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天翔ける宙(そら)の彼方へ  作者: 早秋
第2部第2章
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(2)遠距離攻撃

 ダークホエールは、その名の通りクジラの姿をした大型のヘルカオスだ。

 もっともその大きさは数千メートル級の個体もいるので、本来のクジラとは全く別物である。

 その攻撃方法も多彩で、巨体を生かした体当たりを始めとして、どこに隠しているのかわからない触手のような長い腕による攻撃、目には見えない超音波のような周囲への波状攻撃など、様々な方法で近付いてくる者を苦しめる。

 そのどれもが、まともに当たれば船を沈めるような威力があるので、迂闊に近付くことさえ出来ないのだ。

 この世界では、過去何度もダークホエールを討伐しようと編成隊が組まれていたが、まともな成果を上げることが出来ていなかった。

 勿論、多くの艦船を用意して、数の論理により押し切ることもできるのだが、被害が大きすぎてとてもではないがつり合いが取れないというのが、この世界での常識なのだ。

 ダークホエール一体を倒して国の領域を広げることが出来たとしても、他国や他のヘルカオスからの襲撃を防げなければ意味がないのだ。

 逆にいえば、ダークホエールを倒すためにはそれだけの犠牲が必要になるということだ。

 

 たった六機の中型機で現れた『天翔』の艦船に、観測組も含めた関係者は目を剥いていた。

 中でも、カケルが乗っている神国の大型機では、一瞬奇妙な沈黙に包まれた。

 そして、その沈黙を破るように、代表して神国のヘルカオス担当がカケルに恐る恐る話しかけて来た。

「――――あ、あの。どう見ても艦船は六機しか見当たらないのですが、あれだけで討伐なさるのでしょうか?」

「ええ、そうですよ。あの六機だけで当たります。ああ、それから、一応言っておきますが、船の技術レベルは第三段階相当にしてあります」

 ここではっきりとカケルが第三段階だと言わなかったのは、いざという時のためにそれ以上の段階の武器を使えるようにしてあるからだ。

 いくら他国に見せるためのパフォーマンスだとは言っても、乗組員の命まで犠牲にするつもりはない。

 カケルの中では無くても大丈夫だと確信しているが、それでも事故は起こり得るので、備えは必要なのだ。

 

 カケルの言葉に、一同は再び沈黙した。

 いま言ったことの中に、彼らにとっては重要な要素が二つあったのだ。

 それが何かといえば、一つはこれだけの編成でダークホエールを討伐できると宣言したこと。

 もう一つは、『天翔』総統であるカケルが、はっきりと自分の所の技術レベルは、第三段階以上であると言ったことだ。

 特に分析官として同席している軍関係者にとっては、穏やかではない情報だろう。

 

 勿論、『天翔』がこの世界に現れてから十年の間、彼らがなにもしなかったわけではない。

 ただし、まともな交易もしてこなかった相手の情報を分析するのは、非常に困難なのだ。

 これで担当者を責めるのは、間違っているといってもいいだろう。

 今、カケルが言ったことが真実かどうかは当然持ち帰って精査されることになるのだが、本当のことだと認められるのは間違いない。

 何故なら、少ない情報の中で分析を進めていた結果、『天翔』の技術レベルが高いということは、噂として囁かれていたのだ。

 それが、今回のカケルの発言によって、裏付けた取れたと判断されるのは、ほぼ間違いない。

 ここにいる分析官は、それらの事情を知っているので、沈黙することしかできなかったのだ。

 

 

 沈黙が続く中、討伐隊は順調にダークホエールへと近付いて行った。

 そして、討伐隊がダークホエールへの認識圏へと入ると、ついに相手からの攻撃がさく裂した。

 その攻撃は、ダークホエールの中でも攻撃力が高いとされている遠距離攻撃だった。

「攻撃が当たるぞ、どうするのだ?」

 中継を見ている分析官の言葉が響くとほぼ同時に、討伐隊の陣形に動きがあった。

 もとからまとまって動いていた艦隊だったが、更に身を寄せ合うように集まって、更に一隻の船が前に出て来たのだ。

 

 それを見ていた専門家たちは、攻撃に身をさらしてどうすると内心で首を傾げた。

 常識で考えれば、ダークホエールの攻撃は、たった一隻では防ぐことなどできない。

 何とか耐えられたとしても、その後の行動に支障が出てします。

 だが、討伐隊はそんな彼らの疑問を余所に、そのままの状態でさらにダークホエールに近付いて行く。

 

 ダークホエールの遠距離攻撃は、あっという間に討伐隊へと到達して、外れることなくあたった。

 その瞬間、ダークホエールの攻撃と討伐隊の一隻が作った防御壁があたり、周囲に衝撃となって広がっていった。

 軽いものだが、様子を見ていた船にもその衝撃が届いたことから、どれほどのものかがわかる。

 それは、まさしくダークホエールの討伐を難しくしている理由のひとつだった。

 

 だが、その攻撃をまともに受けたはずの討伐隊は、何事もなかったかのように移動をしている。

 唯一、一番先頭で攻撃を受けた船だけは、いつの間にか隊列の後方に移動していた。

「攻撃を防いで後ろに移動した? だが、一回だけ攻撃を受けてどうなるんだ?」

 分析官の一人がそう言ったが、他の者たちも似たような顔になっている。

 このくらいであれば、自分たちも試したことはあると言いたげだった。

 それに対して、セイヤたち『天翔』の面々は何も言わなかった。

 そんなことは、当然『天翔』の者たちもよくわかっているのだ。

 

 見学者の大多数が戸惑う中で、討伐隊はさらなる動きを見せた。

 攻撃を受けてから少しだけ離れていた船のうちの数機が、再び身を寄せ合うようにして近寄ったのだ。

 ただし、今度は先ほどの防御とは違っていると、分析官の一人が気付いた。

「まさか、結合攻撃を……?」

 結合攻撃というのは、複数の船の攻撃を合わせて、威力を上げて行う攻撃のことだ。

 ただし、タイミングを合わせるのが非常にシビアで、上手くいくことのほうが少ない――とされている。

 

 だが、討伐隊は、その常識をあざ笑うかのように結合攻撃を成功させた。

 強烈な一撃がダークホエールに当たるが、それだけで倒すことはできなかった。

 勿論、討伐隊もそんなことは承知の上なので、引き続きダークホエールへの接近を続けている。

 遠距離攻撃よりも近距離攻撃のほうがダメージを与えられるので、まず近付くことが重要なのだ。

 付け加えれば、ダークホエールに近付きさえてしまえば、全体にダメージを与える先ほどの攻撃はしてこなくなる。

 

 最初から倒せないことを織り込み済みで近付いて行く討伐隊に、分析官から疑問の声が上がる。

「だが、この調子で近付いても次の攻撃までには間に……!?」

 合わないと続けようとしたが、討伐隊の隊列が再び変化したことでその言葉が止まった。

 先ほど、全艦隊を守っていた船が、再び前に出て来たのを見たのだ。

 その動きを見れば、その船が何をしようとしているのかが分かる。

 

 流石にダークホエールの遠距離攻撃を二度も防げるはずはない。

 『天翔』の関係者以外は全員そう考えたが、討伐隊は気にすることなくそのままの隊列でダークホエールへと近付いて行った。

 そして、その場にいた全員の予想通り、ダークホエールの遠距離攻撃が、もう一度討伐隊へ向かってさく裂した。

 今度こそ破壊されると、その光景を見ていたほとんどの者がそう考えたが、結果はそうならなかった。

 攻撃をまともに受けた船もそれ以外の船も無事に残って、前と変わらずにダークホエールへと突き進んでいた。

 その光景に、『天翔』関係者を除くほとんどが、唖然とした表情を浮かべるのであった。

ダークホエールの遠距離攻撃は、クールタイム(次の攻撃が来るまでの時間)が二十秒です。

つまりは、今話で起こった戦闘は二十秒間の出来事ですw

とはいえ、流石にこのペースで書いていたはまったく話が進みませんので、次話以降はペースが上がります。

次話かその次で戦闘そのものは終わる予定です。

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