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天翔ける宙(そら)の彼方へ  作者: 早秋
第1部第1章
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(8)カオスタラサへ

 ヘキサキューブは、カオスタラサの中を漂っているとよく表現されるが、それは物理的につながっているわけではない。

 地球の世界であったロケットのように、地上から発射して上空を上がっていくと宇宙に出る、というようにはなっていないのである。

 では、どのようにタラサナウスに乗って、ヘキサキューブからカオスタラサに向かうのかというと、ポートを使うのである。

 ポートは、ヘキサキューブ側とカオスタラサ側にひとつづつあり、それぞれのポートの中央には対になっている転移宝玉が置かれている。

 この転移宝玉を作動させると、ある一定の範囲内にあるタラサナウスが、もう一方の転移宝玉があるポートへと転移することになる。

 転移宝玉で転移できるのは、ある一定の範囲内に存在しているタラサナウスで、その範囲を越える場所にあるタラサナウスはカオスタラサに転移することは出来ない。

 転移宝玉にはレベルが存在しており、レベルが上がるほど転移可能範囲が広がっていく。

 タラサナウスが転移できる範囲が転移宝玉によって決まってくるため、大型機や超大型機はその範囲内に入ることが出来ないことが多い。

 そうした大きい機体は、カオスタラサにある工場から直接移動する場合がほとんどであり、ヘキサキューブとカオスタラサの間を転移で行き来するのは、小型機か中型機が主となっている。

 転移宝玉のレベルは、貴重な素材をいくつも吸収させることによって上げることが可能になっている。

 そのため、レベルの高い転移宝玉をいくつも抱えているヘキサキューブが、多くのタラサナウスを一度に送ることができるというわけだ。

 

 六つある国家の内、最大の国家を標榜しているダナウス王国は、流石というべきか、かなり大きい港を持っていた。

 試験コースを飛び終えて、無事に港について管制に指示された場所に船をつけたカケルは、船内からその様子を見ていた。

「ダナウス王国は、随分と大きな転移宝玉を持っているんだね。大型船が入っているし」

「あれは、ゼイトナコーポレーションの探査母艦ですね。たしか、先日探査から戻って来たとニュースになっていました」

 ゼイトナコーポレーションは、ダナウス王国に根を張る一大企業である。

 メインの業種は、タラサナウスの開発・販売とカオスタラサの探索である。

 もっともそれは、あくまでも柱にしている業務の話で、手掛けている業種は多種多様に渡っている。

 特にぺルニア内では、ゼイトナの製品を見ないことはない、と言われるほどに成長している企業だった。

 

「昨夜泊まったホテルも傘下企業が運営しているはずです」

「あら。そうだったのか。全く気付かなかったな」

 病で倒れる前のカケルは、れっきとしたサラリーマンだった。

 どこでどんな繋がりがあるか分からないため、今クロエが話したようなことは、きっちりと調べる癖が付いているはずだった。

 久しぶりのヘキサキャスタの(ような)世界に来て、やはりどこか浮かれていたらしい、とカケルは大型船を見つめながら気を引き締める。

「……それに、この姿になってから、どうにも気分が若返っている気がする」

「なんですか?」

 思わず言葉に出してしまったが、かろうじて小声だったためクロエにはどの声は届かなかったようだ。

 今のカケルの姿は、すっかり若返っているが、気の持ちようもそれに引きずられている気がしていた。

 それがどんな影響があるのかは今のところは分からないが、変に年寄臭くなるよりましか、とカケルはそう思うことにした。

 

 クロエから視線を向けられたカケルは、首を左右に振った。

「いや。何でもないよ」

「そうですか」

 答えを貰って小さく頷いたクロエだったが、何故かジッとカケルを見て来た。

「何?」

「いえ。何かここでこうして二人でいることに、不思議な感じがして……」

 わずかに頬を赤くさせながら俯いたクロエに、カケルは思わず視線を明後日の方に向けた。

 流石に今のクロエの表情は、破壊力がありすぎた。

 二十年間ゲームの世界で見続けて来た顔とはいえ、こうした生の感情を向けられることは初めてのことである。

 幾ら技術が発達してAIが開発されていたといっても、まだまだこうした「人」としての微妙な感情までは表現できていなかった。

 そんな存在だったクロエが、こうしてごく当たり前に感情を示していることが、カケルにとっては嬉しくもあり気恥ずかしさも感じるのであった。

 出港前に何とも微妙な空気になってしまったが、それもすぐに元の状態に戻った。

 この辺は不思議な感じだが、やはり二十年近くをともに過ごして来たという安心感がそうさせるのだろうとカケルは考えていた。

 

 カオスタラサへの転移待ちの間にそんなことを考えていたカケルだったが、いよいよ出港のときがきた。

 管制から転移が行われることがアナウンスされて、カウントダウンが通知される。

 カオスタラサへの転移は、タラサナウスに乗っている者たちが何かをすることはない。

 管制で行っているであろう転移宝玉の操作を待つだけである。

 徐々に減っていくカウントダウンを見ていると、ついにその値がゼロになった。

 カオスタラサへの転移は、なにか体感できるようなことが起こるわけではない。

 ただの一瞬で存在している場所が移動するだけである。

 

「ああ。ついに帰って来た」


 カケルは、前面のモニターに映る光景を見ながらそう言った。

 そのカケル様子をクロエが何とも言えない表情で見ていたが、カケルはそれには気づかなかった。

 ただただ目の前に移るカオスタラサの様子をじっと見ているだけだった。

 

 カケルが見ているモニターの中央には、無色透明の宝石のような物が浮かんでいた。

 その形は、正六面体の八つの角を正三角形に切り落とした多面体になっている。

 その宝石のような物が、今までカケルたちがいたヘキサキューブそのものだった。

 大きさでいえば、カケルたちが乗っている約十メートルのタラサナウスよりも小さくみえる。

 完全に物理法則を無視した形で存在しているが、これがまさしくヘキサキャスタの世界であった。

 モニターに映っているのは、今までいたヘキサキューブだけではない。

 

 その他にも色々な色で輝く宝石のような物が、あちこちに浮かんでいる。

 冒険者たちは、それらのヘキサキューブから有用な資源や動植物が育成可能な場所を探し出すのである。

 ちなみに、今までカケルたちがいたような居住可能な空間を持つヘキサキューブは、余り多くは存在していない。

 それ故に、もしそのような居住可能なヘキサキューブを見つければ、巨万の富を得ることができる。

 もっとも居住可能型は簡単に見つかるようなものでもなく、多くの冒険者は、有用な資源を求めて広大なカオスタラサの世界をさまようことになる。

 更に付け加えると、ぺルニアのようなヘキサキューブがある場所の周辺は、ほぼ資源は採り尽されている。

 そのため冒険者は、より遠くまで資源を求めて資源を探しにいくのである。

 

 カオスタラサにはそうした資源だけではなく、厄介なものも存在している。

 熱風や冷風などの自然災害に加えて、ヘルカオスと呼ばれる魔物も出現する。

 冒険者はそうした存在を討伐し、あるいは避けるようにしながら道なき道を進んで行くのだ。

 いつかはお宝を掴むことができるだろうと信じて。

 そんな世界に、女神の願いをかなえるという目的を果たすために、カケルは帰ってきたのであった。

ヘキサキューブないから上空に向かって進んでいっても、ただひたすら空を突き進むだけになります。

物理的におかしくね? という突っ込みはなしでお願いします。

この世界は、あくまでファンタジー世界ですw


用語説明

ポート:タラサナウスがカオスタラサへ向かうために必要な発着場。

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