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天翔ける宙(そら)の彼方へ  作者: 早秋
第1部第3章
33/89

(7)測定器

 カケルがギルドを通してダナウス王国の軍から受けた依頼は、カケルの操縦技術を様々な角度から分析したいというものだ。

 そのためには、軍関係者の見守るところでタラサナウスを操縦しなくてはならない。

 それは当然カケルも予想していた。

 カケルがレースで操縦していたのが小型機だったため、用意されるタラサナウスも同じ大きさのものであり、その狭い船内に自分たち以外の人間が乗ることもだ。

 ただ、さすがに今目の前で用意されている物を見たカケルは、げんなりとした表情を浮かべていた。

 カケルの視線の先には、一抱えくらいの大きさの機械から伸びているいくつものコードと、その先についている見慣れたものがあった。

 その見慣れたものというのは、健康診断などのときに体のあちこちにペタペタと貼られる、あれである。

 それを見れば、目の前の機械で何を測定しようとしているのかは、大体想像がつく。

「……まさか、本気でこれをつけて操縦しろと言う気ですか?」

「当然ですが?」

 カケルの言葉にキョトンとした表情を返してきたのは、分析担当だと紹介された白衣を着ている男だった。

 

 彼の表情を見てこれは駄目だと考えたカケルは、ターゲットを変えて軍服を着て様子を見守っていた男に話しかけることにした。

「すこし話をしてもいいでしょうか?」

「むっ? なんだ?」

 生真面目な表情で返答してきたその軍人は、いま現場にいる中では一番立場が上の者だ。

 軍のような組織の場合、一番トップに話を通してしまったほうが、いろんな意味で物事が速く進む。

「この計画が失敗してもいいのであれば、いくらでも軍の趣味に付き合いますが、今のまま進めてもろくなデータは取れないと思いますよ?」

「なんだと? どういうことだ?」

 眉根を寄せて、本気の表情でそう聞いてきた軍人に、カケルはため息をついた。

 その軍人の目は、調査に協力する気がないのかと物語っている。

 

 実際に船の操縦をするはずの軍人がどうしてそんなことも分からないのかとカケルは思ったが、それを口にしてもけんか腰になるだけだ。

 カケルはそんな対応をするつもりがなかったので、丁寧に理由を説明する。

「あなたは、スポーツ選手が能力を測るときに、こうしたものを張り付けて最高の力を発揮できるとお思いですか?」

「むっ」

「勿論、基礎的なデータを取るだけであれば、こうした測定も意味があるでしょうが、あなたたちが私たちに求めているのは、そう言ったものではないのでは?」

 畳みかけるように言ってきたカケルに、軍人のいかつい顔が若干揺れてきた。

 ここが攻めどころだと考えたカケルは、さらに駄目押しのように続けた。

「とっさの判断をしなければいけないときに、自分の身体に気になるものがあれば、当然にそれは遅れるわけですが、それでもかまわないのでしょうか?」

 カケルの手本を見たいというのは、カオスタラサの中で何もない開けた場所での操縦ではない。

 様々な障害物がある場所をどれだけ早く、どうやって飛んでいるのか。

 軍が知りたいのは、そう言ったことのはずだ。

 そんな一分一秒どころか、コンマ単位での判断を迫られるようなときに、身体に測定機器を張り付けられても最高のデータなどとれるはずがないのだ。

 カケルとしては、勘弁してくれと考えるのは当然のことだった。

 

 カケルの説明を聞いた軍人は、無表情を装っている顔の裏で内容を吟味していた。

 この軍人は、もとはタラサナウスを実際にその手で操縦していた。

 それゆえに、カケルが言いたいことはよくわかる。

 だが、そうはいっても今回のこの調査のために、それなりの人と予算が投入されている。

 カケル個人の意見のために、簡単に内容の変更などできるはずもない。

 さてどうしたものかと考えていた軍人だったが、カケルが疑問に思うまえに、ひとつの方法を提案した。

「すまないが、詳細なデータを取るということはすでに決定していることなので、おいそれと変えることはできない」

 そう言った軍人に、カケルが何かを言おうとするよりも早く、軍人はさらに言葉を続けた。

「だが、お前が言いたいこともわかる。であれば、まずはふたつ飛んでみてもらえないか?」

 カケルはその言葉で、軍人の意図をすぐに察した。

 ようは、同じコースを測定器を体中に着けた状態とそうでない場合で比べてみようということなのだ。

 その提案に、カケルはため息をつきながらクロエを見た。

 測定器はしっかりとふたつ用意されている。

 その意味を考えれば、カケルだけで勝手に決めて良いことでもない。

 そう考えての確認だったが、クロエの視線はお任せしますと言っていた。

 わざわざ確認しなくともカケルが決めたことであればクロエはしたがっただろうが、それでも必要だとカケルは考えている。

 

 クロエに向けていた視線を軍人に戻したカケルは、わざとため息をついて見せながら答えた。

「・・・・・・仕方ありません。ですが、たとえ私が本気で飛んだとしても、嘘だと主張されれば証明のしようがありませんよ?」

 身体に張り付く測定器が気になるというのは、あくまでも操縦者の感覚的な問題だ。

 そんなものに影響を受けるはずがないと言われても、カケルにもクロエにもどうしようもないことなのだ。

 そして、実際に操縦桿を握ったことのない、机の上だけで分析や理論を考えている人間ほど、そういった主張をしてくるものなのだ。

 話をしている軍人もそのことはよくわかっているのか、あるいはカケルがそう主張してくるのを予想していたのか、表情を変えず頷いた。

「ああ。それは、そうだろうな。お前がそう言っていたことは、きちんと話として上げておく」

 どうにかしようと断言しないあたり、目の前の軍人も色々とありそうだと察したカケルは、それ以上のことは何も言わず一度目の操縦をすべく、準備を始めるのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 カケルの操縦方法を確認するために用意された機体は、戦闘船ではあったが、テミス号に大きさも形も似ているもの(完全一致ではない)が用意されていた。

 当然というべきか、探索に使われるような機材は積まれておらず、その代わりに攻撃力を増すための作りになっている。

 ついでとばかりに測定器の類も多く積まれているが、操縦そのものが変わるわけではないので、カケルにとっては何の不都合もない。

 カケルが気にしているのは、あくまでも体に直接影響を与える測定器なのだ。

 まずは初めて操縦する機体になれるためと主張して、それらの測定器をつけるのを拒んだカケルは、三十分ほどの慣らし運転に出た。

 カケルたちが今いるのは、カオスタラサに浮かんでいる軍が持っている施設だ。

 その施設から直接カオスタラサに出ることができるので、出港手続きなどの面倒な作業はしなくても済む。

 

 軍用の戦闘船だからといって、船を動かすための基本的な操作が変わるわけではない。

 慣らし運転を普通にこなして戻ってきたカケルとクロエは、早速とばかりに体中に計測器をペタペタと貼られることとなった。

 それらを張り付け終わって満足げな表情をしている作業員を余所に、カケルとクロエはお互いに顔を見合わせて苦笑していた。

 思っていた以上に違和感があり、操縦を始める前から大きな影響を受けることがわかったのだ。

 速度が落ちることは、ふたりにとってはわかり切っていることとはいえ、先ほども言われた通り一度は飛んでみないとどうしようもない。

 覚悟を決めたふたりは、その状態で障害物の多いカオスタラサを飛ぶことになり、結果としてとても満足できない数値を出して練習コースを駆け抜けることになるのであった。

体中に吸盤をペタペタ貼られては、気になって仕方ありませんw

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