表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夜の駅で、怪しい少女に捕まった  作者: しすこーん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/13

学校探索③

気がつくと、周囲から音はしなくなっていた。


「危なかったね」


彼女の言葉にハッとして、教卓から這い出る。

まだ頭がぼんやりしている気がした。

うまく思考が回らない。


荒い呼吸のまま、立ち上がる。

彼女はいつもみたいにポケットに手を突っ込んでいて、さっきまでのことなんかなかったみたいだ。

いつものような飄々とした態度で、廊下の方に聞き耳を立てている。


僕だけが彼女を意識しているみたいで、なんだか悔しかった。


「もしかしたら警備の人、教室の鍵取りにいったのかも。今のうちにでよっか」


「⋯⋯⋯⋯はい」


「⋯⋯ガキ君、なんか拗ねてる?」


「拗ねてません」


そっぽを向いて答える。


いまにも、警備員さんがまた現れないとも限らない。

もし警備員さんが鍵を持って教室に現れたら、今度こそ隠れおおせることはできないだろう。


彼女はまだ僕になにかいいたげにしていたけど、僕は無視して外へ出た。


それから僕たちは、教室にやってきたとき以上に細心の注意を払って、最初に侵入してきた女子トイレにたどり着いた。


僕は女子トイレであることを示す赤い少女のマークをみて、少し躊躇する。


窓から侵入するときと違って、正面から女子トイレに忍び入るのは、流石に躊躇われた。

だけど脱出の為には仕方ないと言い聞かせて、僕は脚を踏み入れる。


「じゃあつぎ、どこ行く?」


中庭へと降り立つ窓の前で、彼女がつぶやいた。


「え、まだ探索するつもりなんですか」


「だってまだ、教室しかいけてないし」


いわれてみればそうだけど、さっきの警備員さんのこともあるし、正直、できるだけ早く学校を去りたい。


「そうはいっても、他にいけるところなんてありますか?」


「んー、職員室?」


「テスト問題の管理してるだろうから、警備も厳しそうじゃないですか?」


それにきっと職員室なんか行っても、つまらないと思う。僕にとっても、別に馴染みがあるわけじゃないし。


「んー、じゃあ、プールは?」


「プール、ですか……」


うちの学校では校舎から少し離れたところに位置していて、そこまでセキュリティが厳しい印象はない。

更衣室には入れないだろうが、周囲を囲う柵が低いので、プールサイドに侵入することはできるだろう。 


「⋯⋯⋯もう十一月手前ですし、水も入れ替えてないと思いますよ?うちの学校、水泳部ないし。だいたい僕たち、水着持ってないじゃないですか」


「別に入れなくてもいいの。楽しそうだから、いってみようよ」


やんわりと反対意見をだしてみたが、やっぱりダメだった。

彼女はもう行く気満々みたいで、既に窓から中庭に降り立とうとしている。


僕は小さくため息をついて、彼女の後を追った。



眼前には、頭ほどの高さの柵がある。

格子状になっているので、足を引っ掛ければそれほど苦労せずに登れるだろう。


彼女は軽々と柵を登り、その向こう側に飛び降りた。僕も若干もたつきながら、その後に続く。


夜のプールは月の光を映しながら、ゆらゆらと揺らめいていた。


「綺麗だね」


輝く水面を覗き込みながら、彼女がつぶやく。


僕も同感だった。

キラキラと反射する光の粒が生み出す光景は幻想的で、とても綺麗だった。

見慣れた昼のプールとはまた違った、非現実的な美しさがある。


風が吹くたびに光は形を変えて、僕たちを包み込む。


僕は、目の前にいる彼女を見据える。

どうしても彼女に、言いたいことがあった。


「さっきは、ありがとうございました」


「別にあたし、なにもしてないと思うけど」


プールサイドの前でしゃがみ込んでいた彼女が、立ち上がっていった。


「⋯⋯⋯⋯黙って聞いてくれているだけでも、救われた気分になりました。担任の先生にも親にも、誰にもいえてなかったから」


「なら、どうしてあたしには話してくれたの?」


振り返って、彼女がいう。

たなびいた髪が月明かりに照らされて、煌めいた。


「⋯⋯⋯⋯あなたといると、少しだけ心が軽くなるんです。自由で奔放なあなたを見ていると、まるで僕もそうであるような気がする、みたいな…… 」


「ガキ君は、自由でいいんだよ」


「⋯⋯⋯⋯そうなのかもしれません。でも、今はまだ、その自信がもてないです。あなたみたいには、振る舞えない」


俯く僕をみて、彼女がこちらに歩み寄る。


視界の端に、長く伸びた髪の毛が映り込む。

彼女の白い指が僕の腕に伸びて、その手のひらを握った。


彼女の指は少し冷たかったけど、たしかに人の体温を感じて、僕はなぜか少し泣きそうになった。


「名前。あなたじゃなくて、紫月って呼んで。紫の月って書いて、紫月」


僕は、すぐ目の前にいる彼女の、紫紺の瞳を見つめる。

深夜に二人で学校にまで来ているのに、僕たちはまだ互いの名前すらも知らない。

そんな事実に、僕は今更気がついた。


「紫月、さん」


「うん、ガキ君の名前は?」


天城陽向あまぎひなた。陽に向かうと書いて日向です」


「わかった」


彼女はそう、短く告げる。

今も僕の手と彼女の白い指は、絡み合ったままだ。


「名前、呼ばないんですね」


てっきりさっきの流れからして、彼女も僕の名前を呼ぶと思ったのに。


「ガキ君はまだまだガキだし」


僕の両の手を弄りながら、彼女は告げる。

そしてしばらく間をおいてから、耳元で囁いた。


「いつかガキ君がガキじゃなくなったら、名前で呼んであげるね」


なんとなく悪戯げな顔を浮かべる彼女の顔をみて、顔がカッと熱くなる。

手を繋いだままではいられなくなって、僕は彼女の手を振り解いた。


「⋯⋯⋯どういう意味ですか」


()()()()()()()、って意味」


「っ!そういうことじゃなくて」


「それ以上も以下もないよ」


彼女はそう告げて、僕の後ろへと立つ。

そしてそのままフェンスを乗り越えて、向こう側に飛び降りた。


「帰ろっか」

 

そういって歩き出すので、僕は慌てて彼女の後を追って、横に並んだ。


「次は、泳げるプールにいこうね」

評価ブクマ等々が励みになります!


また、カクヨムの方にも先行して連載してるので、よければお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ