(1)現状把握
本日三話目
ヘキサキャスタの世界では、人々が住むことができる陸地を持つ世界を六角世界と呼んでいた。
ヘキサキューブは大小さまざまあるが、その大きさによって価値が決まっているわけではない。
というのも、ヘキサキャスタではタラサナウスという乗り物を使って混沌の海を乗り越えて行かなくてはならない。
その場合、好き勝手なルートでそれぞれの世界を行き来できるわけではない。
混沌の海の中を無事に通っていくためには、特殊な「航路」を見つけたうえでそこを進んでいくしかない。
そして、ヘキサキューブ同士をつなぐ航路は非常に限られているのだ。
そのため、それぞれのヘキサキューブの価値は、その航路の多さが決め手になっている。
もっとも一つのヘキサキューブが持つ航路が多ければ、それだけ他の世界とのやり取りも増えるので必然的に人口は多くなる。
ヘキサキャスタでは、ヘキサキューブに住んでいる人口が十万を超えると「都市」と呼んでいる。
そして、その中でも六つ以上の都市と繋がっている航路を持つヘキサキューブを首都として、それぞれのヘキサキューブを治めている国がそれぞれ皇国・王国・神国を名乗っている。
都(もしくは中央)のヘキサキューブが、他の六つ以上のヘキサキューブとの航路を持っていない場合は、国を名乗ることが出来ない。
さらに国を名乗ることができる特徴の一つとして、それぞれの国の都があるヘキサキューブと相互に繋がる航路を持っていることがあげられる。
現在それらの国を名乗っているヘキサキューブは六つあり、それぞれに王やそれに代わる存在が支配下にあるヘキサキューブを治めている。
六つある国のうちのひとつであるダナウス王国は、もっとも多くの都市への航路を持つ最大の人口を抱える王国である。
その数は実に十二航路で、他の追随を許していない。
現在のダナウス王国は、ヘキサキャスタに存在する国家の中で一番多くの都市を抱える国であり、もっとも強大な国家なのである。
「もっとも強大な国家である、ね」
カケルは読んでいた本をパタンと閉じて、そうポツリと呟いた。
周囲には誰もいないからこそ、安心して口にしている。
今、カケルがいるのは、ダナウス王国王都ぺルニアにある図書館だ。
ゲームのときにもこうした図書館はあり、主にスキルやタラサナウスのことを調べるのに良く活用していた。
転生して来て真っ先に図書館を訪ねて来たのは、今いる世界が自分の知っているヘキサキャスタとどの程度違っているかを調べるためである。
ちなみに、使われている文字や言葉は日本語だった。
ゲームの制作会社が日本の会社であることが反映されているのか、それともナウスリーゼが気を効かせてカケルが理解できるようにしたのかは分からない。
ただ、カケルとしては、言葉に違いがないことに安心したのは確かである。
そして、色々と調べた結果として、カケルが知るゲームの世界と国の名前などはほとんど違いはないことがわかった。
大きく違っているところは、今から十年ほど前に突然見つかった『天翔』の存在だ。
『天翔』と名乗るこの組織は、六つの国の首都があるヘキサキューブとの航路を持っている。
それでありながら、自身のヘキサキューブ以外には一つのヘキサキューブも持っていないため、国家としては認められていない。
いくら『天翔』が主張したところで、他の国々が認めていないのだ。
さらにいえば、『天翔』自体が他のヘキサキューブとの交流をほとんど持っていない。
全ての国家との航路があるために、互いににらみ合う結果となり未だどこの国の傘下にも入っていないのが現状だ。
ということが、確認した資料に書かれていた。
それを読んだカケルは、ナウスリーゼを通して出した指示がきちんと守られていることに安心した。
とある理由から疑ってはいなかったのだが、不測の事態が起こるということも考えられる。
だが、その資料を確認する限りでは、大きな事件も起こらずに、この十年を過ごしていたようであった。
この世界への『天翔』の出現と、カケルの転生を十年ずらすのは自分からお願いしたことである。
その目論見通りに動いているようで、カケルとしてもホッとしていた。
今はとにかく、この世界のことをきちんと調べなければならない。
知識として仕入れるべきことは、ある程度は知ることが出来た。
次は、外に出て現場で確認するべきことがある。
そう考えたカケルは、読んでいた資料から頭を上げて、元の場所へと返却した。
♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦
図書館を出たカケルは、そのままとある場所を探して街をうろつき始めた。
時間に追われているわけではないので、街の様子を見るのを兼ねている。
街の中を歩いている種族は、ヒューマンを始めとして様々な種族がいる。
ダナウス王国は、国王がヒューマンであるが、国内に住んでいる種族は様々である。
種族による迫害等も、むしろ法律で禁止している国なのだ。
ぺルニアの街は、流石に王都だけあってかなり発達している。
ヘキサキャスタの世界では、科学の代わりに魔法が発達しているので、建物から受ける印象はカケルの知る地球にある都市とはかなり違っていた。
そもそも建物に使われている素材が地球とは大きく違っているのだ。
見た目は柔らかそうに見えるのに、実際触ってみると固いというカケルの感覚からすれば、不可思議な素材が使われている。
ただ、建物の高さ自体は、どれもそこまで高くはない。
今カケルがいるのは街の中心部になるが、ほとんどの建物が三階から五階建てくらいだ。
そんな中で、カケルが目指していた建物は、異彩を放っていた。
大きさも高さも周辺にある建物とは一線を画しており、威風堂々という表現がぴったりといった雰囲気でその場に建っていた。
カケルが向かっていたのは、いわゆる冒険者ギルドだ。
ヘキサキャスタの冒険者ギルドは一般的なゲームで出てくる冒険者ギルドと変わらないが、冒険をする場所が混沌の海でありタラサナウスに乗っての探索が必須になる。
タラサナウスは、最低限の機能が付いている一番安価なもので高級自動車と同じくらいの価格になる。
普通であれば一般の者には手が出る値段ではないが、お宝を求めてギルドのドアを叩く者はかなり多い。
ちなみに、その重要度から冒険者ギルドは国家が運営している組織になっている。
そして、国家にとっても混沌の海から得られる資源は非常に重要なものとなるため、新規の登録者には手厚い保護策が取られていた。
そのひとつとして、新規登録者には一定期間タラサナウスが貸し出しされている。
勿論、無料というわけにはいかないが、それでも高価な乗り物をポンと貸し出すのは、それだけ国にとって混沌の海の探索が重要だということを意味していた。
慣れた様子で冒険者ギルドに入ったカケルだったが、入った瞬間に立ち止まってしまった。
ゲームで見知ったぺルニアの冒険者ギルドとは、配置が違っていたのだ。
仕方なしに、近くにいた職員らしきヒューマンに話しかけた。
「あの、初期登録の窓口はどこになりますか?」
「初期登録ですね。ご案内します」
教育がきちんと行われているのか、それともさすがに王都のギルドというべきか、その職員はカケルを登録窓口まで案内してくれた。
案内してくれた職員もそうだが、窓口に座っている女性は、ちゃんと(?)美人女性だった。
カケルが何を言うでもなく、二人の間で引継ぎが行われて窓口の女性から話しかけて来た。
「ようこそぺルニアの冒険者ギルドへ。初期登録とお伺いしていますが、お間違いございませんか?」
「はい。お願いします」
「畏まりました。では、説明に少々お時間を頂きますので、どうか椅子に腰かけてください」
カケルの言葉にうなずきつつ、受付嬢は座るように促して来た。
そして、カケルが椅子に座るのを確認した受付嬢は、慣れた様子で初期登録についての説明を始めるのであった。
ここから本編の開始になります。
次話からは20時投稿になります。
第一章は毎日更新の予定ですが、第二章以降はストック次第になります。
明日は、ヒロイン登場!
------------------------------------
用語説明
カオスタラサ:ヘキサキューブや様々な資源が浮かんでいる空間
タラサナウス:カオスタラサを行き来することができる乗り物
ヘキサキューブ:人が住むことができる大地や資源がある空間