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天翔ける宙(そら)の彼方へ  作者: 早秋
第1部第4章
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(9)報告

 とりあえず、テミス号に諜報的な仕掛けはないと判断したカケルは、ペルニアへ戻ることにした。

 テミス号に諜報関係の仕掛けが無かったことは予定外だったが、それ以外は予定通りの行動だ。

 ペルニアに戻ったあとで、どういう行動をするのかは、すでにクロエとは話し合っている。

 たとえなにかがあって別々にされたとしても、大きなずれがない状態で話も行動もとることができる。

 もっとも、クロエがカケルの傍を長時間離れて行動するということ自体、異常事態が発生しているということになるので、すでにそれが意味をなさなくなっていることも大いにあり得るのだが。


 カケルたちは、ペルニアに戻るなり、先日発見したヘキサキューブについてすぐに報告することにしている。

 新しいヘキサキューブの発見は、ここ最近ではなかったことのため、大きなニュースになることは間違いない。

 ましてやそれが、ペルニアで行われたレースの優勝者となれば、いままでよりもさらに大きな注目を集めることだろう。

 レースで優勝しただけで、あれだけ招かれざる客が来ていたのに、である。

 どんなことになるのか、カケルは『天翔』にいるときに色々な分析をしていたが、それに沿って行動することになる。

 勿論、その分析を外れることもあるだろうが、それはそのときの状況次第ということになるだろう。

 

 ちなみに、ペルニアに戻る最中に、カケルはテミスに今回の『天翔』の訪問は他言無用と言ってある。

 グレゴリーが分析した通り、諜報関係の仕掛けがまったくなければそれで問題はないが、もし未知の仕掛けがある場合は、テミスからギルドやそれ以外の組織に情報が流れることもあり得る。

 それはまた、そのときになってみないとわからないので、結局それも臨機応変に対応することになる。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 ペルニアの格納庫にテミス号を入れたカケルとクロエは、その足でギルドへと向かった。

 ギルドに入ると、そこでたむろしていた他の冒険者たちが、ふたりに視線を向けてくる。

 冒険者になるなり新しいルートを発見して、さらにはレースで衝撃的な優勝を果たしたふたりは、冒険者たちから注目されているのだ。

 それらの視線に気づきつつ、敢えて無視をしながらカウンターまで向かったカケルは、すぐに受付嬢に話しかけた。

「ギルドマスターは空いているかな? 報告したいことがあるんだけれど」

「ギルドマスターですか? 報告でしたら私が・・・・・・」

 受け付ける、と続けようとしたその受付嬢は、自分に話しかけてきているのがカケルだと気付いて、すぐに言葉を止めた。

「申し訳ございません。いま、調べますので、少々お待ちください」

 そう言った受付嬢は、傍にある通信機に手を伸ばした。

 

 受付嬢は、カケルとクロエが見ている前で連絡を取ったらしく、通信機を置くなりこう言ってきた。

「お待たせしました。すぐに来てください、とのことです」

「わかりました。直接向かってもいいのですか?」

「あ、いえ。すぐに迎えが・・・・・・あ、来ましたね」

 受付嬢が奥に続く扉に目をやると、ちょうどドアが開いてジネットが姿を現した。

 てっきり休憩か休みだとカケルは考えていたのだが、別の場所で業務をこなしていたらしい。

 

 スタスタとカケルとクロエのところに近付いてきたジネットは、ぺこりと頭を下げた。

「お待たせしました。ご案内いたします」

「よろしくお願いします」

 カケルはそう言いながら軽く頭を下げた。

 その隣ではクロエも同じように頭を下げている。

 それを確認したジネットは、微笑しながらカケルたちをギルドマスターの部屋へと先導し始めた。

 

 この時、ジネットは気付いていなかったのだが、ギルド内にいた別の冒険者たちが、カケルとクロエに向かって様々な視線を向けていた。

 憎々し気なもの、羨まし気なもの、呆然としたもの等々。

 それらの視線は、はっきりとカケル(・・・)に向けられており、その当人はしっかりとそれに気づいていた。

 クロエに向けられていないのは、人徳(?)のなせる業だろう。

 もっともそれらの視線に気付いていたとしても、特になにかができるわけでもなく、カケルは気付かなかったふりをしつつジネットのあとに続いていった。

 

 

 カケルとクロエがギルドマスターの部屋に入ると、グンターは呆れたような嬉しそうな複雑な顔でふたりを出迎えた。

「報告があると聞いたのですが、何でしょうか? まさか、またルートを発見したとかではないですよね?」

 グンターとしては冗談のつもりで言ったのだが、まさかのビンゴにカケルは思わず苦笑を返してしまった。

 そのカケルの反応を見て、グンターはピシリと表情を止めた。

「ま、まさか・・・・・・」

「ええ。実は、そのまさかですね」

 肩をすくめながらそう答えたカケルに、グンターは大きくため息をついた。

 

 そのグンターにさらに追い打ちを掛けるように、カケルはさらに付け加えた。

「問題はそれだけではなくて、そのルートの先にあるのですが・・・・・・」

「まだなにかあるのですか? ・・・・・・もういいです。覚悟を決めたので、はっきり言ってください」

 気持ちを奮い立たせるようにして座る位置を微妙に直したグンターだったが、次のカケルの言葉に大きく目を見開くこととなった。

「どうやら未発見のヘキサキューブがあるようなんです」

 実際には、あるよう(・・・・)ではなく、ある(・・)のだが、カケルはわざとらしく言葉を濁してそう言った。

 カオスタラサ内にヘキサキューブがあれば、ほぼ間違いなくタラサナウスの機材で確認出来るのだが、敢えて断定しなかったのはなにかの間違いがあると困るからだ。

 ・・・・・・という体で話している。

 本当のところは、『天翔』の部隊を使ってある程度まで詳細を確認してあるのだが、そんなことまで教えるつもりは、勿論ない。

 

 驚きを通り越してすでに表情をなくしたグンターは、平坦な声で聞いてきた。

「・・・・・・それで? まさか、居住可能型とまで言いませんよね?」

「さすがにそこまでは・・・・・・テミス号では調べられませんからね」

 敢えて感情を落としているグンターに、カケルはこれまた事実を隠してそう答えた。

 当然、『天翔』で調べた情報はすでにカケルも確認しており、見つけたヘキサキューブが居住可能型であることはわかっている。

「そう、ですか。・・・・・・なんというか、貴方の持っている運であれば、居住可能型であっても不思議ではないでしょうね」

「どういう意味ですか、それは」

 ようやく復活したグンターが呆れという感情を見せながらそう言ったことに対して、カケルは思わずジト目になった。

 

 カケルの態度をさっくりと無視したグンターは、もう一度ため息をついてから、未だに呆然とした表情で立ったままのジネットを見た。

「ジネット。・・・・・・ジネット!? いい加減復活しなさい」

「は、はい!」

「すぐにルートとヘキサキューブ発見の手続きを始めなさい。それから、調査隊の選定もだ。言うまでもないが、信用できる者を選ぶように」

 ギルドマスター直々の指示に、ジネットはピシリと背を伸ばした。

「はい! かしこまりました!」

 そう答えたジネットは、バタバタとした様子で、部屋を出て行った。

 

 それを見ていたギルドマスターは、少しだけ呆れたような表情になった。

「やれやれ。申請に必要な当人たちを置いて行ってどうするのでしょうね。・・・・・・すみませんが、ここで待っていてもらってもいいですか?」

「ええ。いいですよ」

 一連の出来事を見ていたカケルは、笑みを見せながらそう答えるのであった。

次回更新は、12/2予定です。

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