(7)テミス号の改装
間に合ったので上げました!
コンラートとの短い会話を終えたカケルは、屋敷にいたシーラを始めとした補佐室のメンバーに、ポート(港)の準備をしておくように言った。
これからテミス号の引き取りに向かうので、そのための準備が必要なのだ。
既にカケルは身バレしてると考えているので、『天翔』の面々をフルに活用しても問題はない。
そのため、屋敷にナウスゼマリーゼが集まっていても、問題にはならなくなっている。
元からいる者たちを排除するつもりはないが、これからは『天翔』の者たちも堂々と積極的に活用していくつもりだ。
カケルは、クロエとミーケと引き連れて、タラサナウス製造工場へと向かった。
新たに製造したテミス号は、疑似精霊だけを引き継いで、機体は完全に新しくなっている。
屋形船のような形をしていた船体は、タグボートのようになっている。
そして、大きさは小型船から中型船に変わっているため、外見だけでいえば完全にまったく違った船になっていた。
製造業者の者にことわってからテミス号に乗り込んだカケルは、艦橋でテミスに話しかけた。
「久しぶりだね、テミス。調子はどうだい?」
「問題ありません」
「そうか。これから船体の調子を見るためにカオスタラサに向かうけれど、問題ないね?」
「はい」
カケルの問いに、透明な体のテミスが頷いた。
テミスは、新しい船体に合わせてきちんと「調整」されているはずだが、実際にはカオスタラサを飛んでみないことにはわからないこともある。
そのため、いきなり探索に出るのではなく、ある程度の試験飛行を自分たちで行わなければならないのだ。
中型機の大きさになれば、今までのようにクロエと二人だけで動かすことはできない。
ただしそれは、あくまでも戦闘などを含めた操縦であって、ただ移動するだけなら三人もいれば十分である。
カケルに着いて来ていたクロエとミーケは、既にそれぞれの担当の席に着いている。
既に納品の手続きはクロエが終えてるので、あとは実際に飛ぶだけになっている。
飛び立つ前の各種機器の様子を見ていたカケルは、問題がないことを確認したうえで、クロエとミーケを見た。
「こっちは問題なさそうだが、そっちはどうだ?」
「大丈夫です」
「こっちも大丈夫にゃ!」
クロエとミーケからの答えを聞いたカケルは、ひとつ頷いてからテミスを見た。
「それじゃあ、発進しようか」
「はい」
テミスの返答を聞いたカケルは、早速とばかりに新生・テミス号を動かすのであった。
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屋敷のポートにテミス号を止めたカケルは、シーラたちが事前準備をしていた荷物と人員を載せて、カオスタラサへと向かった。
テミス号に乗っている人員は、カケル自身を合わせて全部で六人。
カケルのほかには、補佐室のクロエとシーラ、親衛隊のミーケ、オリガ、カイナになる。
これでもまだ完全に活動するためには人員は少ないが、試験飛行と人員を『天翔』に補充しに行くのには十分な人数だ。
ただし、中型機以上になれば一カ月を超える長期航行も普通になるので、数人での活動は乗員の体調のことを考えれば、その人数での航行は不可能だ。
そのためにも、一度はウルス号に戻って人員を補充する必要がある。
ペルニアからカオスタラサに出たテミス号は、一路『天翔』本部(ウルス号)へ向かった。
ウルス号に着く前に、事前に連絡を取ってベルダンディ号へとテミス号を乗せた。
先にベルダンディ号に乗せたのは、以前と同じく機体の検査を行うためでもある。
今回は機体自体が新しくなっていることと、テミス号の改装をしている最中に、カケルの身バレをしているので、何かの仕掛けがあってもおかしくはないからだ。
もっとも、カケルが『天翔』の総統だということは、既に上層部では一般的になりつつあるので、敢えてそうした仕掛けはしない可能性もある。
とりあえず、調べてみないことにはどうしようもないので、いきなりの完全検査ということになったのだ。
テミス号の検査を整備班に任せたカケルは、すぐに艦橋へと向かってウルス号へ向かうように指示を出した。
テミス号に人員を補充するため、アルミンやフラヴィと話をしなくてはならない。
といっても、既にテミス号への人員補充の話はしてあるので、あとはカケルが決断するだけになっているはずだ。
ただし、少なくとも半数はスクルド号の乗員と被るようになるはずだ。
今後カケルは、テミス号とスクルド号の両方に乗ることになるので、元からの乗員がいた方がいいという判断である。
それに、テミス号は『天翔』の者たちからすれば、時代遅れの技術しか使っていないので、それだけに乗り続けるのも良い状態ではない。
そのため、いつでも交互に乗員を入れ替えられるようにする目的もある。
カケル自身も、この十年で『天翔』が伸ばした技術があるために、それに合わせて改装しているスクルド号に乗りたいという思いはある。
そのためのテミス号との両輪体制ということなのだ。
すでにカケルは『天翔』の総統であることがばれているので、今後は遠慮せずにベルダンディ号を母船として活動することが出来る。
もっとも、それを各国が良しとするかはまだ別問題なのだが。
とりあえず、カケルの頭の中では、既にそうした筋書きができているのであった。
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ウルス号に着いたカケルは、早速アルミンとフラヴィの元へと向かった。
「人材リストは用意できてるか?」
部屋に入るなりいきなりそう言ってきたカケルに、アルミンとフラヴィは顔を見合わせて苦笑した。
その後、アルミンが手元にあった資料をカケルに向かって差し出した。
「こちらに。カケル様の要求には答えられていると思います」
そう言ったアルミンから資料を受け取ったカケルは、早速目を通し始めた。
資料を見ていたカケルは、しばらくしてから少し驚いた表情でアルミンを見た。
「いい人材が揃っているとは思うが、これ『天翔』に影響は出ないのか?」
資料に書かれている人材は、それぞれ一線級で活躍しているような者たちばかりだったのだ。
カケルが心配するのも当然だ。
そのカケルの問いに、アルミンは肩をすくめながら答えた。
「仕方ありません。募集を掛けたら皆が応募してきたのですから」
「そうですね。ここで候補として上げておかないと、下手をすれば暴動になります」
アルミンの言葉を引き継いで、軍務を担当しているフラヴィが冗談めかしてそう言った。
暴動というのはあくまでも冗談の類だが、もしこのくらいのこともしていなければ、不満が貯まるのは確かだ。
それくらいに、『天翔』にいる者たちは、カケルの乗っている船に乗ることがステータスになっているのだ。
カケルにとっては、そのこと自体は嬉しいことなのだが、あまり『天翔』にとってはいいこととは思えない。
「それは、大丈夫なのか?」
「大丈夫ですよ。中型機一機分の人員が割かれたところで、大勢に影響はほとんどありません」
「そうですね。それが、たとえ腕のいい者たちであったとしてもです」
アルミンとフラヴィは、順番にそう答えた。
その顔には、自信のようなものが浮かんでいる。
その顔を見れば、いま言ったことは、まさしく本音であり、実際そうなのだということがカケルにもわかった。
「そうか。それじゃあ、遠慮なく選ぶか」
そう答えたカケルは、本腰を入れて資料の中から人員を選び始めるのであった。
テミス号の改装に関わるあれこれです。
どれくらいの人数を増やしたのかは、敢えて書いていません。
ただし、中型機はこちらの世界でいうところのタンカーくらいの大きさがあるので、それなりの人数は船の中で活動することになります。
※次の週こそ投稿が間に合わないかもしれません。その場合は、ご了承ください。