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天翔ける宙(そら)の彼方へ  作者: 早秋
第2部第1章
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(5)各方面の蠢動

 ダナウス王国王コンラートは、ウォルターからの情報に眉をひそめた。

「……何? なぜナウスリーゼの教主が、一冒険者カケルのところに行くのだ?」

「話の詳しい内容まではわかっていません。人払いをした上で、話をしていたようで……」

 カケルとクロエが予想している通りに、カケルの屋敷では一部王国の手が入った者が勤めている。

 もっとも、筆頭執事のセリオは、絶対に自分の立場で得た情報を漏らすような人物ではない。

 だからこそコンラートは、セリオをカケルに紹介したのだ。

 カケルから一定の信用を得るためでもあるのでそれはそれで構わない。

 問題なのは、他の人物からの情報も一切入らなかったことだ。

 

 ウォルターの言葉に、コンラートは難しい顔になって腕を組んだ。

「やはりこの程度のことは予想していたわけか」

「どうしますか? 情報の引き渡しを止めるという手もありますが……」

 確認するように聞いてきたウォルターに、コンラートは首を左右に振った。

「いや、やめておこう。直接会って話をする以外に、裏で言葉が伝わるルートは持っていたほうが良い」

 自分たちの手がばれていたとしても、その上で潜り込ませている人物を別の意図で利用することはできる。

 いまコンラートが言ったことも、そのうちのひとつだ。

 相手側から情報を抜き取るだけではなく、こちら側の情報を伝えるルートとしては、潜り込ませた諜報員は最適なのだ。

 それは、相手が諜報のことに気付いていないと使えない手だが、既に警戒されているカケルに対しては、有効な手といえるだろう。

 

「それでは、そちらの方向で打診してみますか?」

「そうだな。……いや、直接カケルに言うのではなく、傍にいたあの女に言ってみるといい」

 コンラートは、以前にカケルと話をした時のことを思い出しながらそう言った。

 カケルの傍にいた女性というのはクロエのことだが、コンラートの目から見ても彼女はただの美人なだけの人物には見えなかった。

 例え裏ルートの打診をしても、端から拒否したりはしないだろうと考えての提案だ。

「畏まりました」

 国王の考えを見抜いたウォルターは、クロエにどうやって話を持っていくべきかと頭を悩ませながら、丁寧に頭を下げるのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 カケルとカリーネが対面したという情報が入ってきてから一週間ほどが経ったある日。

 コンラートの元に、今度は別の重要な情報が入ってきた。

 この時情報を持ってきたウォルターは、珍しく色を失ったような顔になっていた。

「どうしたんだ、ウォルター。其方が、そんな顔になるのは珍しいな?」

 本当に珍しい事なので、コンラートも茶化すでもなく、真面目な顔になってそう言った。

 基本的には真面目なウォルターだが、時と場合をわきまえて行動しているため、時に茶目っ気を示すコンラートに対してどうこういうことはない。

 だが、この時ばかりは、そうしたことをする雰囲気ではないと感じ取っていたのだ。

 

 コンラートに問われたウォルターは、余計なことは一切せずに、ただ自分が手に入れた情報を王へと伝えた。

「例の冒険者ですが、神国へと向かったようです」

「なにっ!?」

 流石にこの情報には、コンラートも驚きを示した。

 教主と対面して何日も経たずに、神国への移動だ。

 両者の間で、そのための話し合いが行われたことは、深く考えなくても分かる。

 

 問題は、一冒険者であるはずカケルが、一体何の用で教主自ら誘いを受けて神国へと行くのかということだ。

「…………もうばれてもいいと考えているのか? それとも、別の目的が?」

 この段階になって、コンラートはカケルが『天翔』の総統ではないかという憶測を、実際のことだと考えることにした。

 教主が一冒険者を神国へと招いたことがこれまでになかったわけではないが、それでも非常に珍しい事態といえる。

 それよりは、教主がカケルの正体をわかったうえで、神国へ招いたと考えるほうが自然である。

 何よりも、カケルが新たに屋敷に招いた『仲間』が、全員ナウスゼマリーゼであったことが、それを証明しているようなものだった。

 

 それよりもコンラートは、いまになってカケルが『天翔』の総統だとばれるような行動をしていることが気になっていた。

「そうせざるを得ない状況になったのか、それとも最初から考えていたことなのか……」

 特に教主が関わっていることが、ことを複雑化させている。

 そもそも『天翔』がいきなりこの世界で確認されたことを考えれば、が関与していると考えるほうが自然だ。

 そして、ナウスリーゼ神国には神の直接の関与があるのではないかという話も、まことしやかにささやかれている。

 そのことを合わせて考えれば、今回のカケルの動きは、ダナウス王国にとっても重要なものになるとコンラートは確信していた。

 

 ジッと考え込むコンラートに、ウォルターがそっと話しかけた。

「渡航を止めるように要請しますか?」

 一応カケルは、ダナウス王国に所属している冒険者だ。

 冒険者は移動の自由が保障されているとはいえ、国の重大時には渡航を制限することもできなくはない。

 もっとも、それをすれば冒険者ギルドから睨まれることになるのは、間違いないのだが。

 

 だが、ウォルターの言葉に、コンラートは首を左右に振った。

「いや。そこまですることはない。ただ、向こうで何をしていたのか、できる限りの情報が欲しいな」

 コンラートはそう言いながら大きくため息をついた。

 ナウスリーゼ神国での情報の入りにくさは、『天翔』が来るまでは、この世界ではトップを誇っていたのだ。

 国王である自分が指示を出したからと言っても、肝心な情報が入ってこないことは目に見えていた。

 それでも、何もしないよりははるかにましだ

 

 自分の指示を受けてその場から去って行ったウォルターを見ながら、コンラートは誰に言うでもなくその場で小さく呟いた。

「――――これから世界が動くことになるのか、それとも今まで通りに行くのか。いや、希望的観測はしない方がいいな」

 そのコンラートの呟きは、誰の耳に入ることなく、ただ空中に消えて行くのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 豪奢な飾り付けがされている部屋で、男が二人対面していた。

「――どうやら教主が再び動いたようです」

「またか。引きこもりの人形が、最近は忙しいことだな。今度は一体なんだ?」

「詳細はわかりませんが、なにやら冒険者を招き入れたようです」

「何っ!?」

 その報告に、目上らしき男が本気で驚いたような顔になった。

 

 ナウスリーゼ神国は、自分で動くことはおろか、客人を招くことすら滅多にない。

 その相手がただの冒険者となれば、男が驚くのも当然のことであった。

「……その冒険者とは何者だ?」

「詳しくはわかっていません。何か月か前に、ダナウス王国に現れて、華々しい活躍を見せているとしか」

「――詳しく調べさせろ。あとは、神国で何が行われるかだが、こちらは難しいか」

 ナウスリーゼ神国からの情報の入りにくさは、男もよくわかっている。


 それでもただ黙って見ているわけにはいかない。

「とにかく、他国からの情報でもいいから、出来る限りの情報を集めろ。それによって、対応を考える」

「では…………?」

「いや、まだ早まるな。まずは情報を集めてからだ」

 先んじて動こうとした報告者を止めた男に、報告者は丁寧に頭を下げるのであった。

カリーネがカケルに接触したことで、色々と動き始めました。

ちなみに、今回は名前は出てきていませんが、男に関しては後々確実に名前が出てくる予定です。


※本日の感想の指摘で気付いたのですが、教主の名前はカリーネが正しいです。

これまで混在(この章の一話で混ざっていた)していましたが、本日統一させました。

混乱させて申し訳ありませんでした。

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