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天翔ける宙(そら)の彼方へ  作者: 早秋
第1部第2章
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(5)ひとつめの希少資源

 ベニグノと会ったあとの数時間は、クロエの機嫌が悪かった。

 勿論、カケルを第一に考えるクロエのことなので、直接的にカケルに当たるようなことはしていない。

 ただ、カケルから見て何となくクロエの身にまとっている雰囲気が、そんな風に感じられたのである。

 もしかしたら、あのときにカケルが口出ししなかったことで、なんとなく後ろめたさを感じているせいでそんな気持ちになっているのかもしれない。

 そんなやや微妙な感じで、カケルはその時間をクロエと過ごすことになった。

 

 そんなカケルの葛藤はともかくとして、テミスの点検は特に何が発見されることもなく無事に終わった。

 引き渡し時にゲルトが「まったくもって問題なし。点検料をもらうのがもったいないくらいだぜ」と言うほどに問題がなかった。

 だからといってお金を払わないとごねるほど、カケルも愚かではない。

 技術者には技術者なりの誇りというものがある。

 そんなことをすれば、今後の技術者たちとの関係にひびが入る。

 それを見抜けないほどカケルは馬鹿ではない。

 もっとも、そんなことは抜きにしても、カケルの中ではお金を払わないなんていう選択肢は、かけらも思い浮かんでいなかったのだが。

 

 そんなことはともかくとして、点検を終えた翌日には、カケルたちは再び機上の人となっていた。

 ふたつめの探索エリアも、すでに目標の半分以上の確認を終えていた。

 ヘルカオスとも何度か遭遇していたが、戦えるような相手は数度しか会えず、残念ながら核も無かった。

 そして、今回の探索もそろそろ終わりかと決断しようとしたそのとき、ついにカケルが希少資源の一つを発見することとなった。

「……? ん? あれ? これって、ダークタイトじゃないかな?」

 モニターに出ている情報を確認していたカケルが、特徴ある反応を見つけた。

 タラサナウスで資源を探すのは、画面上に資源名が出てくるようになっているわけではなく、探知装置で帰ってきた反応の中からそれぞれの資源物と合致するものを見つけ出す根気のいる作業となる。

 当然ずっとモニターを見ていなければならず、休み休み行わなくてはならない。

 そうしないと、大抵の場合は、少ししか存在しない希少資源を見逃してしまうこともある。

 

 カケルの示した反応を確認していたクロエが、同意するように頷いた。

「間違いありませんね。そちらに向かいます」

「ああ。一応、ヘルカオスに気を付けて」

 今更クロエにこんなことを言うのは釈迦に説法になりかねないが、こういうときは、いくら注意してもしすぎるということはない。

 クロエもそれがわかっているので、素直に頷いて注意深く発見地点まで船を移動させた。

 

 幸いにして、発見地点までにヘルカオスと遭遇することはなかった。

 そして、ようやく見つけた希少資源の一つに、カケルが感嘆の声を上げた。

「おお。ついに見つけたか」

「そうですね。これで第一歩、といったとことでしょうか」

「うん。そうだね。これでこの船(テミス)を買い取ることもできるだろうしね」

「はい」

 周囲の状況に気をつけつつ、カケルとクロエが喜びながら話し合っていると、珍しくテミスが会話に混ざってきた。

「新しい船を買い取るのではなく、私を継続して使い続けてくださるのですか?」

「ああ。そのほうがいいこともあるからね」

「? そうなのですか」

 投影盤に浮かび上がったまま小首をかしげるテミスに、カケルは小さく笑って答えた。

「そうなんだよ。まあ、テミスが嫌だというなら新しい機体を買うことにするけれどね?」

 機体の疑似精霊であるテミスはそんなことを言うはずもないが、カケルが冗談めかしてそういうと、テミスが慌てたように両手を目の前でパタパタと振った。

「そ、そんなことは言いません!」

「そう。それはよかった」

 テミスの様子を見ながらカケルは笑いながらそう返事を返すのであった。

 

 

 希少資源の回収は、ヘルカオスの核の回収と同じように行われる。

 大雑把に切り分けられた資源の塊を船内に回収して、細かいところは人の手で処理を行う。

「おお。これは、質がよさそうだな」

 船外から運ばれてきた塊を確認したカケルは、そう喜びの声を上げた。

 普通の者が見ても何が何やらわからない黒い塊でしかないが、カケルにはその塊がどういう状態にあるのかがきちんと理解できた。

 あとは、ヘルカオスの核を取り出した時と同じだ。

 必要な部分だけを取り出して、周辺のいらない部分はカオスタラサへ廃棄する。

 希少資源とはいえ、カオスタラサの広大さから比べれば量が少ないというだけで、実際に採取するとなるとそれなりの量がある。

 そのため、そうした資源の取り出し作業は、慣れるまではかなりの重労働となる。

 もっともコツさえつかめば、それもある程度は緩和することができる。

「よし。それじゃあ、はじめるか」

 誰もいない室内で、カケルは気合を入れて作業を開始するのであった。

 

 カケルが作業をしている間は、クロエが船の操作をひとりで行うことになる。

 それまでふたりで担当していた作業をひとりで行うことになるのだから当然のように時間はかかる。

 ただ、移動をしないで周囲の監視だけを行うということもできるが、それだと時間がもったいないのだ。

 カケルがいるときの三分の一のスピードでクロエが探索を行っていると、一時間ほどでカケルが戻ってきた。

「おかえりなさいませ。いかがでしたか?」

 カケルの顔を見る限りでは、十分満足いくものだったというのがわかる。

 そして、カケルの言葉は、そのクロエの予想と変わらないものだった。

「ああ、まったく問題ないよ。いくらになるのか楽しみだ」

「そうですか」

 カケルの返事に、クロエも笑顔になって頷いた。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 希少資源は、常にギルドに依頼がある。

 特に、今回採取できたダークタイトのような転移宝玉のバージョンアップに使われる資源は、それがそのまま国としての価値につながるため、必ず依頼が出されている。

 念のためカケルがギルドの受付嬢に確認をとると、案の定すぐに頷きが返ってきた。

「ダークタイトの採取依頼ですか? 勿論、ありますよ?」

「そうか。それはよかった」

 安心したような顔になったカケルを見て、その受付嬢はピンと来たようだった。

「えっ……ま、まさか!?」

 何かを察して大声を出さなかった受付嬢は、さすがといえるだろう。

 

 何とかそれ以上の声を上げるのを抑えた受付嬢は、落ち着くように深呼吸をして、周りに聞こえないように多少小声になった。

「もしかされなくても、発見されたのですか?」

 カケルはその問いに、口では答えずにただ頷きを返した。

 それを見た受付嬢は、にっこりと微笑んだ。

「それは、おめでとうございます。すぐに準備するので、お待ちいただいてもよろしいでしょうか?」

「わかりました」

 資源の取引は、すぐにその場でポンと現物を出して終わりとはならない。

 何しろ、量が量なのでギルドまで持ち運びができるわけではないのだ。

 ちなみに、アイテムボックスのような便利魔法は、この世界には存在していない。

 研究は進められているが、今のところ発見されていないというのが現状なのだ。

 

 流石に希少資源の威力は絶大で、そのあとはとんとん拍子に手続きが進んだ。

 ギルドへの登録をしてから二カ月で希少資源を見つけるというのはいないわけではないが、非常にまれでカケルたちが関係各所から注目を浴びることとなる。

 もっとも、ビギナーズラックということもあり得るので、今のところは様子を見ているというのが現状だ。

 そうしたことをカケルは、のちほどクロエから聞くことになるのであった。

次話投稿は、5月4日の予定です。

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