架が
それは実に良い女だった
小柄な体を着物で包んでいたが
傍から見てもスーと抜けるようで
僕はそれを路地から見ていた
ひんやりと路地裏から風が吹く
女の着物が風で揺れた
俺は目が呼吸してんじゃないかというくらい
ドクン ドクンと震える目でそれを遠くから眺めていた
その足取りはおぼついていて、ちょっと押せば倒れてしまいそうだ
「あのー」
女はふいに男に声をかけた
そいつはみすぼらしい格好で、髭は剃らずにはえっぱなし
色は日に焼けて浅黒く、荷卸しが仕事なのかいやに長い腕は筋肉質である
しばらくして女は頭を下げると人通りの多い
道をすたすたとさっきのように歩いて行く
男はそのいい女に目を奪われ後姿を見ていたがふと仕事に戻る
どうやら道を聞いていたようである
だとしたらあのおぼつかない足は、道を探し探しだったせいか
僕は意を決して踏み出そうとするが足が前に出ない
なぜか震える 心が止まる、、、なぜだろう
誰もいないはずの暗いひんやりとした路地裏を振り返り見た
なにもいない暗く汚い路地に変わりはない
ふとまたひんやりとした風が顔をなぜた
そのくすぐったい気持ちが
ふと心を緩まし僕の決意を決めさせた
「あの女を抱こう」実にに自分勝手なものだが
恋というものはそんなもんだ 誰かを好かなくては相手も好かんと僕は思う
したこともないが
兄ぃ―がそんな感じな事をしている 僕はつめたい路地裏から表に飛び出した
真夏の太陽が肌を温める すぐにじっとりと着物の中を熱く熱する
心臓が近づくたびに跳ね上がる これは心に悪い 恋の病もあるのかも知れないと思った瞬間であった。
私は家を探る
辺りを大勢の人が行きかう、生きていた場所では考えられないことだ
それでも侮られまいと平然を装う
でもあるけども歩いても、目当ての家が見つからない
突然ぶつかりそうになった米俵を運んでいる人に声をかけた
相手は知らないという それでも私が困った顔でもしたのか 一応の場所は教えてくれた
土地勘のない場所でかなり西に来てしまったようだ、今、言われた場所はさっき通っている
気づかず通り過ぎてしまったようだ、私は教えられたとおりさっき来た道より近いという道を進む
頭を下げるとまだこちらを見ていた。どうやらここにもいい人はいるのかも知れないそんなことを思った
矢先だった
「あんた道に迷ってんだろ」
私と同じくらいの少年が声をかけた
(ほら良いことが起こりそう)
女は濡れていた
文字通り雨にぬれずぶ濡れだった
黄色い着物が肌に張り付き
白い腕だけを軽く透かす
男は腰に差してある刀を野郎どもに向けた
女は意識が遠のくのを感じた
どこかで叫ぶ声が聞こえる
しかしそれも消え行く意識にのまれていった
「ここの団子が美味いんだ」
ふいに少年が立ち止り道端にある茶店を指さして言う
「はあ-」私は下手に相槌を打つ
正直話すのに慣れていない、行ってしまえば、外にさえ最近まで出たことすらなかったほどだ
私は初めてではないにしろ 自分よりいささか年の下そうな男の子に言う
「食べたいんですか」
少年は驚いた顔をして
「あっいいや、あんたが食べたくないなら」そう言ってすたすた歩きだした
何か変なことを言ってしまったんだろうか
確かに男の人と話したことはあっても、自分くらいは女の子でもなかなかなかった
男の子となると何を話していいか分からない
私は懐から最近覚えた金を出して、団小屋の前に行き二本の串刺しの
緑の草にあんこの垂れるように載せられたものを買い求めると
先を行く少年の後を追った
「これどうぞ」私は一本を分けると彼に差出す
彼はさっきみたいに驚いた顔をしたが「ああ、ありがとう」
そう言って最後のは笑顔になり受け取るとぱくつき始めた
その時に気付いたのだが彼は子供なのに腰には刀を差していた
てっきり大人の男だけが持つものと思っていたが違うようだ
さっきから彼女は僕の腰のあたりばかり見てくる
(まさか)
しかし違った。彼女にどうして刀を持ってるか聞かれた
そこでようやく彼女がどこか変、いや普通じゃ無い事に気づき始めた
まず彼女は世間一般の知識を恐ろしいほど知らなかった
どうやって今まで生きてきたのかと思ってしまう
僕は竹光をさやから抜いてこれが偽に刀だという
(何でこんなものを持つのか)と聞かれ
真面目くさって誰かを守るためだと言うと
素直に感心された しかし一瞬動きが固まった気がしたが、、
「そう言えばお前なんて言うんだ」
いつの間にかものにするとかを忘れていた情けない
でも彼女といるとそんな気になってくる
守らなくてはと
「わたしは 団子の食べ終えた彼女は僕に
「誰架だ」と言った
実に堂々とした自信ある声で僕に言い放った。
そうか、そういうことか
僕は改めてさっき固まった意味を知る、、妙にいけないことをしてしまったような気がして照れる
「はははは」僕はなぜか笑ってしまった
それを見て彼女も首を傾げたが口物と隠すように笑う
ふとその手が僕の顔を見て口元から僕に伸ばしてきた
甲斐性もなくあわあわしてしまう
スーとそれが顔に伸びたと思ったら引いて行く
その手を口に運んだ
どうやらあんこでもくっ付いていたらしい
僕は赤面して笑った 彼女も僕を見て笑う よほど間抜けズラでもしていたのだろう
彼は何でもよく知っていた
私が指をさすと
それを丁寧に笑いを混ぜてはなした
最初こそ分からなかったが
少しずつ笑う事が出来れ来た
それにしても面白い生き物がいる物だな
そう甲斐性も無く思う
ふと気になったかたない聞いてみた
もしかすると怒るかもしれない
けどここまでいろいろ教えてくださる相手だ
私は意を決して相手に聞いた
ちょうど団子を食べ終えごにょごにょと口を動かしているのがかわいらしいが
ふいに喉を鳴らし飲み込む
実に買った甲斐があっというものだ
「ああこれか、これは」相手はすーと事何気も無く抜く
それは狐色をした変わった刃であった
「これは」家で父上が磨いていたものは持った鋭く
暗い是色で鈍く輝いていたが、それはとても形さえ同じだが
同一のものとはとても思えない
彼に聞く
「ああーこれ竹でできてんだよ、竹光、竹の剣」
そういってそれを腰に収めた
しかしこんな子供がなぜそんなものを持つのだろう
父は国のためと言っていたが
はたしてこんな子供までが、、、
「あなたはなぜそれを」耐えきれず疑問が口をついて彼に尋ねた
「う~~ん だれかを守るためかな」
私は心臓がキュンとドクンと揺れるのがわかる
何なんだ、病気でもしてしまったのか
私は初めての経験に心配になる
なぜ彼が私の、、、そこまで考えてある失敗を自覚する
彼が見ず知らずの私の事を知っている分けがない
もし私が狙いなら もっと早く殺してるいはずだ
彼の言う だれか は 誰架 ではなく 誰でもの 誰かだ
私は彼に向き直り「それは良いですね」と言う
「ああ」嬉しそうにしているよかった
「あんたなんて言うんだ」
ふいに横を向いて聞かれた
私はその時みよじを消して新しい私の名前を言う
家を出る時自分で決めたのだ
その家は空き家だった
人の住んでいる形跡はない
何でも三年前ほどに取り潰しになったらしい
彼が親切にも近所で聞いて来てくれたのだ
私は自分が今にも倒れてしまう感覚に陥る
足に力が入らない
ふらっと意識を消したい
私はその暗く荒れた家の前で地面に倒れ、、
いきなり彼女、、、いや誰架がこちらによっかっかってきた
いや違う明らかにそれは力がなく
今にも泣きそうだが虚ろな目でもそれを必死に押し殺しているんが分かる
僕は何となく
いや自然とそれを抱きしめてみた
抱きしめたそれから悲しみが絶望がなだれ込んで来るようであったが
僕のほおをなぜか涙がすーと落ちて彼女の着物に消えた
あれ何でおれ抱きしめてんだ
しかし今更放すわけにも行かない気がした
僕はただ突っ立っていた
そして彼女は木にでもよっかかるように僕に躰を押しつけた
はたから見れば、おしくら饅頭みたいかも知れないが
ぼくとしてはただ抱きしめることも無く
彼女の重さに耐えるように倒れないようにただただ突っ立っていた
ふいに彼女の感情があふれた
大粒の涙か頬を伝い黄色い着物に染みを垂らす
僕はうずくまった彼女にの背中を軽くたたいてやる
僕なんて人間がやるにはおこがましいことに思えた
しかし人間はときには折れることも必要だ
その時、誰かいた方がいないよりはましだろう
僕は泣きつづける彼女の背を叩きつづけた
人どうりはないさみしい所だ
いつの間にか日が暮れ
暗闇が迫ってきた
黄色い着物の彼女がふいに抱きついて来たしがみ付く様に
着物を強く握りしめていた
二人は家の裏の竹林にいた
夕闇が二人をやさしく包む
彼女の白い頬を夕焼けがわずかに紅をさした
彼はその女を下に顔を見つめていた
深々と闇は二人を包む
と、その時だ
遠くでばたばたと大勢の足音が聞こえた
二人が口から顔を放して遠くを見ようとしたとき
「ぽっつり」と水が頭に触れた
二人は立ち上がると笹の生える奥へと走った
しかしどういう分けかその足音は屋敷を通り過ぎず
まっすぐ二人のいた竹林に入って来た
「どういう事なんだ」誰架が走りながら、隣で手を引く少年に聞く
想念は少し息の切れた顔で考えて
「もしかしたら、誰かに見られていたのかも知れない」
そう言われてみると至極もっともだと少女は思ったのだ
「お~~いこっいだ」 松明の火が前方にいた二人をとらえ男の野太い声が叫ぶ
「まずい」少年はしっかりと彼女の白い腕をにぎっていよいよ
必死に駆る
少女は困った顔を少年に向けた正直言ってもう足が棒のように動かない
「わっわたしもう走れない」しかし後ろからは絶えず声が追いかけてくる
しかしそれは本心では無い 彼女は正直雨でぬれはしても
息一つ汗一粒掻いても切れていなかった しかし彼の息は切れ切れで実に頼りない
そんな彼を気遣ってそう言ったのだが それでも雨ですべるものを
絶えず走った
ふいに下に明かりが見える、初めは松明かと思ったが
どうやら人家の明かりのようだ
しかしその急な坂を前に少年は一瞬止まろうとしたが
坂をダーーーーと滑り降りた
その後を彼女も手を引かれすべるが何度もこけそうになった
後ろから声がする
大人と子供では差の差は早くうまる
彼は彼女の手をひいて走る
後ろからの怒涛から逃げるように
もう逃げきれないのは分かっていた
次第に増える火 人の怒鳴り声
彼女は少年の手を振りきり
後ろに立った、疲れていたその手に握力は無く
雨も手伝ってするりと抜けた
怒涛がまだ見えない町に響く
その雨にぬかるんだ長屋の道を彼女は睨んだ
僅かに眉間に白い皴が寄る
その下では大きく見開いた目がジーと奥を見つめた
確実にわかる 近い 足音がもうすぐ女を見つけるのを知る
その時だ仁王のように道に立っていた女を後ろから
体当たりする感覚が背中を襲う少女は濡れた長屋の路地にその身を
投げ飛ばされた
加賀 誰花 (かが だれか) それが彼女の本名だ
彼女は生まれながら母はいない
人食いの性のせいだ
彼女は女の裸を見ると
それに食いつき、食べてしまう
そういう人なのだ
生まれてすぐに生えていた歯は、母親の柔肌に喰らい付
白い布団を血に染めた、産後の疲れた時に突然起きた信じられない光景に
彼女は意識を消しそのまま出血多量で死んでしまった
彼女の唾液には、血を止めなくする成分が流れているかのように
その血は噴出した
その日から、父親が彼女をこの家に隔離して、男手一つで育てた
物心ついたころからその悲惨な話を聞かされた
そしてなぜ自分がこの家を出てはいけないかそれをことごとく事あるごとに言う
正直物も言わず、家事などしないような無骨な男であるが
そんな男が自分にだけは、色々とかまってくれることに多少なりきのうれしさを覚えた
父からは一通りの武芸家事作法を教わった
遊ぶということを知らない彼女にとって俺がすべてである
彼女のうねるような白い肉体は、物事を吸収するように覚え
ついには父の刀を素手で受け流すまでになっていた
たまに奉公人の子供が家に上がったが
ほとんど話さない 女が脱いで素肌を見せるとも思わなかったが
極力避けても問題はないだろう
そんなある日だ
父が殺された
間男である
殿様の女房を取ったとかで
その日のうちに切り殺されたらしい
父はすらりと背の高い姿に
どこか憂いの浮かんだ細い顔に、鋭い目を思い出す
数人いる手伝いの男とみてもそれがいい顔だと思ったのは
一週間後 家を出て他の男たちを見てからだあった
そう言えば、彼女はその知らせを手伝いの小五郎と言う男から聞いて
ただ立っていた時、頭の中に幼い私を抱きながら、父に言った疑問が思い出される
「父上、でしたら、私は幼い時、お乳は飲まなかったのでしょうか」
女としての教育は受けた
と言っても父も本を片手にめずらしくもたもたしながら言っていた
その時に疑問に思ったのだ、どうやって私は乳を飲んだのだろうと
すると父は、外の女を待たせそこで父を出してもらい
一人でそれを受け取り竹ずつからそれを私に口移しで飲ませたという
その頃の私は凶暴極まりなかったという 裸とみれば獣のように男女区別なく噛み付いたという
だから家には一人も入れず 絶えずそばにいたらしい
しかしそれも私の父だから例外的にいたわけではなく
ただ父が強かっただけと言う事らしい
私はぼんやりそんなことを考え始めていた
今では男ならなんとか大丈夫になったが
女を見た途端頭に血が上り意識が消える
しかしどうもある程度、規則があるらしく
女の胸 秘所 ヘソ この三つを見るともう駄目であった
なえそんなことを知っているかと言うと 父がわざと女の裸を私に見せることがあった、私を檻の中に入れ その外で脱がすのだ しかし結果的に何度やっても
無駄だった それどころか年を重ねるごとに凶暴化し檻でさえ危ういこともあったらしい、と言うよりも力が強くなっただけなのか
いつの間にか父と風呂に入ることも無くなった
別に男を見てもだ丈夫だがそれを言うと
「そういうもんだ」とぽつりと言う
私は荷をまとめ始めた
心配そうにする男たちを振り切る
手伝いが来始めたのは、私が十二歳ころからだろうか
その頃には、父は前よりも家にいなくなりお仕事で城に上がっていた
「私も付いて行きましょうか」小五郎がそんなことを言う
しかし奴には妻子もいる連れて行くわけにも行くまい
「いやいい」私はそう言って草鞋を結び終えた
こんな日を予想していたからだろうか父は一通りの作法武道を教えた
しかし旅に出て一般的な知識がなかったのは、その時でいいと思われたからなのかもしれない
始めこそしんみりした感じで行こうと思っていたが次第に見たことも無いようなものを見て血が騒ぐのを感じた
それにしても武道に置いて、父はなぜ私にそんなことを教えたのかふと疑問に思う
もしも私が発狂したとき、それは逆に被害を甚大にしてしまうのではないか
もしかすると武道という方にはめ込み、鬼道のような私を抑えたかったのかも知れない しかし今、私に知る由もない
家を出る前から私はあることを考えていた
武士と言うのはみよじがあるが、普通はないという事
手伝いの男たちもそれを持っていなかった
だとすれば私はそれを、、、、
そこで加賀の二文字を捨て 誰花の花を取り 重荷を架せる 架を貸せた
「ねえ、みんな私今日から誰架って名乗ることにしたの」
そう言うと皆神妙に顔を伏せたが、私の笑みを見て
「それは良いと」口々に言ってくれた
そのどこかよそよそしい嘘が、私に何か終わりを告げさそうとしていた
私には頼りが一つあった
それは母方の実家の武家屋敷であった
しかし、それはとうの昔に引っ越していて、自らの浅はかさに嘆くしかなかった
今目の前で少年が腰から竹光も抜いて
私とは別方向に走りこもうとしていた
しかし何人も壁のように立ちはだかる男の背から考えその力の差は
りきぜんに思われた
オレはクラクラする意識で冷たい身体を男たちに向けた
十人ぐらい前を取り囲んでいる 俺が今持っている竹光ではとても無為だろう
僕は竹光を向くと叫び声とともに男達に向かう
女のいる方に行くわけにはいかない
雨にぬかるんだ足が地面を滑る
僕の雄たけびが暗い長屋に雨と鳴り響く
男たちは刀を構えた
僕は急に向きを変えて横道に走りこむ
「まっまて」後ろでそんな声が聞こえた
しかしそれがどうも質感に違いがあったのに気付いたのは
後ろからかなりとうざかったのにまだ誰も追ってこないのと
妙な音が後ろを騒がしく響かしたからだ
僕は「まさか」と思った彼女の方に男たちが言ってしまったのでは
急いで駆け付けたそこには白い腕を血に塗らし
残り一人の男を前にだらりとそいつを見つめていた女であった
その姿勢は美しく雨に濡れた一本の柳のようで、、
私は彼が飛び出した後路地から飛び出し男たちの前に出た
皆編み笠をかぶり顔を見えにくいが、どうせ私を追って着たのだろう
父上が一人身ということになっているのは後から聞いた
私と言う人間を守るためだと手伝い入ったが、、私もそれで納得していた
もし嫁にでも行けば当然ばれるだろう
そうなればさげすまれ化け物として、運が良ければ処刑
悪ければ見世物にでもなっているとも思える
だから妻と子は共に産が悪くて死んだことになっていた
父の素早い決断の賜物であったが
なぜ私のようなものに妻を食われて、すぐに
そう言うと父は真顔で目を細め私をきつく抱きしめるのだった
旅のうわさで、私がいるのをばれたのを知った
その結果、いま私は追われている者と対面することになる
足が揺れるのを感じる 緊張で雨のつめたさを感じない
ただ目の前にいる男たちを見つめていた
結果として私は死のうとした
誰かに捕まりむごたらしく生きるよりは
今の内に潔く死んだ方が
しかし自らののどに手を当てた時その腕を誰かが掴んだ
直ぐに振り切ることもできるだろう
自分という人間は大の大人でさえ勝てないだと知った今なら
「だれか やめてくれ」
ふいにその手が離れ、奴は土下座した
雨降る土の水たまりに
わたしはそれを上からみていた
「ねえ抱いて」
その口の動きを僕は彼女から一キロほど離れた山奥で見た
俺の名前はせんりそのまんまあだ名が名前になった
俺は一度触れたものはどこにいてもそいつを見ることができた
そして今ふと彼女を覗いてみた
したら、感の良いあの女はそんなことを言ったのだ
映像だけなので本当に喋っているかはわからないが
あの雨の日、僕は親方に言って彼女をかくまってもらうことにした
雨で流れた血と混ざった白い手があの白い首に当てられる
僕は一瞬で彼女が死のうとしているのが分かった
急いで彼女の手を握る
その時になりとてつもない死を感じた
しかし俺は死んでもいいだから
彼女を死なすわけにはいかない
なんとなくそう思ったのだ
泥で濡れた服の僕を少女は
腕で軽く引き上げて
抱きついた
その雨に紛れ、助けを呼んだ仲間たちの一人が現れる
そいつは異常に長い編み笠を頭にかけ
体を漆黒のマントで身を包んでいる
てるてる坊主それが雨男の名前で、雨を降らしそれに一体化できる奴だ
が主に料理を担当している、無駄な能力の持ち主である
僕は後は彼らに任せ後にした
すぐにほかの奴も来るだろう
僕は雨の中彼女を引いて親方のいる家に向かった 終
その家の中では真ん中にある灰の中で火がくすぶり家の中をわずかに照らしていた
親方はその向かい側に胡坐をかいてたたずんでいた
彼は目が見えない、しかしその代わりに人の心が見えるのだ
「あんた人を食うのか」男の第一声がそれであり
やっぱりかと僕は落胆と嬉気の入り混じる心を露わにした
彼女は一瞬で彼をきつく見ると身構えた
それはそうだろう相手にいきなり自分の意考えを見透かされてしまったのだから
じーと見えないはずの老人と三白眼の大きい目が彼を見ている少女
ふいに
「ほぅほっほ」と親方が笑った
彼が笑うことなどめったにない
いつも血なまぐさい事の起きるときは彼が笑う
「まっまさか」しかし僕の杞憂をよそに老人は
「久しぶりに見た」実に綺麗だそう言って線のように細い皴の刻まれた見えない目を彼女に向けた
彼女は何も言わずそれを見ていたがふいに
「ふふふははは」としまいには腹を抱えて笑いだす
「どっどうしたんだ」俺は心配になり声をかける
師匠も目が怖い
「だっだって、この人、私より強いんだもん」
それを聞き老人も笑う
どういう事か分からないが笑うことは良い事だと少年も気味悪さを押さえて思うのであった
黒鷹それがこの組織の名前
おもに顔向けできないことを任務にする
いわば里を持たない忍びのようなものである
あるとすればそれは皆忍びとは関係なく特殊な能力を持ち
捨てられたり売られたりしたものが集まっているという事だ
中には僕のように外見では判断できないような超人もいる
そう言う人間も組織の中で、招かれたり自らはいる物もいた
幸い彼女の話を皆で聞いたとき
はたしてそんなことがと思う反面
ここに男しかいないことに多少の杞憂はあるものの
安心したのは確かだ
しかしだとすると風呂などをどうするか
早くも生活する前提で話が進められていた
彼女はふいにその無症状のつめたい目を解き始め薄らと笑っているようでもある
どうやらこれで一安心だ
僕はうつらうつらとこれから楽しくなりそうだと、隣で寝ている彼女を見て思った