(11)初対面
なんとか間に合いました!
「カケル。其方に、ヘキサキューブ発見の功を称えて、いくばくかの恩賞を与える」
「謹んでお受けいたします」
ペルニアの王城にある謁見の間にて、王であるコンラートとカケルの声が響いた。
可住可能なヘキサキューブの発見の報は、すぐに国内を駆け巡っていた。
ペルニア王国では、実に数十年ぶりのひとつのルートを通るだけの近縁ヘキサキューブの発見だ。
首都から距離が近いというだけで、その後の発展を予約されているようなものである。
そのヘキサキューブを誰が治めるのことになるのか、特に国内の貴族たちが騒めくことになるのは当然のことだった。
勿論、新しいヘキサキューブを発見した者にも注目が集まっている。
そのため、発見者に恩賞を与える場には、国内の貴族たちがこぞって集まっていた。
クロエと同じように正装を着込んで立っていたカケルは、前もって教えてもらっていた通りに、文官から目録を受け取った。
そこには、先ほど国王が言っていた恩賞の一覧が書かれている。
その中身に関しては、敢えて公表されていない。
これは、今回のようなヘキサキューブの発見に限らず、冒険者が様々なものを発見した際に、莫大な富を得て余計なトラブルを巻き込むことを防ぐために、両者の合意を得て利用される制度だ。
ただし、これが貴族になると、必ず公表されることになる。
これは、一般人と違った権利を得ている貴族の義務ともいえる。
目録を手にしたカケルは、事前に行われた国王との対談を思い出していた。
それは、今行われている謁見の数日前のことであった。
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カケルたちの王城への招待は、内々のうちに進められていた。
事が事だけに、国王と相談した宰相が、秘密裏のうちに手配をしたのだ。
そのため、カケルとクロエ、それにグンターが集まる部屋に、いきなり宰相が国王を伴って現れたとき、グンターは驚きを思いっきり示していた。
横に立っていたカケルが小声で「驚きすぎですよ」と声をかけて、ようやく落ち着きを取り戻したほどだった。
ちなみに、カケルとクロエは、事前にそういうこともあるかもしれないと話していたので、大した驚きは見せていない。
ついでにいえば、カケルは驚くグンターを見て国王が一瞬ニヤリとした表情になったことを見逃さなかった。
わざとかもしれないが、それはそれで国王の性格を測る指標にはなる。
グンターの驚く顔を見て満足したのか、国王は略式での挨拶を済ませた後に、その場にいる護衛を除いた皆に座るように促した。
「グンター、そう畏まらなくてもよい。この場は、公式の場ではないからな」
ソファに座っても硬いままのグンターに、コンラート国王が笑いながらそう声をかけた。
そのあとで、国王はカケルとクロエを見て感心したように頷いた。
「それにしても、其方たちは私を見ても驚かないのだな。聞くところによると、冒険者の船で生まれ育ったと聞いているが?」
「ええ。そうです。それで間違いではありません」
国王の問いに、カケルは特に表情を変えずにそう答えた。
前世云々はともかくとして、女神が作ってくれた設定ではそうなっているためだ。
ついでにいえば、ゲームの時のプレイヤーの設定も同じような背景になっていた。
国王である自分から直接言葉を掛けられたのに、ほとんど表情を変えなかったカケルを見て、コンラートは非常に珍しい物を見るような顔になった。
「其方は、一体何者だ?」
「それは一体どういう意味でしょうか?」
『天翔』のことがばれているのかどうかはわからない今は、迂闊な答えはできない。
例えばれていたとしても、こちら側は知らない体を装って受け答えしなければ、この先の予定には進まないことをカケルは理解しているのだ。
だからこそ、嘘でもなく本当のことでもない、曖昧な状態で受け答えをすることに決めていた。
そんなカケルに対して、国王は目を細めながら応じて来た。
「大抵の者は、私と直接体面すれば、落ち着きをなくすのだがな。ほれ、そこのグンターのように」
「それでは、私はそのうちの例外のひとりということでしょう」
カケルが何者なのか、射貫くような視線で見てくる国王に対して、カケルは何事もなかったかのように矛先をずらした。
具体的なことはなにも言っていないのに、一応答えにはなっている。
そのやり取りは、まるで貴族同士のやり取りのようであった。
一般的には粗暴だと言われている冒険者や船乗りの出だとは、とても思えない。
カケルと王のやり取りを傍で見ていた宰相は、そんなことを考えていた。
国王に会話を任せているのは、コンラート自身の希望でもあったが、それと同時にカケルの本質を見極めようとしているのだ。
一方でグンターは、国王とカケルのやり取りを呆然とした思いで見つめていた。
自分とのやり取りで、カケルが一筋縄では行かないことは理解していた。
それでも、グンターの頭の中ではやはり一冒険者という思いがどこかにあった。
それがまさか、国王と堂々とやり取りできるほどの胆力をカケルが持っているとは考えていなかったのである。
そんな宰相とグンターをジッとみつめるクロエの視線には、ふたりともまったく気付いていなかった。
宰相とグンターの視線を集めつつも、コンラート国王とカケルの会話は続いてた。
「なるほどな。そういうことにしておこうか。ところで、今回のヘキサキューブの発見で恩賞がでるのだが、其方はなにが欲しい?」
冒険者が欲しがる恩賞は、それこそ千差万別のため前もって当人の意思を確認しておくことは珍しいことではない。
ただし、国王自ら直接当人に聞くことなど、ほとんど前例がないことだ。
それだけ、コンラートが今回の件を重要視しているということがよくわかる。
コンラートの問いかけに、カケルは少しだけ悩んだふりをしてから、以前から決めていた報酬を要求した。
「私がほしいものは全部で二つ……いや、三つかな? あります」
三つあるとカケルが言うと、コンラートは腕を組んでから先を促してきた。
「申してみよ」
「はい。では、まずひとつめですが、タラサナウスの大型機の製造権を」
「ふむ。それはすぐに許可がでるだろう」
ひとつめのカケルの要求には、コンラートはすぐに頷いた。
タラサナウスの大型機は、製造するのに莫大な金額がかかるため個人で所有されることはほとんどない。
企業や組織で所有する場合も、大型機の場合は大きな戦力になるため、国の許可を必要とするのだ。
勿論、許可は小型機も必要なのだが、大型機はその手続きが非常に煩雑で、一般人に対して簡単に許可が下りることはそうそうない。
よほどの功績を出すことができれば許可が下りるのだが、今回の件はその功績に十分すぎるほどのものだ。
だからこそ、コンラートはすぐにそれを認めたのである。
勿論、大型機の製造権だけでは、今回の発見の功績に釣り合う物ではない。
むしろ、これから先の要求のほうが重要なのだろうとコンラートは考えていた。
すでにコンラートの中では、カケルはその辺の貴族よりはよほどやっかいな相手だと考えるようになっている。
これからが本番だとコンラートは心の中で気を引きしめて、カケルの要求を待つのであった。
次回更新は、12/16予定です。(今回みたいに間に合えば9日に上げます)