学校探索①
なし崩し的に、彼女とどこかに出かける流れになってしまった。
手を引かれるままにエントランスを抜け、外へと飛び出す。
しかし、そのままエントランス前のスロープを下って路上に出た辺りで、彼女の足取りは止まった。
「どこに行こっか」
「昨日のバーじゃないんですか?」
なんとなく、今日もあのバーにいくと思っていた。
名前は確か、『メッザノッテ』
ゆったりと流れるジャズミュージックと、お洒落な雰囲気が特徴的なお店だった。
「あっこでもいいけど、昨日も行ったじゃん」
「でも、今の時間から二人でいけるところなんて他にないと思いますけど」
「ガキ君、それは一般論でしょ?」
「え?」
「常識を捨てたあたし達に、敵なんていないよ」
彼女は不敵に、そういってみせる。
その口元も、若干上がっている気がした。
「ガキ君、通ってる学校はどこ?」
「⋯⋯⋯智輝館です。といっても、今はいってませんけど」
そう、僕は約一ヶ月半程、高校に登校していない。
別に授業についていけなかったとか、クラスメイトから虐められていたとか、そういう理由ではない。
ただ漠然と、あの空間にいるのかしんどくなってしまっただけだ。
幼少期からなんとなく感じていた違和感。
友達の前では笑顔を見せていても、心は笑っていない、あの感覚。
突然それら全てが嫌になって、放り出してしまった。
「へえ、頭いいんだね」
「結局、通わなくなっちゃいましたけどね」
「いつから?」
「夏休みが終わってから、少し経ったくらいです」
彼女は一瞬、なにかを思案するように宙を見つめた。それからこちらに開き直って、少し頬を緩める。
「それじゃ、いこっか」
背中がゾクりとして、嫌な予感がよぎる。
なぜだか彼女が、よからぬことを考えている気がした。
僕は恐る恐る、彼女に尋ねた。
「⋯⋯⋯えーと、どこにですか?」
既に歩き出していた彼女が、振り向いた。
揺れた髪が月に照らされて、煌めく。
「久々の登校だね」
悪魔のような微笑みで、彼女はいった。
*
目の前には、荘厳な門が聳え《そび》立っている。
昼間には生徒たちの笑い声や足音などが絶えないこの建物も、夜になると完全に別世界のものに見えた。
立派な見た目と夜の静けさが相まって、遠巻きに見る夜の学校の校舎はまるで、主が不在のお城みたいだった。
「やっぱり無茶なんじゃ……」
「あ、ガキ君ビビってる?」
「いや、ビビるってるというか───」
僕はそこまでいってから、口をつぐんだ。
ここでまた「常識的に考えて」なんていうと、また彼女から『あの言葉』が飛んでくるに違いない。
あの言葉は聴くと何故だか脳がピリピリして、脳みその中が真っ白になってしまう。
自分が自分でなくなってしまうようなその感覚が怖くて、僕はできるだけその言葉を聴きたくなかった。
「⋯⋯⋯そもそも、校内に入れなくないですか?」
なんとか諦めてもらおうと、僕は声をかけた。
「うーん…」
彼女は校門の前に立って、手をかざす。
力を込めたようだが、当然開くはずがない。小さい金属音が鳴り響くけど、門は依然として封を閉ざしたままだ。
「閉まってるね」
続いて彼女は、門の脇にある小さな通用口の取手に手を伸ばした。
「あ」
ガチャ、と取手が押される音が響く。
通用口は、あっさりと戸を開いた。
「ええ……」
「教員か、それか警備員の閉め忘れみたいだね」
「でも、中は警備員が巡回してるんじゃ…」
「たぶん一人とかでしょ?そうそう見つからないって」
彼女は軽い足取りで敷地内へと入っていく。
僕は大人しく着いていく他なかった。
校門を入ってすぐには大きい職員玄関があるけど、当然鍵は空いていない。
その他の出入り口もすべて閉ざされているだろうから、敷地内には侵入できても、校舎内に入る術はないだろう。
さっきみたいに偶然鍵が空いているなんてこと、そうそうあるはずがない、
「警備員さんに見つかっちゃいますって。どうせ入れないんだから、早く帰りましょうよ」
声を潜めて彼女に声をかける。
僕は内心、警備員さんに見つかってしまうのではないかと、気が気がではなかった。
「思ったよりもうまくいかないもんだね。───あっ」
なにかを見つけたように、彼女が声を上げる。
僕はその声につられて、彼女の目線を追いかけた。
中庭の茂みに隠れて見えにくいけれど、その奥には、少しだけ戸が開いた窓ガラスがあるようにみえた。
彼女は茂みを避けて窓ガラスの前まで行き、手をかざす。
窓はガラガラと音を立てて開いた。
「やっぱり、開いてる」
「なんでこんなにザル警備なんだよ……」
僕は頭を抱えた。
通用口に加えて窓まで開いてるなんて、いくらなんでも警備が甘すぎる。
胸の少し上くらいの高さにある窓から、彼女が中を覗き込んだ。
「中は女子トイレみたい。入れそうだよ」
窓の位置は少し高いけど、確かによじ登れば入れないことはないだろう。
「女子トイレなんで、僕は入れないですよ」
「じゃあ、あたしが先に入るから、ガキ君はついてきてね」
僕の意見はあっさりと黙殺された。
彼女は窓の縁に手をかけて、よじ登ろうとする。
窓の位置が高いので少し苦労しているようだが、この調子なら中に入れるだろう。
「⋯⋯⋯⋯⋯」
彼女は現在窓によじ登ろうとして、女子トイレ側に身を乗り出すような体勢になっている。
当然上半身側を向こうに乗り出しているので、僕に今見えているのは彼女の下半身だけだ。
「⋯⋯⋯⋯⋯」
つまり今僕の目の前には、彼女の形のいいお尻と、そこから伸びる脚が映っている状態だった。
彼女はショートパンツを履いているので、お尻のラインがくっきりと見える。
おまけに真っ白な太ももまでもが完全に露出されていて、完全に目に毒な状態だった。
「下がギザギザしてるから、進むとお腹が痛いな……」
奥から不機嫌そうな声が聞こえる。
彼女は身を捩って、更に前へ進もうと試みる。
その度に、眼前でお尻がフリフリと揺れた。
あまりにも刺激が強いその光景に、視界がフラフラとしてきた。
耳もなんだか、熱くなってきているような気がする。
「よし、登れた───って」
ようやっと向こう側にたどり着くことができたらしい彼女から、視線を感じる。
「ガキ君、なんでそっぽ向いちゃってるの?」
「知りません」
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