(8)ギルドマスター
二度目の希少資源の採取に成功したカケルは、さっそくギルドで手続きを行った。
「えっ!? またですか?」
たまたま担当した受付嬢が一回目のときと同じ女性で、そのときのことを覚えていたのか、非常に驚かれた。
ランクが高い冒険者であれば立て続けに希少資源を採取してくることもありえるが、初心者が採取してくることなどほとんどない。
さすがに連続して採取となると、ビギナーズラックとは言い難くなる。
驚く受付嬢に内心で苦笑しながら、カケルは表向きの表情は変えずに頷いた。
「ええ。運が良かったようですね」
受付嬢は「運がいいとかのレベルと超えているような」なんてことをつぶやいていたが、カケルはそれを礼儀正しく(?)無視することにした。
そんなカケルの視線を感じたのか、受付嬢はハッとした表情を見せてから、すぐに営業スマイルを浮かべた。
「そ、そうですか。それで、今回の希少資源はなんでしょう?」
「メタルハイドですね。……依頼はありますか?」
「メタルハイドですか。ええ。さすがに希少資源となれば、依頼が途切れることはないはずですが……」
受付嬢は、そう言いながらぺらぺらと依頼が集められた書類をめくっていった。
何枚か書類をめくっていた受付嬢は、あるところで頷いてその依頼書を束の中から外した。
「……ああ、やはりありましたね。こちらになります」
カケルは、受付嬢から渡された書類の中身が問題ないことを確認して、一つうなずいた。
「ええ。問題ありませんね。手続きしてもらってもいいでしょうか?」
「かしこまりました」
カケルの答えを聞いた受付嬢は、にっこりと笑って手続きに入った。
メタルハイドのような特殊な保管方法が必要な液体の場合、引き渡しには以前のダークタイトよりも手間がかかる。
依頼主が来るまで待っていなければならないわけではないが、専用の保管場所に置く必要があるので、どうしても立ち合いが必要になってくる。
クロエと一緒に搬入作業を見守っていたカケルのもとに、作業員とは別の人間が近寄ってきた。
先ほど受付で手続きを行った受付嬢だ。
「カケル様、申し訳ありません。このあと少しお時間よろしいでしょうか?」
「え? ええと……?」
受付嬢の突然の申し出に首を傾げつつ、カケルは確認のためにクロエを見た。
カケルに見られたクロエは、問題ないと一つうなずく。
「特に予定は入っておりません」
今は冒険者をしているだけで、予定の管理などほとんど必要ないが、クロエの本来の役目はカケルの秘書的役目だ。
こうしたときは、クロエに確認するのが一番なのである。
もっとも今の場合は、単純にクロエの予定を知りたかっただけだったのだが。
クロエの返答を聞いたカケルは、改めて受付嬢を見て頷いた。
「問題ありません」
「そうですか。それでしたら、作業が終わり次第、もう一度受付に来てください」
ペコリと頭を下げた受付嬢は、そのままギルドの受付がある建物へと歩き出した。
それを見ていたカケルが、ぽつりとこぼした。
「通信機があるのに、わざわざ人を使って呼び出すのか。随分と人に余裕があるんだなあ」
「人に余裕があるのもそうですが、カケル様が端末を持っていないからでは?」
クロエの冷静な突っ込みに、カケルは苦笑を返した。
どうせカオスタラサに出てしまえば、通常の通信機は使えなくなってしまうのだ。
それならば、持っていなくても何も変わらない。
ペルニアに知り合いが多くいるとかであれば持つ意味もあるだろうが、カケルは今のところその必要はないと考えていた。
ちなみに、クロエが持っている『天翔』につながる通信端末は、カオスタラサを超えて通信できる専用のもので、一般の者たちは持つことが出来ないほど高価だ。
さらにいえばヘキサキューブのカオスタラサ周辺に、見つからないよう専用の中継基地をわざわざ置いている。
勿論、使っているのはクロエの持つ端末だけではないが、多くの資金がかかっていたりするのだ。
♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦
資源の引き渡し手続きを終えたカケルたちが受付嬢のところへ行くと、受付嬢はカケルたちを別室へと案内した。
応接室のような部屋でカケルたちが待っていると、やがて受付嬢が一人の男性を伴って現れた。
「お待たせいたしました」
「やあ、待たせてすみませんね」
受付嬢の後ろから現れたその男性は、右手を軽く上げてそう言ってきた。
そして、椅子から立ち上がろうとしたカケルたちを座るように止めてからさらに続けた。
「いやいや、そのままで構わないですよ。私も座らせてもらいます」
そう言いながら腰かけた男は、改めてカケルたちを見ながら言った。
「初めまして、私の名はグンター。このギルドのギルドマスターを務めています」
グンターはそう言って、カケルたちを見ながらニッコリと笑った。
ひとしきりの挨拶を交わしたあと、カケルは改めてグンターの様子を観察した。
年のころは四十代ほどだろうか。
細面の顔に柔和な笑顔を浮かべている。
体全体もガッチリした体型というよりは、ほっそりとした印象を受ける。
ベニグノの例もあるのですべてがそうではないが、それでもやはり冒険者は一攫千金を狙ってなるような職業のため、荒くれ者が多いイメージがある。
少なくとも一瞥しただけでは、グンターはそうした者たちを束ねているとは思えない印象を受け人物だった。
カケルが自分のことを観察しているのをわかっているのかいないのか、グンターは笑みを浮かべたまま話し出した。
「いや、お時間をとってもらってすみません。どうしても一度お会いしてみたかったものですから」
「それはかまいませんが、何かありましたか?」
首を傾げるカケルに、グンターは首を左右に振った。
「いえいえ。あなたたちが、特に何かを悪いことをしたというわけではないですよ。ただ、少しお話を伺いたかっただけです」
「話、ですか?」
「ええ。何しろ、ギルドに登録をしてから三カ月も経たずにルートをひとつ発見して、さらには希少資源を二つも取ってきたのです。私が会いたいと考えてもおかしくはないでしょう?」
相変わらず笑みを浮かべたままそう言ったグンターに、カケルは内心で、なるほどと考えた。
有望な新人が各機関から注目を集めるのは当たり前のことだ。
それならば、ギルドマスターという立場を利用して、その新人に真っ先に唾をつけておこうと考えるのは当然のことだろう。
カケルがもしギルドマスターの立場であれば、同じことをする。
だが、それとは別に、カケルはグンターが別の目的があって接触してきたのではないかと考えていた。
目の前にいるグンターからは、そういう考えを起こさせるだけの何かを感じていた。
ついでにいえば、グンターがルートをひとつと言ったときに、強調したようにカケルは感じた。
勿論、カケルはそうしたカマをかけられたからといって表情に出すほど、少なくとも精神年齢は若くないつもりだ。
それは、カケルの隣に座っているクロエも同じだ。
グンターの視線を感じながらカケルは、特に表情を変えるでもなく頷いた。
「そうですか。まあ、クロエはともかくとして、私は大したことがないでしょう?」
カケルのその冗談に、グンターは首を左右に振った。
「いえいえ、そんなことはありませんよ。中々興味深く感じています」
「そうですか?」
「ええ、そうですとも」
首を傾げるカケルに、グンターは力強く頷いた。
グンターのその仕草が、わざとなのかそれとも自然に出たものなのか、カケルには、区別することはできなかった。
次話投稿は、5月14日の予定です。




