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天翔ける宙(そら)の彼方へ  作者: 早秋
第2部第2章
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(3)討伐完了

 討伐隊を護衛している船が何をしたのかは一目瞭然だ。

 最初の攻撃の時と同じように、防御壁を張って他の艦隊を守ったのだ。

 だが、一般的な常識では、第三段階程度の防御壁でダークホエールの遠距離攻撃を防ぐのは一回が限界とされている。

 それ以降は、装置が使い物にならないので、防ぐことは出来ないと言われているのだ。

 ところが、『天翔』の討伐隊は見事にその問題をクリアして、ダークホエールへと近付いて行っている。

 このままで進めば、中距離の範囲内まで行けることは確実だ。

 ダークホエールが放つ遠距離攻撃は、一定の間隔を置いて行われることは、皆が知っていることなのだ。

 そこまでたどり着くまでに、一隻の船の犠牲だけで済んだということが、常識では既にあり得ない事態なのだ。

 

 目の前で行われた常識外の光景に、各国の分析官の一人があえぐように呟いた。

「あ、あり得ない……」

「い、いや! 攻撃をすべて犠牲にして、防御だけに特化すれば、確かに出来ないことではない!」

「だ、だが、そうすると、一隻分の火力が――」

 ダークホエールに近付いて行く討伐隊を見ながら、それぞれで議論が始まっていた。

「静かにしろ! そろそろ中距離範囲に入るぞ」

 一人がそう言うと、分析官たちはこれから行われることを一つでも見逃さないようにと、画面を食い入るようにして見入るのであった。

 

 

 周囲の者たちが討伐隊の常識外れの行動に騒いている一方で、カケルは別の感想を持っていた。

「……危ないな、これは。技術に胡坐をかいている結果かな?」

 カケルがぽつりとそう呟くと、隣に立っていたクロエがコクリと頷いた。

「そのように見えますね。……伝えておきますか?」

「いや。どうせこの映像は彼らの部署に行くんだろう? それだったら、別にわざわざこっちから言う必要はない――――よな?」

 出来れば断言したいカケルだったが、思わず確認をしたのは、十年という年月が過ぎていたからだ。

 その間に、細かい部分ではカケルが気付かないような変化が起きているかもしれない。

 

 わざわざ振り向いて確認をしてきたカケルに、クロエはもう一度頷きを返した。

「勿論です。その程度の分析は出来るはずです」

「ちょうどいい機会ですから、報告書でも上げさせますか」

 クロエに引き継いで答えたのは、周囲に人がいることで真面目モードになっているミーケだった。

 ミーケは親衛隊所属で、『天翔』の軍への命令権は持っていないが、ここであったことを関係者に話すことはできる。

 さらにいえば、討伐隊が出ている以上、軍関係者もここに来ているので、プレッシャーを掛ける意味もある。

 現に、そのうちの一人は、真面目な顔になって検討を始めているようだった。

 

 クロエとミーケの会話を聞きながらも、カケルは画面からは目を離してはいなかった。

 討伐隊はいよいよダークホエールにとっての中距離圏内に入っていた。

 これまでは討伐隊にとってもダークホエールにとっても様子見という感じの攻撃だったが、本番はこれからである。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 中距離圏内に入れば、次に来るのは触手による攻撃だ。

 先ほどの全体攻撃が来ないわけではないが、それをするにはタメ(・・)が必要になるので、読むことはたやすい。

 その間にフォーメーションを整えればいいのだ。

 と、言いたいところだが、実はそんなに簡単なことではない。


 そもそもダークホエールの全体攻撃は、そんなに何度も受けられるものではない。

 そのために、特化した船を作っているので、限りなく攻撃を受け続けることが出来るわけではない。

 一応、第三段階の技術で受けられる回数は、三から四回とされている。

 余裕を持ちたければ、あと一回受けるのが限界だ。

 そのため、その間にすべての決着をつけなくてはならないのである。

 勿論、必ずしも全体攻撃をしてくるわけではなく、あくまでも作戦はダークホエール次第になる。

 結局はダークホエール次第ということになるのだが、それはどのヘルカオスでも同じことなのだ。

 

 とにかく、討伐隊は二度の全体攻撃を超えてから、ダークホエールの中距離圏内に入ることが出来た。

 それを認識したのか、ダークホエールは早速触手による攻撃を始めた。

 この攻撃も非常に執拗で、触手も複数本あるので、一度だけ躱せばいいというわけではない。

 そのため、先ほどのように艦隊を寄せ合って行う結合攻撃をすることも出来ない。

 

 討伐隊は各自で触手の攻撃を躱しながら、個々にダークホエールに攻撃を行っている。

 狙っているのは、触手の根元であるのは、当然触手攻撃を抑えるようにするためである。

 このときに気をつけなければならないのは、全ての触手を使えなくすると必ず全体攻撃を行ってくるので、ある程度の数を残すことである。

 触手の数を減らすことが出来れば、躱すのはある程度楽になるのであとはまた集まって結合攻撃を行うというのが作戦なのだ。


 とはいえ、言うは易く行うは難しであり、例え触手の数を減らしたとしても、実際に艦隊が集まって結合攻撃を行うのは非常に難しい。

 そもそも動いている艦船が近寄ってタイミングを合わせて攻撃をすることも難しいのだ。

 それを、触手の攻撃を躱しながら行うというのは、出来ないと考えるのが普通である。

 だが、『天翔』の討伐隊は、それを着実に行っていった。

 

 結合攻撃が繰り返されれば、流石の外皮が非常に硬いダークホエールも無事であるとは言い難くなっていく。

 その頃になれば、触手の攻撃だけではなく、集まった艦船に向かって体当たりを仕掛けようとさえしていた。

 ただ、これも討伐隊にとっては、予想通りの攻撃パターンだ。

 ダークホエールの体当たり攻撃は、その巨体に似合わず、非常に素早く近付いてきて大ダメージを与えてくる。

 それでも攻撃範囲が非常に限られているので、パターンさえ見分けることが出来れば、躱すことは難しいことではない。

 

 問題なのは、そのパターンをしっかりと判断することだ。

 これは、本来何度もダークホエールと戦ったうえで、見極めていく必要がある。

 そこまで行くには、多くの艦船を犠牲にする必要があり、また攻略サイトなどないこの世界の住人にとっては、厳しい要求といえるだろう。

 それはともかく、『天翔』の討伐隊にとっては、既にパターンは知れ渡っているので、その情報を駆使して体当たりや触手の攻撃を躱しながら攻撃を加えて行っていた。

 

 中距離よりもさらに近付いて個別攻撃すれば、より大きなダメージを与えることが出来るが、討伐隊はそれは行わない。

 なぜなら、近距離攻撃である体当たりは、予想が難しい上に、一撃でも当たると修復不可能なほどのダメージを喰らってしまうためだ。

 討伐隊は、つかず離れず、中距離の位置を保ったまま、時に結合攻撃を行いながら着実にダメージを与えていった。

 そして、討伐隊が中距離に入ってから三十分ほどが経ってから、ついにそのときが来た。

 何度かの攻撃で既にぼろぼろになっているダークホエールの表皮に向けて、討伐隊の渾身の結合攻撃が当たった。

 流石にその攻撃を受けて、ダークホエールは身悶えをするように大きく体を揺らした。


 そして、その隙を見逃さないように、討伐隊が次々に攻撃を繰り出していき――――ついに、ダークホエールがその動きを止めることになった。

 それでもしばらくは様子を見ていた討伐隊だったが、数分待ってなおダークホエールが動かないのを確認してから、カケルの元へと連絡が入るのであった。

「ダークホエールの討伐を確認いたしました」

ダークホエールの討伐が終わりました。

次は、観察者側に移っての結果報告です。

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