2 Wintry
目覚めるとそこは雪国。
吸い込まれそうなほど真っ暗な夜空から轟々と雪が降ってきている。
仰向けに倒れているであろう僕の体は、すでに神経が途切れたかのように四肢からの情報伝達はなく、明らかに両手両足が凍り付いている。
かろうじて動く首で全力を尽くして90度回頭すると、感覚器官の最後の記憶となっている激痛の生産者が膝を抱えて丸くなっていた。
「これは、、、」
「おまえのせいだ!」
てっきり目を閉じているから仮眠か冬眠の最中だと思っていたのだが、彼女は――わたしは泣いてなんかいないもんっ!を全身で表現しつつ――怒りを露わにしていた。
「おまえのせいでこんなことになったんだ!そもそもなんで人間の警護をわたしにっ!」
そんなことはいいから早く僕に暖房を、、、
「うるさいっ!凍え死ね!凍死しろぉ!」
駄々を捏ねて叫んでくれるのは嬉しいけれど、残念なことにその叫び声で体は温まらず、仕方なしに徐々にはっきりしてきた頭を司令塔として立て直すべく、今度は死力を尽くして体を起こす。
周りを見渡すと数十メートル四方の雪化粧した”なにか”の床以外は、冬の澄み渡った空のみ。
よくよくみると、となりの少女はブーツにコートに手袋に完全防寒装備。僕薄っぺらい制服だけなんです、一枚でいいから装備品を譲ってくれません?
眉間にシワを寄せる彼女に上着を恵んでもらえるとは思えない、現在地の把握に努めよう。
で、足元の四角いハンペンの縁まで歩いて行った僕はその先に豆粒大の街並みを確認して、自力での脱出をあきらめて自分の足跡をそのままたどって元の位置に落ち着いた。
「で?」
「なに?」
「僕はどうしたらいいんでしょうか?」
「飛べ。」
「丁重にご遠慮させてください。」
だから、僕はどこにいるのよ?
「北緯35度68分、東経139度69分。」
わからん、何かに不貞腐れながら口を尖らせて応えている様はとっても庇護欲を誘うとはいえ、回答が不明確すぎる。
「2012年1月24日午前3時17分21秒。」
「それは”いつか?”であって”どこか?”じゃない。」
「時間軸における座標位置。」
つまりどこか、という質問に答えたと?誰がそんなことを聞きたがるか。
「太陽系第三惑星地球」
「だからそうじゃなくて、、、」
「日本国東京都新宿区西新宿八番地東京都庁第一庁舎上空700m。」
「なんの嫌がらせだっ!」
都知事に不満はあれど、恨みはない。まして、出馬と当選を同義語にしつつある常勝無敗の頑固じいさんにケンカを売っても勝ち目がない。どうして落ちないのか受験にむけて参考程度にご教授願いたいぐらいだ。
「・・・・・・」
ついに機嫌を損ねきったらしく尖らせていた口は真一文字に結ばれ、開かなくなった。
さて、これからどうしたものか。
僕の体は凍死寸前。帰ろうにもまずは紐なしバンジーを体験しなければならず、踏みしめているこの消しゴムを引き伸ばしたような物体に階段や梯子が付属しているとも思えない。
「どうしよう。」
どうしたものか。
手詰まり、というより唸っている女の子の横に立っていることによる閉塞感から自問自答も早々にあきらめて、高さ700mからの抜群の景観でみずからの目をごまかそうとしていた時、それはやってきた。
日付変わった本日最初の敵である。
「セーター重ねてくりゃよかった。」