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天翔ける宙(そら)の彼方へ  作者: 早秋
第2部第1章
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(6)アーゼ訪問

 カケルが新たに呼んだミーケたちは、意外というべきか、すぐに他の屋敷の者たちに受け入れられた。

 その理由は簡単で、そもそも中型機のタラサナウスを作っているのに、メンバーを増やさないことなどありえないと考えていたようだった。

 あとは、屋敷に住むことになるのか、別の場所に住むかの違いなので、しっかりと準備は進めていたらしい。

 さすがというべきか、セリオの事前準備が万全すぎて、カケルにとっても驚くほどだった。

 なぜかそのカケルの姿を見て、クロエとシーラが気合を入れていたが、カケルは気付かなかったふりをしておいた。

 自分が余計なことを言えば、藪をつついて……ということになりかねないと、一瞬で判断したのだ。

 

 そんなカケルの決断はともかくとして、ミーケたちが屋敷に来てから数日後に、クロエからとある報告を受けた。

 それが何かといえば、ダナウス王国が屋敷に潜ませている諜報員から、情報のやり取りができるルートとして活用してほしいという打診を受けたという話だ。

 その話を聞いたカケルは、驚きはせずに、そう来たかと思っていた。

 屋敷と管理する人を与えておいて諜報員のひとりも潜ませないはずがないと考えていて、さらにそれが当たったので驚くことはない。

 それくらいのことをしていなければ、国家という巨大な組織を運営することなど不可能だということもわかっている。


 それよりも、カケルにとっては、その諜報員の言ってきた言葉のほうが重要だった。

「それで? その話は受けたんだろう?」

「はい。カケル様に事前に言わずに決断したのはすみませんでしたが……」

 さらに謝罪を続けようとしたクロエを止めて、カケルは首を左右に振った。

「いや、それでいい。この種の決断は早い方がいいからな」

「ありがとうございます。それで、その諜報員が誰か、言いますか?」

「いや。必要ないよ。自分は知らないほうが良い」


 もし名前を聞いてしまうと、おかしな態度を取ってしまう可能性がある。

 勿論、知らないふりをし続ける演技もできるだろうが、絶対に知らなければならないということもない。

 それに、もしカケルと諜報員として直接対面することがあるのであれば、最初からカケルに接触してくるだろう。

 そうしていないということは、向こうもそのつもりが無いということだ。

 それなのに、わざわざカケルからつつくつもりはまったくない。

 結果として、今のままでいいという結論になるのである。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 カケルたちがどういう立場で、そしてどういう手段でナウスリーゼ神国へ行くかという問題は、カリーネから渡された封書を使って何度かやり取りされた。

 その結果、立場としては冒険者、行く手段はナウスリーゼ神国が用意したタラサナウスに乗って行くことになった。

 ただし、いつでも『天翔』に戻れる手段が確保できるように、『天翔』のタラサナウスをいくつかナウスリーゼ神国に置いておくことも付け加えられている。

 カケルは、『天翔』のタラサナウスと軽く言っても、その内実は軍用船になるので、簡単に許可が下りるはずがないと考えていたのだが、あっさりと向こうが許可してきたのには驚いた。

 それだけ教主であるカリーネのことが信用されているのか、あるいはその背後にいると思われる女神のことが考慮されているのか、カケルには今のところ判断がつかない。

 それでも、『天翔』の用意したタラサナウスを神国内に入れていいのであれば、問題の大半は解決する。

 勿論、カケルが乗るタラサナウスは神国が用意したものなので危険はあるが、事前に『天翔』の者たちを乗せても構わないとさえ言ってきたので、それもある程度はクリアしている。

 普通に考えればありえないほどナウスリーゼ神国が譲歩しているともいえる内容だが、カケルたちとしてはありがたくその恩恵に乗っかることにした。

 

 ナウスリーゼ神国が用意したタラサナウスにカケルが乗ろうとしたときには、ダナウス王国内でちょっとした騒ぎになっていた。

 それもそのはずで、タラサナウスレースで有名になった冒険者が、神国の用意した政府機に乗って神国に向かうのだから、何事かと思うのは当然だろう。

 中にはカケルが神国に取り込まれたと騒ぎ出す輩までいたのだが、そのときのカケルはそんなことまでは知らなかった。

 とにかくカケルたちは、神国の関係者に案内されるままに用意された政府専用機に乗って、ナウスリーゼ神国の首都であるアーゼへ向かうのであった。

 

 

 アーゼの街は、カケルの目から見て何とも不可思議な場所だった。

 国が神国であることから、敬虔な信者が多い国であるだけに一般の者が祈りを捧げる場所である神殿は数多く存在している。

 その見た目は、パルテノン神殿のようなまさしく神殿といったものなのだが、普通に人々が暮らしている建物は、日本の木造建築と似たような感じなのだ。

 勿論、マンションのような建物もあるのだが、カケルの感覚からすれば違和感がある。

 

 そして、さらにその違和感を増加させる原因が、いまカケルの目の前にあった。

「うーん。なんで教主の住まいが神社になっているんだ?」

「……はい?」

 思わず呟いてしまったカケルの言葉を拾ったカリーネが、首を傾げながらカケルを見た。

 

 別にこの世界に神社が建っていること自体は、珍しいことではない。

 ダナウス王国の首都であるペルニアでも、探せばいくつか見つけることが出来るだろう。

 あくまでもカケルの感覚がこの世界のものとは違っているだけなのだ。

 

 カリーネに疑問の視線を向けられたカケルは、ジッと立派な神社を見てから、

「この建物だけ神社になっているようですが、なにか意味があるのですか?」

 ひとつの神を信仰しているのであれば、建物も統一されるのではないかという意味を込めての問いかけに、カリーネは一度頷いてから説明した。

「ああ、そのことですか。実は、わたくしたちも理由はよくわかっていないのです。ただ、初代教主がナウスリーゼ神から神託を授かった際に、そうするようにという指示があったようです」

「あー、なるほど」

 神託を得たという斜め上の回答に、カケルは曖昧な顔になって頷いた。

 それであれば、他の建物も統一してしまえばいいのにとは言わない。

 あくまでもカケルが感じている違和感は、元の世界での感覚でしかないことをわかっているためだ。

 ちなみに、『天翔』でも神社や神殿、モスクなどが混在しているが、それはきっちりと区画を分けて作ってある。

 好きな建物に祈りに行けばいいというスタンスなのだ。

 

 カケルの心情がわかっているのかいないのか、今度はカリーネが問いかけて来た。

「わたくしも一つ質問があるのですが、いいでしょうか?」

「なんですか?」

「カケル様は、神社での作法をきちんとわかっているようですが、どこでお知りになったのでしょう? それとも、『天翔』には作法が伝わっているのでしょうか?」

 カリーネのその問いかけに、カケルは首を傾げた。

 そもそもこの世界での神社の作法がわかっていないので、自分の何を見てカリーネがそんなことを聞いてきたのかがわからなかったのだ。

「どうでしょう? 細かいことは分かりませんが、少なくとも私にとってはごく当たり前のことをしたつもりです」

 カケルがそう答えると、カリーナは一度だけ大きく目を見開いて驚きを示して、すぐに笑顔になった。

「……そうですか。カケル様にとっては、当たり前のことだったのですね」

 そう話しているときのカリーネの笑顔は、教主としてのものではなく、ごく個人的なものに感じたと、後にカケルは語ることになるのであった。

神社訪問でカケルがなにをしたのかは次話で。

神社の作法を知っている人にとっては、大したことではありませんw

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