(6)親衛隊
ぽっと出の新人が希少資源を発見することは、珍しいことではあるがまったくないわけでもない。
まさしくビギナーズラックともいえるこの現象は、普通のこととして受け止められていた。
その原因は、最初のうちは冒険のいろはも知らずに、普通は見向きもしないようなところに行くためだからともいわれている。
もっとも、それはあくまでも都市伝説レベルの話で、実際に確認されているわけではないのだが。
ただ、そうしたビギナーズラックを起こしたものが、そのあとに冒険者として大成していくのもまたよくあることなのだ。
そのため、冒険者が採取してくる物を使って商売を行っている組織は、こぞってビギナーズラックを起こした新人に注目をするというわけだ。
勿論、その中には国も含まれている。
どこの組織も優秀な人材はできるだけ自分のところで囲っておきたいのである。
そうした話をクロエから聞いたカケルは、あることが気になった。
別に注目されている云々という話ではない。
優秀な人材に目をつけておいてスカウトやら引き抜きをするのは、元いた世界でもごく普通に行われていた。
カケルが気になったのはその話ではなく、クロエがどこからそう言った情報を仕入れているのか、ということだ。
「ところで、クロエ。そういった情報ってどこで調べているだい?」
外務担当が調べているのだとすれば、少しばかり私的利用が過ぎると思っての問いかけだったが、返ってきた内容はそれとはまったく別だった。
「カケル様直属の親衛隊ですが?」
クロエがきょとんとした表情でそういったのを見て、カケルは「ああ!」と手を打った。
ナウスゼマリーデだけで『天翔』を運営していたカケルにはまったくといっていいほど縁がなかったが、ヘキサキャスタのゲームでは、組織内での裏切りというものがあった。
その中には、当然のように暗殺というものが、ある程度の確率で起こっていた。
そのため、システム的に暗殺から防ぐための総統直属の親衛隊が作れるようになっていたのである。
その親衛隊であれば、それこそカケルのために存在している部隊のため、クロエが言ったようなことを調べるために動いていても私的利用には当たらない。
もっとも、『天翔』にいる者たちで、カケルのために動くことを問題視する者はいないだろうが、それとこれとは話が別だ。
「そっか、親衛隊か」
クロエの言葉で、カケルは納得して頷いた。
繰り返しになるが、『天翔』では裏切りがなかったため、親衛隊という部隊を作っていたもののほとんど出番がなかった。
どちらかといえば、カケルがカオスタラサの探索へ行く際の護衛や、他国からの暗殺などを警戒する部隊になっていた。
そのため親衛隊のメンバーは、完全にカケルの趣味にのっとって作られていた。
内心でカケルは冷や汗を流していたが、幸いクロエはそのことには気づいていないようだった。
「だったら、今も?」
「はい。勿論周囲に控えております」
「まじかー」
まったくもって気が付いていなかったカケルは、思わず天井を仰いだ。
親衛隊がカケルの護衛をするために周りにいるのは、考えてみれば当然のことなのだ。
そんなカケルを見ながらクロエはある提案をすることにした。
今まではカケルが気付いていなかったようなので、あえて親衛隊の存在を匂わせるような言動はしてこなかった。
だが、今の話で周囲に親衛隊がいることがわかっているのであれば、やっておきたいことがある。
「あの、カケル様」
「うん?」
「ミーケと会っていただけないでしょうか?」
ミーケは、親衛隊の隊長を務めているアイルーロスナウスゼマリーデである。
親衛隊の全員と会う必要はまだないが、隊長と顔を合わせておけば、いろいろといい面がある。
特に、今までクロエが指示をしていたことが、直接カケルとやり取りできるようになるのは大きい。
カケルもクロエにいわれてようやくそのことに気が付いた。
カケルは、どうにもこの世界に来てから浮かれていて、やっておくべきことをすっかり忘れているらしいと思い直した。
「うん。そうだね。そうしようか」
「はい。ありがとうございます」
そういって頭を下げたクロエに、カケルは首を左右に振った。
「いや、頭を下げてもらう必要はないよ」
本来であれば、自分から言い出さないといけないことなのだから、むしろ謝るのは自分だろとカケルは考えている。
ここで自分が頭を下げれば、クロエが困ったような顔になるのはすぐにわかったので、それは言わないでおくことにした。
♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦
カケルの親衛隊は、すべて女性で構成されている。
今となっては過去の自分を殴りつけてやりたいが、当時は若さゆえにノリノリで揃えていた。
もっとも、同じようなことをしていたプレイヤーは山ほどいるとカケルは信じている。
と、妙な具合で自分の中で言い訳をしていたカケルは、首を左右に振った。
これから親衛隊の隊長と会おうとしているのに、余計なことを考えていると藪蛇になりかねないと思ったのだ。
「カケル様?」
突然首を左右に振るという妙な動きをしたカケルを見て、クロエが首を傾げながら聞いてきた。
「いや、なんでもないよ」
「そうですか」
そのカケルの言葉に納得したのか、あるいはしていないのか、クロエはそれ以上何も言ってくることはなかった。
今、二人はミーケと会うためにとある待ち合わせ場所で、彼女が来るのを待っていた。
待ち合わせ場所といっても、どこか隠れた場所で会おうとしているわけではない。
ホテルのそばにあるレストランで会うことにしていた。
ちなみに、設定上は、クロエの親友であるミーケと久しぶりに三人で食事をするということになっている。
場所が場所だけに『天翔』にかかわることは話せないが、今回はあくまでも顔合わせが主な目的なのでそれは問題ない。
ふたりが席についてから五分ほど経ってから、ミーケが右手を軽く上げながらやってきた。
「にゃははは。久しぶりにゃ」
軽い調子でそんなことを言ってきたミーケだが、本来の彼女はこんなノリではない。
今はあくまでも友人同士の食事という設定になっているため、こんな感じで話しかけてきているだけだ。
『天翔』にいるときのミーケは、特に部下たちにはあくまでも上官という接し方をしている。
勿論、カケルに対しても、最大限の敬意を払って接している。
ちなみに、「にゃ」の語尾は、普段からの口調でカケルがゲーム自体に設定したものだ。
アイルーロスナウスゼマリーデのアイルーロスは、猫という意味だが、すべてのアイルーロスナウスゼマリーデがその口調で話しているわけではない。
付け加えれば、この世界には猫の獣人族もいるが、彼らも同様だ。
「ああ、久しぶりだね」
「お久しぶりです」
カケルとクロエがそれぞれ返事を返すと、ミーケが自分の席に座って食事が始まった。
運ばれてきた料理を口にしたミーケが、カケルを見ながらこんなことを言ってきた。
「それにしても残念にゃ。できるなら私も一緒に船に乗りたかったにゃ」
「それはどうしようもない。いずれ中型機に乗り換えることがあれば、呼ぶこともあると思うよ」
「本当にゃ!?」
軽い調子で言ったカケルだったが、勢いよく反応したミーケを若干驚いた。
そっとクロエを見ると、わずかに顔が引きつっていた。
それを見たカケルは、ようやく早まったことを察した。
『天翔』には、ミーケ以外にもカケルと行動を共にしたがっている者たちが多くいる。
その彼らに先んじて、ミーケがカケルから言質をとったのだから喜びもするだろう。
今更嘘だということもできない。
それに、そもそもミーケは中型機に乗り換えたときの候補の一人であることは間違いないのだ。
喜ぶミーケを前にして、カケルは内心ではやばいと思いつつ、何とか表情に出さないように食事を続けるのであった。
次話投稿は、5月7日の予定です。




