うと、アルミンとフラヴィは特に驚くことなく……というよりも、予想通りという顔をして頷いた。
カケルが選んだ選択肢は、これまで『天翔』が通って来た道からずれないで、真っすぐに進むものだった。
逆にそれ以外の選択を選んだ場合は、揃って驚いただろう。
それくらいに、アルミンとフラヴィにとっては当たり前の答えだった。
それはともかく、カケルが方針を決めたことで、今後の『天翔』の進むべき道が決まった。
それには、先の三国から受けている『天翔』を国として扱うことに関しても含まれていた。
この選択によって、またこの世界に大きな波紋が投げかけられることになるのだが、それはまだごく僅かな人数だった。
この段階でそれを知ることが出来た者といえば、この場にいたカケルたちくらいだろう。
こうして世界にとっては重大な方向性が決まる決定が、『天翔』の本部でごくあっさりと決められるのであった。
何とも奥歯に物が挟まったような言い方になってしまいましたが、勘弁してください。m(__)m
次回以降にどんな選択をしたのかは、きちんと報告していきます。