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天翔ける宙(そら)の彼方へ  作者: 早秋
第2部第1章
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(3)翻弄される話し合い

 ナウスリーゼ神国の教主が政治的にあまり関わりを持っていないということは、それ以外の国々でも認められていることである。

 それは、教主がごく限られたときにしか政治に介入することが無いためだ。

 単に表に出てこず、必要なときだけ政治的発言をしているのでは、という意見ももちろんあるが、大方の意見は本当に政治には介入していないというものだった。

 ナウスリーゼ神国と犬猿の仲だと自他ともに認めているユリニアス皇国でさえ、公的にそう見解を示しているのだ。

 これが他の国の見解であれば、裏でやり取りがあってそう発表しているのではないかという疑いも持たれるが、ユリニアス皇国だけはナウスリーゼ神国との取引はあり得ないとさえ思われている。

 国同士である以上、たとえどんなに仲が悪くてもある程度の繋がりはあるものだが、そうしたものが一切ないと言われているのが両国の関係なのだ。

 

 カケルがカリーネの話を聞いてまず考えたのが、彼女が政治的に表立って動いているのかどうか、である。

 その目的が『天翔』総統としてのカケルなのか、それとも本当に言葉通りの意味で動いているのかが分からない。

 そもそもカリーネが、本当にナウスリーゼからお告げのような形で話を聞いたということを信じていいのかも不明なのだ。

 そんなことを考えていたカケルよりも早く、クロエがカリーネをまっすぐに見ながら問いかけた。

「それでカリーネ様は、そもそも何のためにこちらにいらっしゃったのでしょうか? カケル様にハニートラップでも仕掛けに来たのですか?」

 思いっきり直接的な問いかけをしたクロエに、カリーネは特に怒りを示すでもなく、クスリと笑ってから答えた。

「それでカケル様が引っかかるのであればいいのですけれどね。残念ながらそう簡単ではないでしょう?」

「それは………………」

「それに、カケル様の好みのタイプは貴方のほうでしょうから、貴方がそばにいる限りは、あまり意味がないと思います」

「そ、そんなことは……」

 カリーネの言葉に、クロエは頬を赤く染めて俯いた。

 そして、それを見ていたカケルは「クロエ、ちょろすぎだろう」と思ったりしていたが、否定できない事実であるだけに、余計なことは言わないでおいた。

 

 クロエの反応を見なかったことにしたカケルは、彼女に代わって聞くことにした。

「では、一体貴方は、こんなところまで何をしに来たのですか?」

 まさか、本当に色仕掛けではないでしょう、と言外に込めつつ、カケルは改めてそのことを問い直した。

 クロエは見事に話を逸らされてしまっていたが、さすがに落ち着いているカケルはそのことに気付いていた。

 だが、カリーネは小さく肩をすくめてこう言ってきた。

「いえ。別にクロエ様が仰っていることも、あながち間違いではないですが……信じてもらえないのは、仕方ありませんか」

 僅かに落ち込んだような表情になり、小さく肩を落としたカリーネは、真面目な顔になった。

「別に私はここで話をしてもいいのですが、本当のよろしいのですか?」

 カリーネはそう言いながら、会話の邪魔にならないように部屋の隅に立っていた執事をちらりと見た。

 この部屋には執事以外にもメイドが控えているはずだ。

 

 その視線に込められた意味を理解したカケルは、一瞬どうしようかと悩んだあとに執事を見た。

「済まないが、控えてもらえるか?」

「は、いや、しかし……」

「ここは大丈夫だ。何かあれば、クロエを呼びに行かせる」

「……畏まりました」

 最初は渋っていた執事も、カケルの念押しに最後は頭を下げて、同じく控えていたメイドとともに部屋を出て行った。

 

 

 執事とメイドが部屋を出て行くのを確認したカリーネは、一緒について来ていたサエルを見た。

 それだけの仕草でカリーネがなにを言いたいのか悟ったサエルは、コクリと頷いてからブツブツと呪文を唱え始めた。

 一瞬攻撃してくるのかと身構えたカケルだったが、隣に座っているクロエが首を振るのを見てすぐに力を抜いた。

 サエルが唱えていた呪文は、攻撃のためのものではなく、結界を張るためのものだったのだ。

 現に、サエルの呪文が唱え終わると、すぐにその結界が周囲に展開されていた。


 サエルが張った結界を、カリーネは満足げに見回してからカケルへと視線を向けた。

「これで周囲に話が漏れることはないと思います。もし不安なようでしたら、更に結界を張ってもよろしいですよ?」

 いまの部屋には、カケルとクロエ、カリーネとサエルしかいないので、別の結界を張るとなればカケルかクロエしかいない。

 ただし、カケルよりはクロエのほうが結界術には優れている。

 クロエが防諜のための結界を張れるのが当たり前だと言わんばかりのカリーネの態度に、カケルは少しだけ考えてからクロエを見た。

 その視線の意味を理解したクロエは、一度頷いてから先ほどのサエルと同じように呪文を唱え始めた。

 

 クロエが結界術を使えることを知っている者は、『天翔』の中でも少ないはずである。

 少なくともカケルがこの世界に来て、クロエと会ってからは、一度も使っていない。

 カリーネがナウスリーゼから話を聞いているということが、まだ半信半疑・・・・のカケルとしては、まずどこからその情報を得たのか確かめる必要があると考えて、次の質問をした。

「カリーネ様は、一体、どこまでの情報を知っているのでしょうね?」

 カケルは、まともに答えてこないだろうと考えたうえで問いかけたのだが、カリーネはあっさりと答えを返してきた。

「カケル様。わたくしはすべてをナウスリーゼ様から聞いているわけではありません。『天翔』には、我々では敵わない実力者がゴロゴロ存在しているということくらいです」

 カケルが『天翔』関係者であることを知っているとあっさりと匂わせたカリーネは、更に続けた。

「いまのは単に、お二人で行動している以上、どちらかは必ず結界術に通じていると考えて申し出ただけです」

「…………なるほど」

 いまのカリーネの言葉をすべて信じるのであれば、確かにカリーネはナウスリーゼと通じていると信じるに値する。

 ただし、どの言葉も憶測や推測だけで話している可能性もまだ残っている。

 十年前に突然現れた『天翔』が、この世界の中で群を抜いて実力を持っている、という前提があれば、推測できないことではない。

 

 どうするべきかと悩むカケルに、カリーネが思ってもみなかった提案をしてきた。

「わたくしのいうことが信じられない、いえ、信じきれないと言いたいことは理解できます。それでしたら、よろしければ、わたくしの招待を受け入れてくださいませんか?」

「招待?」

 カリーネの言葉に、首をひねったのはカケルだったが、クロエやサエルまでもがキョトンとした表情になっていた。

 それを見れば、カリーネが独断でそう言い出したということがわかる。

 

 そんな三人に対して、カリーネはさらなる爆弾を落としてきた。

「ええ、招待です。ナウスリーゼの首都アーゼにある、わたくしの住まいに、です」

「カリーネ様!?」

 カケルが反応をする前に、サエルが先に驚きの反応を示した。

 それをみれば、普通ではありえない特別な対応になるということはわかった。

「……それは、どっちの立場として、かな?」

 敢えて敬語を使うのを止めて聞いたカケルに、カリーネは初めて年相応の笑顔を浮かべながら答えた。

「あら。やはりそちらの方が素敵ですよ。わたくしとしてはどちらの立場でも構いません。ただ、『天翔』の総統が公式に訪問するとなると、顔は必ずばれてしまうと思いますよ? それはカケル様にとっては、よろしくないのでは?」

「…………どちらにとってもよろしくないと思うのだがな」

「確かに、それはそうですね」

 カケルの突っ込みに同意しながら、どちらでも構いませんともう一度カリーネは続けた。

 決定権はカケルにあると言い張るカリーネに、カケルはさてどうするべきかと頭を悩ませるのであった。

……なにか、これだけ見ればカケルはちょろい。と思われそうですね。

別にカケルが美人に弱いというわけではないのですが……。

え? あれ? 信じられない? 

いやだって、『天翔』の本部で美人に囲まれて過ごしていたんですよ?

(ナウスゼマリーゼは美形)

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