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天翔ける宙(そら)の彼方へ  作者: 早秋
第1部第4章
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(5)戻ってきた理由

 カケルがこのタイミングで『天翔』に戻ってきたのにはふたつの理由がある。

 ひとつは『天翔』の現状をきっちりと確認しておきたかったことだ。

 『天翔』は、この世界にある各国となるべく関わらないように存在している。

 そのため、情報を外に持ち出せば、それだけ『天翔』の現状が外に漏れてしまう可能性がある。

 それを防ぐためには、カケル自身が本部まで来るのが一番いいのだ。

 それであるなら最初から『天翔』に来ていれば良かったのではという突っ込みも来そうだが、それだとカケル自身が面白くない。

 どうせだったら最初から「『天翔』の」カケルとして知られるよりも、無名のところから名を知られるようになった方がいいという、カケルのいたずらがある。

 その目論見は、いまのところ上手くいっているので、結果としては上々といったところだ。

 

 もうひとつの理由というのは、カケルがこれまで使ってきたテミス号のことだ。

 冒険者が探索で得る情報は、基本的にはそれぞれの個人が握っている。

 どの情報を開示するのかは、これまでのカケルがしてきたようにそれぞれに委ねられているのだ。

 だが、それはあくまでも表向きであって、裏では情報を掴まれている可能性は大いにある。

 そうした情報を得るために一番仕掛けやすいのは、テミス号なのだ。

 なにもカケルはゲルトを疑っているわけではない。

 ただ、機体にそうした情報を得るための小さな部品を仕込んだり、疑似妖精であるテミスにちょっとした仕掛けをすることも不可能ではない。

 特にテミスについては、表面上は大きな違いが出ないためちょっとした整備で見つけることなど不可能なのである。

 だからこそカケルは、ヘキサキューブを発見した時点で、大掛かりな検査ができる『天翔』本部まで足を運んだのだ。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 検査結果が出るまでの間、カケルは執務室でアルミン、フラヴィと一緒に執務に励んでいた。

 といっても、十年間のブランクがあるので、カケルがしているのは資料に目を通すことだ。

 いまは、以前アルミンから渡された資料よりも細かい情報が乗っているものを確認している。

「…………ふう」

 一通り資料に目を通し終わって一息ついたカケルだったが、ちょうどいいタイミングで待っていた報告が来た。

 

 別室で細々とした作業をしていたクロエが、室内に入ってきたのだ。

「カケル様、よろしいでしょうか?」

「ああ。どうかしたのかい?」

 アルミンとフラヴィが作業をしながら聞き耳を立てているのを感じつつ、カケルは視線をクロエと向けた。

「精密検査の見積もりがたったとグレゴリーから連絡がありました」

 グレゴリーは、ベルダンディ号の乗組員だが、テミス号の調査を引き続き行ってもらっていた。

 調査する場所を変に移動するよりも、そのままベルダンディ号の中で行って貰ったほうがいい。

 さらにいえば、ベルダンディ号に限らず『天翔』で使われている公的な機体のほとんどは外部からの諜報を防ぐ作りになっている。

 今回の場合では、ベルダンディ号の中からテミス号が何かをしても防げる。

 最悪の場合、ベルダンディ号だけで被害が防げるようになっているのである。

 テミス号になんの仕掛けもなければ意味のない対策だが、国に匹敵する組織を運営している以上、必要なことなのだ。

 

 カケルは、先を報告するように視線だけでクロエを促した。

「整備長によると、機械的な仕掛けはなさそうということでした。あとは精霊次第だと」

「そうか……」

 ある意味予想通りの結果に、カケルは渋い顔になった。

 いまクロエが言ったことの意味は、機体に余計な機器が付いていたりはせず、あと調査出来ることは精霊、すなわちテミスに何か仕掛けが施されていないかを調べるということだ。

 疑似精霊であるテミスは、名前こそ精霊ではあるが、人工的に作られたものである。

 一応最上位者がカケルで登録されてはいるが、さらに上の命令権を持つ者を作っておくことも不可能ではない。

 とはいえ、そうした造りになっているのか、調べるのにはそれなりの時間がかかる。

 どんなことでも当てはまるが、無いことを見つけるというのは、大変な作業なのだ。

 

 疑似精霊の調査には、どう見積もっても半月以上はかかる。

 その間、ずっと本部に籠って書類とにらめっこしているのは、時間がもったいない。

「……ということは、探索にでも出るか」

 ポツリと呟かれたカケルの言葉に、アルミンが反応した。

「なにが、ということですか。折角戻られたのですから、書類整理をお願いします」

「いや。書類整理はベルダンディ号でもできるじゃないか。本部に籠ってやらなくてもいいだろう?」

 僅かに視線を逸らして言われたその言葉に、アルミンは呆れたようにため息をついた。

「場所が変わってもカケル様はカケル様ですね。長期間、一か所にとどめておこうと考えたのが間違いでした」

 聞きようによっては失礼に当たるようなアルミンの台詞だったが、それを咎める者は誰もいない。

 さすがのフラヴィも、こればかりはカケルのことを庇いようがなかったのである。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 『天翔』本部の周辺には、二十以上のルートが存在している。

 通常のカオスタラサでは、四、五本のルートが見つかればいい方なので、これは破格の数と言っていい。

 そもそも『天翔』本部がある場所は、カケルがゲーム時代に見つけたカオスタラサのひとつだった。

 存在するルートの数が多いため、本部をここに置くとカケルが決定したのだ。

 本部を置くと決定したときからかなりの年月が経っているため、ウルス号の周辺のカオスタラサは、探索が百パーセント終了している。

 勿論、カオスタラサは自然なので、時に変化を起こすこともある。

 ただ、本部周辺は常時観察されている状態なので、少しでも異変が起こればすぐに詳細な調査が行われるのだ。

 結果として、本部周辺の探索状態は常に百パーセントということになっている。

 

 つまり、なにがいいたいかといえば、『天翔』本部周辺は非常に安全な場所ということになる。

 となれば、カケルが次に行うのは、

「クロエ、カイザル、それからベルダンティ」

「何でしょうか?」

「はっ」

「はい」

 名を呼ばれた三人がそれぞれ順番に返事をすると、カケルはごく普通のことを言うような顔でのたまった。

「せっかくの機会だから、完全手動運転フルオペを試しておきたいんだよね」

 カケルがそう言うと、一瞬艦橋内に緊張が走った。

 完全手動運転とは、簡単にいえば、普段多くの人員を使って運航しているベルダンディ号をカケルとクロエと疑似精霊であるベルダンティの力だけで動かす状態のことである。

 これほどの規模の船をたったそれだけで動かせること自体ありえないことなのだが、それを可能にしているのがベルダンディ号なのだ。

 とはいえ、フルオペを行うと操縦者にはかなりの負担がかかるため、誰にでもできることではないのだ。

 

 だが、直接言われたクロエやカイザルは、大きく表情を変えることなくすぐに頷いた。

「よろしいのではないでしょうか」

「そうですね。私も賛成です」

 ふたりがそう言うと、カケルは視線をベルダンティへと向けた。

「かしこまりました。それでは、いまからモード変更の手続きを行います」

「ああ。頼む」

 普通ではありえないフルオペは、カケルだけが許可を出せる運用方法になる。

 そのため、いままでは簡単に移行出来ないモードになっていたが、カケルが戻ってきて探索に出ることになる以上、いつでも変更ができるようにしておく必要がある。

 カケルの了承を得たベルダンティは、フルオペがいつでも可能になるように、艦の調整を始めるのであった。

次回更新は、10月8日(予定)です。

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