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天翔ける宙(そら)の彼方へ  作者: 早秋
第1部第2章
25/89

(11)レース開始

 一日がかりで行われるペルニア―シラーズ間のレースは、常に中継が行われている。

 四六時中解説付きの放送が行われているわけではないが、その映像は常に一般の視聴者のもとに送られていた。

 リアルタイムでも解説もあるが、大抵はレースの重要なポイントで解説されるのがほとんどだ。

 中には、一日中張り付いて映像を見ているコアなファンもいるが、多くはその中継を視聴しながらレースを楽しむのである。

 長丁場のレースのため、どこで重要な展開を迎えるかはその時々によって変わってくる。

 そのため、番組を提供している主催者は、ペルニア―シラーズ間に多くの撮影機を配置している。

 

「……ずいぶんと金をかけているんだな」

 ある程度の予測が付くとはいえ、どこを通るのかもわからないレースに多くの撮影機を配置しているという時点で、かなりの金額がかかっているはずだ。

 レース開始前に、艦橋にあるモニターの一つで映像を見ていたカケルは、呆れたような表情になった。

「主催者にとっては、それ以上に利益があるということでしょうね」

 クロエの補足に、カケルも大真面目な顔で頷いた。

「だよねえ。賭けが人気があるのは、どこの世界も一緒か」

 タラサナウスのレース主催者は、ダナウス王国の公的機関が担っている。

 レースと同時に行われている賭けは、政府公認の賭博ということになる。

 レースファンの多くは、当然のようにその賭けに参加しているのである。

 

 それに加えて、レースの収入は賭けだけではなく、多くのスポンサーからのものもある。

 人気があるスポーツだからこそ、巨大広告として成り立つ。

 ただ、それ以外にもタラサナウスを開発している企業にとっては、自社で開発した機体が優勝すれば、それだけで大きな宣伝になるのだ。

 そうした企業が、レースを人気スポーツとして成り立たせるために、せっせと資金を投入するのである。

 レース出業者の多くは、こうしたスポンサーが付いているため八百長が起こりにくくなっている。

 勿論、これまで全くなかったわけではないが、八百長をやって得られる利益よりも、スポンサーからの利益のほうが大きいのだ。

 しかも、八百長が発覚した場合は、社会的責任を取らされるだけではなく、大きな実刑も待っているので、割に合わないというのが一般的な認識である。

 

 そんなレースの裏事情(?)を話しつつ、カケルは画面に映っている十五機のタラサナウスを見ていた。

 流石に大きさは制限があるため限度があるが、様々な形がある。

 それらの船が、今回レースに出場するタラサナウスとなる。

「……思った以上に偏りが少ないな」

「そうですね。単純にスピードだけに偏っているかと思っていました」

 カケルの乗るYTS系こそ無いものの、スピード特化から攻撃重視までいろんな種類のタラサナウスがある。

 それは、このレースが単に速さだけを上げれば勝てるわけではないことを意味していた。

 

「なかなか面白いことになりそう、かな?」

「そうですね」

 単純にスピード重視だけのレースになるのであれば、テミス号では分が悪い。

 そうでないのであれば、十分行けるだろうとカケルとクロエは判断した。

 

 このときのカケルとクロエは、このレースのことを分かっていなかった。

 正確には、レースに出場している冒険者たちの実力を、である。

 クロエにしては珍しく、前もって詳細な調査をしていなかったせいでもあるのだが、その調査不足がちょっとした騒ぎを引き起こすことになるとは、このレースに関係している誰も予想していなかったのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 タラサナウスレースの中継は、公式のチャンネルひとつだけで行われている。

 そもそもカオスタラサに中継機を置くことは法律で禁じられており、自由に放送を行うことができないためだ。

 公式チャンネル以外は、映像を買い取って編集したもので放送することになる。

 もっとも、公式チャンネルを運営しているのが国なので、映像そのものはさほど高くはない。

 もともと詳細を放送する放送局も少ないため、大きな不満も起こらずに放送が行われている。

 

 レース公式チャンネルでは、ちょうど今行われる新人戦レースの中継が行われていた。

「さあ、もう間もなく新人杯が開始します! スタートがどうなるのか、それぞれの船がどのルートを選ぶのか、最初の注目ポイントです」

「ペルニア―シラーズ間は、複数のルートがある分、それぞれの船の特徴が出ますからね」

「そうですね。それでは解説のクルーズさん、今大会の注目チームはどこでしょうか?」

「新人戦ということもあって、それぞれの大会で勝ち抜いてきたチームが出ていますからね。どこが勝ってもおかしくはないと思いますよ」

 新人戦はかなり大き目な大会になるが、他にも小規模なレースは毎週のように行われている。

 そういったレースで活躍しているデビュー三年以内のチームが、新人戦に出られるのである。

「そうですね。では、このギルド推薦のチームはどうでしょうか?」

「ハッハッハ。これはまた意地の悪い質問をしますね。今までの実績がゼロですから、いくら私でもまったく予想が付きませんよ」

 過去のデータがある程度あるチームであれば、これまでの傾向からどういった戦略で進むのかは予想ができる。

 ただし、ギルド推薦枠のチームに関しては、実績なしでも出場が可能になっているため、予想をすることは不可能だ。

 ではなぜこんなやり取りがされているかといえば、新人戦レースの恒例行事なのである。

 これまでギルド推薦枠で出場してきたチームは、彗星のように現れて優勝をしたり、まったく成績が振るわなかったりしている。

 これが安定した成績を残しているのであれば、それを基準に話もできるのだが、そううまくいかないのが現実なのだ。

 

 そんなテンプレをこなしつつ、画面上ではレースに出場する船がスタートラインに並ぶのが見えた。

「さあ、いよいよレースが始まります。スタートまで残り一分を切りました!」

「いよいよです。最序盤にそれぞれのチームがどんな戦略を取ってくるのか、要注目です」

 スタート時間に合わせてそのアナウンスが入ると、ついにカウントダウンが始まった。

『10…………5、4、3、2、1……!』

 カオスタラサに浮かんだカウントダウン用の表示板がゼロになると、各船が一斉にスタートラインを切り始める。

「ついに始まりました! スタートの一位争いが行われております」

「そうですね。ここで一位を取っておくと、かなり有利になりますからね」

「……おっと? そんな中、ギルド推薦のテミス号がやや遅れているか!?」

「レース初出場ということが、いきなり響きましたかね? スタートの一位争いはかなり激しいですから」

 船同士が接触してしまえば、大事故につながりかねない。

 そんな中で、各船は優位な位置をとれるように激しい争いをするのだ。

 不慣れな初心者が下手にその争いに入ると、事故を誘発しかねないのである。

 事実、レース初出場の船があるときは、スタート時点で事故が起こる確率が格段に高い。

 

「事故を嫌って後方から攻めることはありますが、これが吉と出るかは船次第です」

「はい。スピード特化の船であればこの選択は大いにあり得るのですが、テミス号は機種からしてもスピード特化というわけではないです。目的はわかりませんが、ちょっとした賭けになるのではないでしょうか?」

 レースで使われるルートは、専用の物を使っているわけではない。

 さらに、レースに合わせて閉鎖されるわけでもないので、場合によっては一般の船とかち合って順番待ちをすることもあり得る。

 だったら何のために一位を狙うんだという声も当初は出ていたが、一番にルートに入れるかどうかで結果が大きく変わることが証明されてからは、そんな声も無くなっていた。

 勿論、途中でヘルカオスとの戦闘もあり得るレースでは、スピードだけに特化しても勝つことはできない。

 それでもやはり、最初にルートに飛び込めるかどうかは、重要な要素の一つとなっているのである。

次話投稿は、5月25日の予定です。

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