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天翔ける宙(そら)の彼方へ  作者: 早秋
第2部第1章
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(8)降臨!

 カケルは、カリーネに言われるがままに、視線の先に見ている東屋に歩みを進めて行った。

 東屋がある場所は、室内であるはずなのにしっかりと光が差し込んでおり、さらには様々な花が咲き乱れている。

 残念ながら花の種類には詳しくはないカケルだが、そこに咲いている花が両手で数えられるほどの種類ではないことは、少し視線をずらすだけで見て取れた。

「――――素晴らしい場所ですね」

 心の底から思ったことを言ったカケルに、少しあとからついてきたカリーネが頷いた。

「ええ。そう思います」

 そう言いながら、なぜかカリーネは小さくクスリと笑った。

 

 その笑いの意味が分からずに、カケルは首を傾げる。

「いえ、済みません。カケル様を笑ったのではありません。まさかこの場所で、他の方とこのような話が出来るとは思っておりませんでしたから」

 不思議そうな顔を浮かべているカケルに、カリーネがそんな説明をしてきた。

 それを聞いたカケルは、まさかという表情になった。

「……ここに入って来られるのは、限られた者だけなのですか?」

「ええ、そうです」

 先ほどカリーネが、カケルにこの場所が見えるかどうかを確認してきたのには、そうした意味が含まれていた。

 要するに、東屋があの場所から見ることが出来なければ、ここに来ることも叶わないのだ。

 

 何とも不可思議な場所だが、これで神国側の者たちが驚いていた理由もわかった。

 ついでに、何のためにこの場所が存在しているかも。

「…………この場所に来られるのですか?」

 敢えて守護を外して聞いたカケルだったが、カリーネにはしっかりと通じたようだった。

 ニコリと笑みを浮かべてはっきりと頷いた。

「はい。そういうことになります。――あ、いらっしゃいましたね」

 カケルの予想が正しければ、そんなに軽い調子で迎えていいのかと思えるほどの口調で、カリーネは上空を見詰めた。

 それにつられるようにして、カケルも上空を見た。

 すでに、室内にいるはずだという考えは、カケルの中からは完全になくなっていた。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 東屋の中に置かれていたテーブルを挟むようにして、カケルとカリーネは向かい合って座った。

 カケルはカリーネに勧められるままに座っただけで、誰がどこに座るかはわかっていなかった。

 それでも、もう一つの余っている椅子には誰が座ることになるのか、聞かなくても既にわかっている。

 そして、その予想通り、カケルとカリーネが椅子に腰かけてからさほども経たずに、その椅子にはカケルの予想通りの人物(?)が座っていた。

 音もたてずに、どこから来たかもわからずに、唐突に姿を見せたその存在は、まぎれもなくナウスリーゼ神だった。

 

 

 久しぶりに見る女神の姿に、カケルは思わず目を細めてしまった。

 以前見たときよりも、ナウスリーゼは力強さと美しさが同居しているように見えた。

 さらにいえば、圧倒されるような存在感が、具体的な力を持つように圧力としてカケルの身に感じ取れた。

 これは、実際にこの世界に転生した影響だろうかと、カケルは漠然とした推測をしていた。

「お久しぶりです、カケル様。お元気そうで、何よりです」

「はい。おかげさまで、楽しい人生を過ごしております」

 ナウスリーゼからの言葉に、カケルは心の底からの本心を語った。

 実際、この世界に転生してからのカケルは、充実した日々を送っている。

 

 カケルの答えに、ナウスリーゼは嬉しそうな顔で頷いていた。

「しかし、まさかこのような場でもう一度会えるとは考えていませんでした」

 カケルとしては、次に会うのは、本当の意味で天に召されてからと考えていたので、このような対面は予想外も良いところだった。

 そのカケルの言葉に、ナウスリーゼは今度こそ声を上げて笑っていた。

「ウフフ。普通ではここまで気楽には会えないのですけれどね。カケル様は特別ですよ」

「え? でも、カリーネ様は……」

 ここでカケルは初めてカリーネの様子に気がついた。


 カリーネは、カケルとナウスリーゼを交互に、両目をいっぱいに見開いて見比べていたのだ。

 それを見れば、驚愕どころではないほどの驚きを持っていることが分かる。

 だが、カケルにしてみれば、この場に連れて来たのはカリーネなので、なぜそこまで驚くのが分からなかった。

「カリーネ様? どうしたのですか?」

 この場にはナウスリーゼ神がいるのに、思わず問いかけてしまった。

 結果的にはナウスリーゼを放置することになったのだが、当人(神?)はまったく気にしていないようで、ニコニコと笑っていた。

 

 そのカケルの問いかけに、カリーネはもう一度カケルとナウスリーゼを見比べて、大きく深呼吸をした。

「カケル様、なぜそんなにナウスリーゼ様とお話しできるのでしょうか?」

「えっ?」

 カリーネの問いに、カケルはそう言いながらキョトンとした表情になり、ナウスリーゼは面白そうに口元に手をやった。

「カリーネ、だからカケル様は私の使徒なのですよ」

「そう、なのですか」

 ナウスリーゼの言葉に、カリーネは言葉を少なめに答えていた。

 

 そのやり取りを見ていたカケルは、もしやと思ってナウスリーゼを見た。

「もしかして、ナウスリーゼ様と話をするときには、何かあるのですか?」

「そうですね。具体的には、私の神としての力を感じてしまって、きちんと話すのが難しいといったところでしょうか」

「そうなのですか」

「はい。カリーネは歴代の教主としては、それでも能力が高いのですが……まだまだ修行不足と言ったところでしょうか」

 そう言ったカリーネの顔は、カケルが見た感じでは子供の勉強の様子を見ている母親といった感じだった。

 言われたカリーネは、辛そうでもあり、情けなさそうでもあるような複雑な表情になっている。

 

 それを見たカケルはなんと言っていいのかわからずに、少し矛先を変えた話題を振ることにした。

「私は特に何も感じていないのですが、なぜですか?」

「カケル様は生い立ちが特殊ですから。そもそもなぜこちらにいらっしゃることになったのかを考えていただければわかるかと」

 ナウスリーゼは具体的には何も言っていなかったが、カケルには何のことを言いたかったのか理解できた。

 

 そもそもカケルがこの世界に来たのは、カケルが持っていた力をこの世界に反映させて、存続させるためだ。

 それを考えれば、カケルの力は、この世界に深く浸透していると言える。

 だからこそ、世界そのものと言っていいナウスリーゼとも、何の違和感もなく会話出来ているのだ。

 もっとも、カケル自身には、そんな御大層な力が自分にあるという自覚はまったくない。

 それもそのはずで、ナウスリーゼはカケルがこの世界に転生するときに、以前と変わらないような感覚で過ごせるように『調整』を行っている。

 なので、もしカケルが望むのであれば、それらの力が顕現するように修行さえ行えば、世界に散らばっている自身の力を感じ取ることが出来る。

 とはいえ、カケル自身はそんなことはまったく知らないのだ。

 

 この場にはカリーネがいるので、カケルの特殊な事情も含めてすべてを話すつもりはナウスリーゼにはない。

 さらにいえば、カケルがこの場に来た以上、また自分自身と話が出来る機会はあると考えている。

 そのため、ナウスリーゼは、ごく簡単に今の状況を説明しただけなのであった。

うーむ。

ナウスリーゼはそう簡単に出てくるはずではなかったのですが、あっさりと出てきてしまいました。

このあとの予定、どうしましょう?w


ナウスリーゼの出演はもう少しだけあります。

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