0 Prologue
彼女は長い黒髪をなびかせ、制服に穴を開けていく銃撃の雨を水でも弾くかのようにして、コンクリートの壁に張り付く僕のところまで走ってきた。
「どうしてこうなってるんだよ!」
「あなたはこの世界でもっとも重要度の高い物だから。」
「なんで?」
「あなたが必要だから。正確にはあなたの体が。」
「どういう意味だよ!」
「彼が必要としているから。」
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なんとなく電車の窓の外を見ていた。”つれづれなるままに”のくだりのようにとめどない考えであった。
人間にとって日常の風景は変化のない限り目を向けるに値しないものらしい。
それを実感したのは高校生になって電車での通学が始まってしばらくしてからだった。
毎日見る同じ風景、同じ車内、同じ人間。同じ電車の同じ車両の同じドア。
入学したて三ヶ月ぐらいはそのひとつひとつに感動と興奮を覚えたものだった、それこそ同じオッサンが二日連続で目の前にいるというだけでわくわくするぐらいに。
きっとピュアだったんだろう、幼いと言い換えてもいい。希望に満ち溢れているというのはそういうことなのだと思う。
そして気がつけば16歳の冬を迎えていた。
その間に何もなかったのだ。
朝起きて、電車で船を漕ぎ、授業で机に伏し、家路につきつつまた船を漕ぎ、そして寝る。
人間の限界を下向きに超えていたといっても過言ではない、自分で自分を褒めたいぐらいだ。
そして、クラス最下位の成績になり、高校卒業が危うくなってやっとこのままではまずいと気づいた自分は相当の馬鹿なのだと思う。
気にしちゃいないが。
結果的に高校入学したての頃のみずみずしさを失って、僕は、まっとう人間の一般的なものから程遠い生活を送っていた。
その日、そのときまで。