名もなきマフィアに花束を
「この前は世話になったな。坊や」
彼の高慢ちきな態度が些か鼻についたが、何分助けてもらった身ではあるからにして文句の沙汰は言えたもんじゃない。
「まったく、正面から出てくるだなんてお前気がどうかしてるんじゃないか?」
どうも彼は俺の行動全てに否定的な感情を見受ける。ただ俺には俺のやり方があり彼には彼のやり方があるということを伝えておかなければならない。俺は今までこのやり方で勝利を掴み取ってきたのだ。
「あんたの大物狙いのやり方はわかった。だけどもそれじゃいくら体があっても足りないぜ?知り合いでお前によく似た野郎はみんな欲に目がくらんで全員不幸な結末を迎えてるんだからよ」
どこまでも世話焼きで好きになれない。これが彼なりの愛情という奴かもしれない。もとは俺も愛情というのに程遠い孤児院暮らし…というか粗末な穴暮らしをしてきた。親の顔なんて知らない。こんな魑魅魍魎な世界ではどれも似たような顔ばかりで、実際俺も親のことなど大して気にしたことはないから別にどうでもいいというところだろうか。
気づいた頃には俺はかっぱらいをやっていた。それは趣味娯楽を得るためやスリル快感を求めるためではなく、単なる生存のためであった。最初は路上に散らばった食い物とはとても言い難いような乾いたパン屑やかび臭い菓子などをせっせと拾っては食べ拾っては食べを繰り返していた。が、決して腹は満たされることなく空腹に夢まで侵される毎日であった。そしてとうとう俺はとても一人では処理しきれないほどの大量の食料を盗んできた。夜、誰もが寝静まった頃にこっそりと、迅速に。そこから俺は歯止めがきかなくなったのだ。何度も何度も、その都度対象は大きくなっていく。時には巨大な組織に殺されかけたこともあるが、今日までうまく潜り抜けてきたのだ。だがこの目の前にいる貧弱な男は、そんなスリリングな俺とは裏腹に、小物の安全なブツをコソコソコソコソ細いルートを通して持ち運びをしているその程度の男だった。
だから、俺は一生のうちにこの男とは無縁であるとそう確信していたのだが…。彼はいつものように夜中の街をそそくさと目的の物を眼中に狙っていたのだが、等々発見されてしまったのだ。敵対組織に。
「…あの時は自分も本気で死を覚悟したね。ハジキを向けられた時は、無神論の俺でもきりすとさんとやらに安楽地へのチケットを出してもらうように頼んじゃったよ。わっはっは」
彼は心無しに下品な笑いを漏らす。別に彼自身を助けたかったわけじゃない。同胞が無惨にやられていくのを黙ってみているのが嫌だったからだ。だから俺は、自慢のダークなスーツを靡かせながら、組織の連中に飛び掛ったのだ。
幸い、二対一では敵わないと思慮したのか間抜けな背を向かせながら、どんどん遠ざかっていった。そして彼は俺の顔を見て年下に助けられたことがプライドに障ったのか、礼の一つも言わず闇の中へと消えてしまった。そんな俺は大して腹も立てず、弱肉強食は恐ろしいなどとくだらない雑感を頭にめぐらせながら自分の仕事へとついていたのだった……。
「…静かになったぜ。煙に巻いたようだな」といって煙草を銜える。だが、彼の唇は何故だか不規則的無意識的に震えていた。
「お、おっかしいな。へへ、くち、くちびるが、が、が、がたがたしてるよ」
次第に彼の呂律もまわらなくなり、思考能力まで低下していたようだ。それは彼だけの例外ではなく、俺の身まで降り注いでいた。
「し、ししし、し、しくじったな。ちくしょう、や、や、やつらやくひんを……」
どこまでドジな奴なんだと彼を怨んだ。だ、だが、かレのやスらかニ、ね、ねむル、カオヲ、ミテ、ソノ、ヨウナ、シネン、サエ、モ……
「もうお母さん。ちゃんと整理整頓しないから出てきちゃうんだよ」
「で、でも。そんなこといったてねえ…。いつどこで使えるかもしれない物を捨てるなんて…」
「それだからうちはゴミ屋敷だなんて言われちゃうんだよ。うわっほらここにもゴキブリが二匹」
「やーやめて見せないで。お母さん駄目なのっ」
「ほら、試しに買ったバノサンのお部屋のやつやっただけでもう出てきちゃったじゃん。あのねえ、ゴキブリは一匹いたら百はいるぞって昔から………」
オチ無し意味無し…。
分かる人は途中で分かった筈。Gネタと夢オチはもう使い古しかな…。
また執筆中は早く書き終わりたかったのか表現もままならず見直しもせずで非常に最悪な状態で書き上げてしまったのもいけんかったかな。
何はともあれ読んでくれてありがとうね。