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天翔ける宙(そら)の彼方へ  作者: 早秋
第1部第1章
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(11)資源探査

 休憩している最中、カケルは船内にある簡易的な台所で料理をした。

 勿論小さな船なので、台所といっても火が出る設備コンロのようなものと水が出る水道が付いているくらいだ。

 それでも、そう言った設備が何もないよりは遥かにましである。

 なにせ冒険者は、数日間人里を離れて活動することが多い。

 その間、ひたすら携帯食料を食べ続けるよりも、火の通った料理を食べた方が活動にもはり(・・)が出る。

 料理が出来る人材の確保は、冒険者にとっては必要な要素の一つとなっていたりする。

 

 カケルが料理をしたのは、そんなに深い理由があってのことではない。

 単に料理をするのが日常になっていたので、その延長で行っただけである。

 以前の生活では、外食(主にコンビニ)で済ませてしまうこともあったが、半分以上は自分で料理をしていた。

 独り身ゆえに身に付いた生活習慣とも言える。

 

 そのカケルが作った料理を口にして、クロエが真剣な表情で聞いてきた。

「これをカケル様が作られたのですか?」

「いや、そうだけれど? というか、作ることができるのは、自分以外にいないよね?」

 船の中という閉ざされた環境の為、今は料理を出来るのがカケルかクロエしかいない。

 そのクロエがモニターをチェックしていたのだから、当然出て来た料理を作ったのはカケルということになる。

 カケルの台詞を聞いたクロエは、「これを、カケル様が」とか「ひょっとしたら、私よりも」など、ぶつぶつを呟いていたが、カケルは礼儀正しく(?)聞こえなかったふりをした。

 それよりもカケルとしては、この世界に米があったことが何よりもうれしかった。

 カケルは、パンよりもやはり米というという人種なのである。

 

 片付けは私がします、と言い張ったクロエと代わって、今度はカケルがモニターとにらめっこをしていた。

 もっとも、船に重大な危機が迫るようなことが起これば、警報が鳴り響くシステムになっているので、そこまで目を皿にして見るようなことはない。

 どちらかというとモニターでチェックをしているのは、このあと行う予定になっている資源探査の事前チェックである。

 船に乗っている機材で探知できている物は勿論、範囲外の場所についてもどうやって探査をして行くのか決めているのである。

 手当たり次第にあちこちを動き回るよりも、最初から計画的に動いた方が、効率が良かったりする。

 まさしく、急がば回れの精神であった。

 

「さて、どうするかな?」

 具体的には、今いる場所を中心に渦巻き状に回っていく方法や、ビルの階層を万遍なく下から上がっていく方法がある。

 さらには、隙間なく埋めていくこともあれば、ある程度の隙間を開けて時間を短縮することもできる。

 ゲームのときは確率的にどうすればいいのか、理論的に計算されていたりもしたが、この世界でそれが通用するかどうかは分からない。

 何故なら、女神という存在がある以上、資源の分布も恣意的に行われていてもおかしくはないである。

 あの女神がそういったことに手を出すとは思えないが、他にも似たような存在がいるかもしれない。

「……なにか、考えるだけ無駄な気がしてきたな」

 もし、意図的に資源が配置されていれば、理論など全く関係なくなる。

 そうなってしまえば、結局運に頼るしかなくなってしまうのである。


 カケルが、頭を左右に振ってため息を吐いたちょうどそのとき、片づけを終えたクロエが席に戻って来た。

「探索の効率についてですか?」

「ああ、クロエ。お疲れ様。ああ、そうなんだけれどね。神とかそういう存在のことを考えたら、前と同じでいいかどうか分からなくなってきた」

 ナウスリーゼという女神がいる以上、他のそういった存在がいてもおかしくはないが、カケルが先日図書館で確認した限りでは、そうした存在の話は無かった。

 そんなカケルに対して、クロエが少しだけ考え込むような仕草を見せた。

「『天翔』でも色々と調べていましたが、そういった存在の伝承も今のところ見つかっていません」

「そうなのか」

「はい。それに、今お悩みなのは、資源の分布についてですよね?」

「ああ、そうだけれど?」

 そもそもの問題は、超常的な存在がいるかどうかではない。

 そういった存在によって、恣意的に資源が埋められているかどうかだ。

「それこそ『天翔』で確認していますが、以前のときとさほど変わらないようですが?」

「あっ!」

 別にカケルは、『天翔』の存在を忘れていたわけではない。

 ただ、ゲームのときの癖が抜けていなかっただけである。

 そもそもゲームのときの『天翔』は、あくまでも自動的に資源を回収してくれたり、生産してくれたりする存在だった。

 今のクロエの言葉から推察されるように、自発的に何かを考えたり確認したりすることは無かった。

 一応、自分が出した指示についてはきっちりとやってくれているとは思っていたが、それ以上のことはすっぱりと頭から抜け落ちていたのである。

 

 改めて『天翔』の存在のありがたさを確認したカケルは、今度こそ決断した。

「それじゃあ、以前と変わらない方法でやって行こうか」

「以前と、ということは、渦巻き型ですか?」

「うん。それで行く」

 渦巻き型に探索していく方法は、ゲーム自体にカケルが最も愛用(?)していた探査方法である。

 ただし、隙間なくグルグル回っていくのではなく、渦の間は多少の幅を持たせて回る。

 隙間の空いた所は資源を見逃す可能性があるが、そこは涙を飲んで諦める。

 別に探索は一度だけで終わらせるわけではないので、後日改めてその部分を回ればいいのだ。

 

 方針さえ決まれば、後は流れ作業だ。

 ルートの出入口まで戻って、そこを中心にグルグルと渦巻き状に探索を開始した。

 資源が見つかるまでは、モニターとにらめっこを続ける作業のため、それが嫌になってしまう者も少なくない。

 だが、カケルにとってはこの間も嫌いな時間ではなかった。

 そもそもこの作業が苦痛に感じるようであれば、この世界での冒険者には向いていないといってもいいだろう。

 もっとも、こうした作業は部下などの別の人間に任せて、自分はどっかりと座っているという方法もあるのだが。

 カケルがモニターとにらめっこしているあいだ、船の操縦はクロエに任せている。

 これがゲームのときにも行われていた二人にとってのスタンダードであった。

 

 カオスタラサに存在する資源は、当然のように比較的良く見つけることができるものや、ごくまれにしか見つからない希少資源がある。

 当たり前といえば当たり前だが、希少資源のほうが価値が高いため、冒険者たちは限られた船のスペースに、出来るだけ多くの希少資源を積んでヘキサキューブに戻ることを目的としている。

 希少資源がどうしても見つからない場合は、需要が高くて比較的よく見つかる資源を持ち帰るのだ。

 そのため、多くの場合は、時間の許される限り希少資源を探して回り、残りの時間で空いたスペースに需要の高い資源を入れて帰ることになる。

 希少資源を見つけた場合はその場で採取を行い、それが尽きるとまた新しく探索を始める。

 それの繰り返しが資源探査の基本である。

 といいつつも、希少資源はあくまでも希少だから希少資源と呼ばれている。

 多くの場合は、全く希少資源が見つからずに戻ることがほとんどなのだ。


 カケルたちは、当然のように希少資源を優先して探していった。

 その間に見つけた有用な資源が何処に分布しているかは、しっかりと記録してある。

 資源を見つけるたびに優先順位を振っていき、順番の高い物から船のスペースを考えて採取を行っていた。

 さらに、希少資源以外の資源の採取を後回しにするのには、もう一つ別の理由もある。

 それがなにかというと、カオスタラサで作業を行う冒険者たちにとっての天敵と言って良い『ヘルカオス』の存在だった。

カオスタラサの探索方法は、渦巻き型の他にもマンションの一階から順に上に昇っていくようなタワー型であったり、一か所にとどまって探知機だけを使って調べる不動型などがあります。どれが優れているということはなく、プレイヤーは機体の性能によっても使い分けたりしていました。


ちなみに、カケルの料理は人並み程度です。

あくまでもクロエの腕が…………ゲフンゲフン。


用語説明

ヘルカオス:カオスタラサ内に出てくる魔物。ただし、その生態はよくわかっていない。(詳細は次話で説明)

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