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天翔ける宙(そら)の彼方へ  作者: 早秋
第1部第4章
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(7)ふたつの部署

 『天翔』本部に戻ったカケルは、総統としての仕事に追われ……ることなく、自室で余暇を満喫していた。

 そもそも十年間もの間カケルが不在でも大丈夫だったことからもわかる通り、いまの『天翔』は総統カケルがいなくても動くようになっている。

 カケルが動くことがあるとすれば、大きな方針転換があったときの決断であったり、積極的にこの世界の他国と外交をするようなことになったときだ。

 新しい世界に移動してきたことで、次々と新しいカオスタラサが見つかってはいるが、基本的には同じような流れ作業なのでカケルが口を挟むようなことはないのである。

 そんなわけでカケルは自由な時間を楽しんで……もとい、暇を持て余していた。

「ん~……暇だ」

 そう呟いてみるが、勝手に時間が早く進むはずもなく、吐き出された言葉が虚しく宙に消えて行った。

 アルミンとフラヴィから渡された資料もすでに目を通し終わっている。

 本来であれば、ベルダンディ号でカオスタラサの探索をしに行ったりするのだが、本部近辺はほとんど探索が終わっているので遠出をしなくてはならない。

 そうなると、下手をすれば現地に付く前にテミス号の調査が終わってしまって、そのままとんぼ返りとなってしまう可能性もある。

 結果を無視してそのまま探索を続けてもいいのだが、いまのところあまり長期間ペルニアを離れることは考えていない。

 

 そんな感じでしばらく呆けていたカケルの耳に、ドアをノックする音が聞こえて来た。

「カケル様。いまよろしいでしょうか?」

 ドアを開けずにそう問いかけてきたのは、クロエだ。

「ああ、構わないよ。――――なにかあったのか?」

 扉を開けて部屋に入ってきたクロエに、テミス号の調査が終わったにしては早いので、別の用事だろうと見当をつけてそう聞いた。

 カケルのいる場所にまで近づいてきたクロエは、案の定頷きながら別の要件を口にした。

「はい。補佐室と親衛隊のメンバーが揃っているので、ぜひご挨拶をしてもらいたいと思いまして」

「ああ、なるほど……」

 カケルがいなかった十年の間に、『天翔』の総人口も増えている。

 そうなれば当然のように、カケルの馴染みのある部署の人員も入れ替えが起こったりする。

 特に補佐室と親衛隊は、カケル直属の部署となるので、顔を見せたほうがいいとクロエが気を効かせてくれたようだ。

 

 他の部署との兼ね合いで、自分が直接顔を出すのはどうかとも考えたが、そのふたつだったらいいだろうとカケルは納得した。

 それに、クロエのことだからきちんとアルミンやフラヴィにも確認を取ったうえで来ているのだとわかっている。

「そうだね。それじゃあ、顔見せにでも行こうか」

 ちょうどいい暇つぶしができたと内心で喜ぶカケルは、クロエの提案に乗ることにした。

 いずれはやらなくてはいけないことなのだから、この時間を使うのはいいだろうという考えもある。

 そんなカケルの考えを見抜いているのかいないのか、クロエはただ黙って頷いた。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 カケルの直属の部署となる補佐室と親衛隊の部屋は、カケルの部屋を中心に向かって右側と左側にある。

 どちらもカケルにとっては重要な部署になるので、いつでも駆け付けられるようになっているのだ。

 補佐室は公私の公の部分だけではなく、私の部分も担っている。

 私というのは私生活にかかわることなので、補佐室のメンバーはメイドとしての役割も持っている。

 ちなみに、アルミンとフラヴィが普段執務をしている部屋は、親衛隊の部屋の隣になる。

 補佐室の部屋の奥は行けないようになっていて、本当の意味で『天翔』本部の最奥ということになる。

 

 カケルが部屋の外に出ると、そこには親衛隊隊長のミーケと他ふたりの隊員が立っていた。

 ふたりの隊員はカケルの部屋を警護しているのだ。

 いささか緊張気味なのは、カケルが親衛隊の部屋を訪ねるために待っているミーケが、間近にいるためだ。

「お疲れ様です。どちらから行きますか?」

 さすがに公的な移動ということで、ミーケの口調も真面目な物になっている。

 ここで「にゃ」と言ったら面白かったのにと、カケルは考えていたりするが、勿論表に出すようなことはしない。

 ミーケにも一応、体面というものがあるのだ。

 もっとも、直接の部下にはバレバレだったりするのだが。

 

 ミーケの問いに少しだけ考えたカケルは、先に補佐室に行くことにした。

 特に理由はないが、なんとなくそうしたほうがいいと感じたためだ。

 決して、クロエからの無言の圧力に負けたわけではない。

 ついでに、口元は笑っていたミーケの目が鋭くなったことも気のせいだと思うことにしていた。

 

 カケルが補佐室の部屋に入ると、十人近いメンバーが起立した状態でカケルを出迎えた。

 補佐室の人員はクロエを入れて十二人となる。

 もともとカケルが生活の場としている部屋は、立場の割にさほど広くないこともあって、人数はあまり必要ないのだ。

 十二人のうち十人が元からいたメンバーで、ふたりがカケルの知らない新しく追加されたメンバーになる。

 これは親衛隊も同じことなのだが、カケルの直属の部署となる補佐室に新しい人員を補充するときは、基本的にカケルの承認が必要になる。

 だが、今回は十年近く来ないことがわかっていたので、前もって女神を通じてクロエの裁量で補充することを許可してあったのだ。

 

 前からいるメンバーに、久しぶり、ご苦労様と声をかけつつ、カケルは新人ふたりへと視線を向けた。

「親衛隊もそうだが、補佐室の人間が顔を合わせるたびに緊張していたら、仕事にならないと思うぞ?」

 特に補佐室は、カケルの私室のメンテナンスを行う役割も持っている。

 カケルの言う通り、いちいち緊張していたら仕事にならないだろう。

 苦笑しながらそう言ったカケルに、クロエがスッと頭を下げた。

「私の指導不足です。申し訳……」

 ありません、と続けようとしたクロエを、カケルが遮った。

「謝る必要なないさ。いままでまったく顔を見せなかった私にも問題があるのだから。ただ、これから慣れて行くようにすればいいさ」

「かしこまりました」

 そう言って再び頭を下げたクロエにならうように、新人ふたりも慌てて頭を下げていた。

 当然のように、他のメンバーは頭を下げている。

 いささか大げさすぎるのではないかと思うカケルだったが、周囲に示すためにもこうした態度が必要だということもわかっているので、それを言葉に出すことはなかった。

 

 

 補佐室を出たカケルは、そのまま親衛隊の部屋を訪ねた。

 親衛隊は、部署が部署なので直立不動で立っていてもカケルはなにも言わなかった。

 代わりに、楽にしていいと言ったあとに、これから先の予定を話すことにした。

「これからアルミン、フラヴィとも話し合うが、親衛隊は男性隊員を入れることも含めて、大幅に拡充する可能性がある。そのことを念頭に動いていてくれ」

「「「「「はっ!!」」」」」

 カケルの言葉に、隊員たちは敬礼を返してきた。

 それを満足げに確認したミーケは、問いかけるような視線をカケルへと向けた。

「それは、積極的に外交を始めるということですか?」

「それもひとつの選択肢ということだな」

 実際にはまだまだはっきりとした方針を決めているわけではない。

 だが、今後のカケルの行動いかんによっては、ミーケが言った通りになることもあり得る。

 

 外交を積極的に行うということは、これまで以上に親衛隊の出番が出てくるということになる。

 今後の親衛隊をどうやって運営していくことになるのか。

 ミーケは、カケルの顔を見ながらどうするべきか、頭の中で様々なシミュレーションを行うのであった。

次回更新は11月4日予定です。


すいません。書籍化作業がもろ被りして、webの執筆作業がほとんど進んでいません><

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