(10)国同士(?)の話し合い
カリーネと一緒に元の部屋に戻ったカケルは、顔色を変えているクロエたちを見て、一瞬で状況を把握した。
「クロエ、少し落ち着きなさい。私は、大丈夫だから」
大事に思ってくれていることはとてもあり難いが、流石に少し過保護すぎないかと思うが、勿論それは口に出さない。
それよりも、今はこの状況を収めるのが先だ。
「カケル様!」
「この状況だから落ち着けというのは無理かもしれないが、それでも少しは場所と時間を考えようか」
カケルたちが今いるのは、ナウスリーゼ神国の本拠地と言っていい場所だ。
その場所にいながら『天翔』の関係者が騒ぎを起こすのはいいこととは言えない。
それに、カケルが例の場所に行ってからは、さほど時間も経っていないはずなのだ。
そこまで考えたカケルは、ふと何かを思いついたようにクロエに聞いた。
「そういえば、私があちらに行ってからどれくらい時間が経っている?」
カケルがそう聞いたのは、クロエたちの様子からあまり時間が経っていないような感じを受けたからだ。
カケルの体感的には三十分近く話をしていたように思えるが、クロエたちを見る限りでは、そこまで長時間だったようには見えない。
そして、クロエからの返答は、カケルの予想した通りだった。
「時間ですか? 大体十分程度でしょうか?」
予想していたとはいえ、流石にカケルもそれを聞いて驚いた。
まさか自分が、タイムトラベル的な体験をするとは思っていなかったのだ。
もっとも、異世界に転生をしている時点で、今更といえなくもないのだが。
驚くカケルに、後ろに立ったままだったカリーネが答えて来た。
「どうやら、あちらとは時間の流れ方が違うようなのです」
「そうなのですか。それは中々貴重な体験をしましたね」
答えたカケルの言葉は、教主を相手にするものだったが、公の場ではほとんど表情を変えることがないクロエが妙な表情になった。
ただしこれは、カケルだから気付いたのだからであって、他の者たちは気付いていなかった。
そのクロエの表情を見カケルは、なぜか背中に冷や汗が流れて来たのを感じた。
その感覚を敢えて無視をしたカケルは、クロエたちを見ながら言った。
「とりあえず、以前聞いた話は間違いないことが確認できたから、ここで例の話を進める」
「畏まりました」
そう言ったときのクロエからは、すでにカケルは何も感じていなかった。
先ほどまでの感覚は一体何だったんだろうかと思えるほどだった。
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カケルがナウスリーゼ神国に来ることを決断したのは、何もカリーネが言っていることが本当かどうかを確かめるだけではない。
カケルが『天翔』関係者であることを明かしていく以上は、きちんとメリットも得ることを考えていた。
今となっては、カケルがただの関係者ではなく、総統であることも神国にはばれていることが分かっているので、用意して来た話を進めるのは簡単なことだった。
その用意して来た話というのは、神国を含めた各国が討伐するのに苦労しているヘルカオスを、『天翔』で始末をするというものだった。
「――というわけで、『天翔』としては、貴国にいるダークホエールの討伐を任せてもらいたい」
カケルが最後にそう締めると、神国側の出席者は、一様に戸惑ったような表情になった。
それもそのはずだろう。
何せダークホエールは、神国にとっては討伐できないヘルカオスで、邪魔者以外の何物でもない。
討伐できれば周囲の探索も進められるようになることから、討伐されて良いことはあっても、悪いことはないのだ。
唯一あるとすれば、ダークホエールの素材を討伐者である『天翔』に持っていかれることだが、その後の探索から得られる利益を考えれば、悪くてもトントンにできるだろう。
ダークホエールがいる場所は、それだけ有望な資源があると言われている場所ばかりなのである。
ちなみに、このダークホエールは、ゲーム内ではエリアボスという扱いだった。
さらに、ダークホエールを倒すメリットは、そのエリアが解放されるのと同時に、第四段階への技術の開放というものがあった。
ゲームを先に進めるには、第三段階の機体でエリアボスを倒す必要があったのだ。
この世界では後者の条件はないようだが、それでもダークホエールを討伐することは苦労しているのが各国の現状なのだ。
カケルも『天翔』の調査でそれを知っていたので、敢えてこの取引を持ち掛けたのだ。
教主であるカリーネは、政治的な問題に口を出すことはしない。
そのため、代表で来ていた者が、カケルの言葉に反応して申し出て来た。
「それは、私どもにとってもあり難い提案ではありますが、何分急な申し出であるので、持ち帰って検討させていただきたい」
本来国同士の会談というのは、ある程度話を詰めたうえで行うことだ。
それが、今回はいきなりカケルが言い出したので、すぐに返答できるはずもなかった。
正直なところ、これまでほとんど外交を行っていなかった『天翔』が、このようなことを言ってくるとは想像もしていなかったのだ。
もっとも、カケルが言った話は、神国にとってもメリットが大きいので、了承されるのも早いだろうと代表者たちも考えている。
カケルもそれがわかっているので、とりあえず今は頷くだけにとどめておいた。
「わかりました。では、こちらからは他にはありません」
あとはそちら次第でこの話し合いは終わりだというカケルに、神国の面々は顔を見合わせた。
神国側としては、カリーネが取り付けた約束(?)なので、交渉できるとは考えていなかった。
とはいえ、彼らも国家を運営している者たちなので、まったく何もないというわけではない。
一応、こういう時のために準備はしてあったのだが、『天翔』側がどの程度の話を望んでいるのか、現時点では全く見えない。
トップであるカケルを相手に、いきなり交渉に臨んでいいのかも判断が付かなかったのだ。
この日は、最後まで具体的な案件についての話は進まなかった。
そもそも十年間、まったく他国との外交どころか、民間レベルでの交流も行ってこなかった両組織の関係が、いきなり進むはずもない。
だが、今回カケルが出てきて、交流を行うことに含みを持たせたことで、その関係が進む可能性が出て来た。
具体的な話し合いに関しては、これから進んで行くだろうとどちらも考えている。
とはいえ、『天翔』にとっては、現状全て自力で賄うことが出来ているので、敢えて交易をする必要はない。
そこで、神国側が『天翔』にとっても魅力的な提案ができるかどうかが鍵になるだろう。
勿論、『天翔』が出せる物を神国が一方的に買うだけということもできなくはないが、それだと貿易不均衡になり、それはそれで問題が出てくる。
この辺りの調整は、どの世界、どの国であっても同じなのだ。
とにかく、カケルたちがいなくなったナウスリーゼ神国では、今後『天翔』とどう付き合っていくべきか、上を下をの議論がされることになる。
カケルが例の部屋に入れた以上、神国にとって『天翔』は、少なくともカケルが存在している間は、非常に重要な存在となる。
今までのようにただただ無視するというわけにはいかなくなったのだ。
結局、カケルが提案した「ダークホエールの討伐」だけは、神国にとってメリットが大きいので、とんとん拍子に話が進んで行くのであった。
まずは困っているヘルカオスの討伐から関係が進む……といいね、という話でしたw
ちなみに、カケルはただ単に倒すつもりはありません。
それは次回以降の話でw




