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天翔ける宙(そら)の彼方へ  作者: 早秋
第1部第4章
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(4)『天翔』本部

 ウルス号の中に入ったカケルたちは、そのまま『天翔』の中心部へと向かっていた。

 本来であれば、総統という立場にあるカケルを出迎えるのが普通なのだが、それはカケル自身が断った。

 仰々しく出迎えられるのが嫌だということもあるが、なによりもこれから頻繁に出入りすることになるのに、そのたびにそんなことをしてはいられないというのが理由だ。

 最後までフラヴィは渋っていたが、アルミンの説得とカケルの駄目押しで、渋々と認めることとなった。

 結果として、カケルはクロエと数名の親衛隊のメンバーとともに、ウルス号の中を歩いていた。

 

 カケルの専用船であるベルダンディ号は、当然のようにウルス号に専用の発着場がある。

 その発着場から中心までは、ほぼ一直線で向かうことができるようになっている。

 ただし、その間の警備は尋常じゃないほど厳しいもので、機械的にも魔法的にも人員的にも出来得る限りの対応が取られている。

 それは、ウルス号の中心部が総統であるカケルの生活の場になっているだけではなく、本当の意味で『天翔』の中枢が集まっているための措置だ。

 だからこそ、カケルもたくさんの親衛隊員を傍に置くことなく、こうして堂々と廊下を歩くことができるのだ。

 もっとも、全ての人員がナウスゼマリーデで構成されているカケルが、暗殺をされる可能性などほぼ皆無といっていいのだが。

 

 

 やがてカケルたちは、普通の扉よりも一回り大きめの扉を開けて、その部屋の中に入った。

「「「お帰りなさいませ。カケル様」」」

 親衛隊に続いてカケルが室内に入ると、そこには『天翔』の主要メンバーが勢ぞろいしていた。

 当然のように、右大臣と左大臣のふたりも揃っている。

「ああ。いま戻った。・・・・・・早速で悪いが、天翔の現在の状況を確認したい。資料は揃っているか?」

「はい。こちらに」

 カケルの問いかけに、右大臣のアルミンが答える。

 右大臣と左大臣は、『天翔』内では基本的に同等の扱いとなっているが、こういったときはアルミンが出てくるのが常となっている。

 

 アルミンから差し出された資料は、当然というべきか、分厚いものになっていた。

 『天翔』がこの世界に出現してから十年ほどが経っている。

 ある程度の状況はカケルもクロエから聞いているが、詳細な情報は聞くことができないので、それらをまとめてもらったのだ。

 厚くなるのも当然だった。

 しばらくの間、カケルは自分の座るべき執務机に座って、資料を読みふけっていた。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 資料を読んでいたカケルは、途中で気になる記述を見つけて顔を上げた。

「アルミン。新人たちの問題というのはなんだ?」

 読んでいた資料の中に、女神から送られたナウスゼマリーゼに、ちょっとした問題ありと書かれていた。

 そんな話はクロエからも聞いていなかったので、どんな問題かわからない。

 女神から送られたナウスゼマリーゼは、かなりの人数になっている。

 人数が集まれば、それだけでひとつの団体となり得るので、ちょっとした問題でも大きくなりかねない。

 ゲーム時代からのナウスゼマリーゼとの溝が深くなれば、『天翔』にとって大きな亀裂になる可能性もある。

 そんな大きな問題になっていれば、アルミンが見逃すはずもないのだが、わざわざカケルの目に入る資料に書いたということは、完全に無視できるようなものではないということだ。

 カケルが気になって問いかけるのは当然のことだった。

 

 そのカケルの問いかけに、アルミンが書き物をしていた視線を上げてから答えた。

「ああ、それはあれです。カケル様がいらっしゃらなかったことで、新しく入ってきた者たちの信仰心が足りないということです」

「いや、待て。信仰心って何だよ!?」

 思わず素で突っ込んでしまったカケルに、アルミンはきょとんとした表情になる。

「それは勿論、カケル様を神として奉ることですが・・・・・・というのは冗談として」

 まじめな表情でそう告げたアルミンに、カケルはぐったりとした顔になった。

 ちなみに、アルミンの向かいの席に座っているフラヴィは、なるほどと大きく頷いていたが、なにに納得していたのか、カケルは怖くて聞けなかった。

「冗談でもそういうことをいうのは止めてほしいな。君たち(ナウスゼマリーゼ)は、本気でそういうことをやりそうだから」

 チロリと視線をフラヴィに向けたカケルに、アルミンは小さな苦笑を返した。

「なるほど。仰る通りにいたします。・・・・・・フラヴィ、わかりましたね?」

「・・・・・・かしこまりました」

 渋々といった様子で頷くフラヴィに、カケルは内心で面白く思っていた。

 ゲームだったときのふたりは、ここまで感情豊かに表情を動かしていたわけではない。

 その人間臭さが、カケルにより現実味を感じさせていたのである。

 

 

 アルミンとフラヴィを見て現実を感じたカケルだが、さぼっていたわけではない。

 しっかりと渡された資料に目を通して、『天翔』の現状を把握していた。

「信仰心はともかくとして、新しく入った者たちは、しっかりと働いているようだな」

「はい。お陰ですぐに採算が取れるようになりました。備蓄にもさほど影響を与えずに、いまでは必要量の生産よりも上回っています」

 女神から用意された必要資源は、新たなカオスタラサのヘキサキューブとして用意されていた。

 とはいえ、採掘場などが用意されていたわけではないので、最初から必要量が取れていたわけではない。

 そのため、いくらか用意してあった備蓄を使ってしのいでのだが、それが枯渇する前には、供給が需要を上回った。

 現在では、必要資源のすべてを『天翔』が管轄しているカオスタラサから賄うことができるようになっている。

 

 ゲーム内で外交として賄っていた分は、女神が言っていた通り、しっかりと代わりの手段が取れるようになっている。

 それに安心して資料をめくっていたカケルは、ふと気なるデータを見つけた。

「それにしても、皆の出生率が上がっているのか?」

 カケルが見つけた気になる資料とは、『天翔』の人口推移がかかれたものだった。

 その資料によれば、ゲーム時代と比べて、明らかに出生率が上がっていた。

 もとが低かったので、例えばヒューマンと比べればまだまだ追いついているとはいえないのだが、それでも出生率は確実に増えている。

「ええ。原因はまだ特定できていませんが、数字で見る限りでは確実に上がっています。なによりも、以前と比べてカップルが誕生する率も増えているようです」

「カップルって・・・・・・。いや、間違いじゃないのだけれどな」

 そもそも夫婦(もしくはカップル)ができなければ、子供もできるはずがないのでそれはそれで喜ばしいことなのだが、組織の中央でこんな話をすること自体が場違いのような気もする。

 そんなカケルの思いを感じ取ったのか、フラヴィが真顔で返してきた。

「我々にとっては、非常に重要なことです」

「まあ、それはそうだな」

 組織を維持するためには、どうしたって新しい命の誕生は必要となる。

 ましてや、カケルを除けばナウスゼマリーゼしかいない『天翔』の運営にとっては、出生率は非常に重要な要素になるのだ。

 

 資料を見ていたカケルは、他にもいくつか気になることを見つけては、フラヴィとアルミンに聞いていった。

 それに対してすぐ答えを返すことができたふたりは、さすがというべきことだろう。

 結局その日は、カケルが資料で見つけた疑問点をふたりに問いかけては答えてもらうという繰り返しで終えるのであった。

次回更新は、10月1日(予定)になります。

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