(9)神と教主との話し合い
ナウスリーゼの説明で、自分自身の意外な能力(?)のことを知ったカケルは、右手をグーパーさせながら首を傾げた。
「特に、何か特殊な力があるようには感じないのですが?」
「それはそうでしょう。実際に、エネルギーや能力として感じるようなものではありませんから」
カケルの言葉に、ナウスリーゼが頷きながら答えた。
世界に散らばっているカケルの力は、ただただ存在しているだけで、何か特殊な働きかけをしているわけではない。
要するに、それらの力を使って、カケルが具体的に特別な何かが出来るというわけではないのだ。
ナウスリーゼのその説明に、カケルは世界に散らばっているという自分の力のことをないものとして考えることにした。
自分の役に立たないのであれば、それを誇ったりしたところで、なんの意味がないからだ。
そんなカケルに、ナウスリーゼがさらに続けた。
「それから、もう気付かれているかもしれませんが、以前のようにステータスはありませんからね? 勿論、人としての能力は残っていますが」
「ああ。それはわかっています」
ナウスリーゼの言葉に、カケルは当然だというように頷いた。
ゲームの世界では当たり前のようにステータスが存在していたが、この世界では人の能力を数値で見れるわけではない。
ただ、いまナウスリーゼが付け加えたように、生を受けて身に着けた能力は当たり前のように存在している。
簡単いえば、筋トレをすれば筋肉が付くのは当然である。
以前カケルは、カオスタラサで探索をする際に、運の数値が残っていると考えていた。
だが、それはあくまでもゲーム時代の名残であって、実際に数値として現されるわけではないのだ。
そのカケルの考えは、いまのナウスリーゼの言葉で裏付けられたことになる。
いまのナウスリーゼの言葉は、数値としては現れていないが、以前のように鍛えることは出来るといっているのと同じことだ。
数値として見ることが出来ないのは不便ではあるが、大した問題ではない。
問題があるとすれば、カケルが思いつくのはひとつだけだった。
そのカケルの考えを見抜いたように、ナウスリーゼが先んじて言葉を発した。
「ただ、人の能力には限界というものがありません。それは、私のような存在からは、見ていて面白いですね」
「っ!? そ、そうですか」
不意にナウスリーゼから知りたかったことの答えを知ったカケルは、一瞬驚いた様子を見せつつも何とか立て直して返答することが出来た。
ゲームの時には、ステータスには限界があった。
それは、カケルが見つけたのではなく、とある能力の極振りをしていたとあるプレイヤーが見つけたのだ。
ナウスリーゼの言葉は、その限界がないということを示しているものだった。
カケルの能力が限界点に到達するにはまだまだ時間がかかっただろうが、それでもいつか来るはずの限界が来ないとわかれば、それだけでもやる気にはなる。
もっとも、それは永遠に能力開発(?)が続くということも示しているので、それがいいことなのか悪いことなのかは、微妙なところだが。
ただし、少なくともゲームをやり込んでいたカケルとしては、朗報と言っていいだろう。
驚きから立ち直るカケルを面白そうに見ていたナウスリーゼは、不意にカリーネへと視線を向けた。
「カリーネ」
「は、はい!」
「私はいつでもあなたを見ていますよ。出来得ることなら、貴方は貴方らしく、まっすぐに伸びてください」
何とも神らしい(?)曖昧な言い方に、カリーネは特に返事をすることなく頷きだけを返した。
ナウスリーゼにとってはそれだけで十分だったらしく、にこりと笑ってカケルとカリーネを交互に見た。
「残念ながらそろそろ時間のようです。それでは、またの機会に」
ナウスリーゼは、それだけを言い残して、その場を去った。
カケルが気が付いたときには、直前まで座っていた椅子からいなくなっていたのだ。
それを見ていたカケルは、音も無く立ち去るというのはこういうことを言うのかと、どうでもいいことを考えていた。
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ナウスリーゼはいなくなったが、カケルとカリーネは東屋に残って話をしていた。
限られた者しか来れないこの場所は、秘密の会話をするのにはもってこいなのだ。
カケルは、ナウスリーゼがいたときには言えなかったことをカリーネにいうことにした。
「それにしてもすみません。まさか、本当にナウスリーゼ様とお会いしていたとは考えていませんでした」
「そうでしょうね。こんなことを実際に口にすれば、狂人扱いでしょうから」
世界がナウスリーゼによって作られたという伝承はあっても、まさか実際に降臨しているなんてことは、世界の住人たちは考えてもいないだろう。
カリーネもそのことがよくわかっているので、そのことにういてどうこう言うつもりはなかった。
その代わりと言っては何だが、カリーネはカケルに別のことを注文(?)することにした。
「それよりも、そろそろその口調を直していただけませんか?」
以前と同じように、もっと仲良くしたいと要求してきたカリーネに、カケルはウッと言葉に詰まった。
やはり、何故かカケルはカリーネに弱いようである。
「い、いや、しかし、カリーネ様は……」
「カリーネ、です。それに、私のこれは地ですので、直しようがありません」
「でしたら私も……」
「違いますよね?」
自分も地だと答えようとしたカケルだったが、食い気味にカリーネに先に言われてしまった。
どうにか誤魔化そうとしたカケルだが、カリーネからジッと見られて、根負けしたように肩をすくめた。
「……わかったよ。これでいいのだろう?」
「はい。よろしいのです」
カケルの返答に満足したように、カリーネは笑顔になって頷いた。
そのカリーネの顔を見たカケルは、内心でため息をついていた。
やはりクロエの言う通り、自分はカリーネには弱いのではと今更ながらに思ったのだ。
もしこの場にクロエがいれば、間違いなくこれ見よがしにため息をついただろう。
それくらいはカケルにも予想できる。
とはいえ、カケルには今更どうすることも出来ない。
結局、カリーネの要望通りになったまま、カケルは話を続けざるを得なかった。
カケルの内心の葛藤を余所に、その後はナウスリーゼのことについて、どう話すかをふたりで話し合った。
下手にカケルがナウスリーゼのことを持ち出すと、『天翔』の者たちはともかく、この世界の者たちからはどういわれるか分かったものではない。
神国と同じような対応にするのが一番いいのだ。
そもそもカケルが東屋に行けたことを知っているのは限られた者たちだけなので、そこさえ押さえておけば問題にはならない。
そうした諸々の打ち合わせをしてから、カケルとカリーネは元の部屋へと戻った。
そのときには、カケルとカリーネは『天翔』総統とナウスリーゼ神国の教主になっているので、口調は元の調子に戻っていた。
だが、なぜかカケルは『天翔』の面々から白い眼を向けられているような気がして、居心地の悪い思いをすることになるのであった。
続「弱いカケル」でしたw
結局、カリーネの強引さに押し負けてしまいました。
この先どうやることやら。