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夜の駅で、怪しい少女に捕まった  作者: しすこーん


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3/13

とあるバーにて

「ほら、キミも座ったらどう?まさか、このまま帰るわけでもないでしょう?」


「え、あ、はい」


呆然と立ち尽くしていたところに声を掛けられて、少し慌てたような返事をしてしまう。


たしかに、いつまでもこのまま突っ立っているわけにもいかないだろう。

目の前には、背もたれのないイスが全部で八席置かれていた。

シヅキ、と呼ばれた少女は、左から四番目の席に座っている。


「ほら、こっち」


彼女がポンポン、と隣の席を軽く叩く。

隣に座れということだろうか。


思わぬ誘いに少し驚いたけど、わざわざ断る必要もないだろうと思った。

数瞬の思考の末、僕は左から五番目、彼女の隣の席に腰を下ろすことにした。


僕が隣に座ると、彼女は真っ白な手でパーカーのフードに手を伸ばし、後ろへと引っ張った。


フードが脱がされると同時に、深く被っていたキャップまでもが少し引っ張られ、ようやく彼女の顔を見ることができる。


やっと姿をを表した彼女のことを見た瞬間、僕は息を呑んだ。


やや切れ長の目に、しっかりと女性らしさを備えた長いまつ毛。

瞳の色は、光の反射次第では紫にも見える。


鼻筋はすらっと通っていて、ぷっくりとした桜色の唇は、全体的に色素が薄い肌色のなかでしっかりと存在感を主張していた。


大人っぽさの中にどこかあどけなさを感じさせる、そんな顔立ちだ。


真っ白な首筋の横では、だらりと長い髪が垂れ下がっているのが伺える。

光がない場所では完全な黒に見えたが、光を通すと、少し青みを帯びた色のようにも見える、


まるで、夜というインクにたっぷりと漬け込んだ、絹みたいな色だ。


完成された芸術品のようだと思った。


美しさというものを極限まで研ぎ澄ました末には彼女ができるのではないかと思えるほどに、圧倒的な美だ。


僕がその姿に見惚れている間に、彼女は手をお姉さんの方へと差し出し、クイクイと指先を曲げている。

なにかを要求するような仕草だった。


「お酒を飲める年齢じゃないなら、どちらにしろ意味はないのだけど……。まあ、いいわ、いつものやつでいい?」


「うん、お願い」


「キミもなにか飲む?」


「あ、ええと、それなら、同じやつで」


「了解」


突然の問いで、よく考えないままに答えてしまった。まだアルコールは飲めない年齢だけど、大丈夫だろうか?


僕の心配をよそに、お姉さんはグラスを二つ並べ、それからオレンジ色の液体をトプトプと注いでいく。

中身は普通にオレンジジュースのようだった。


華麗な手つきで二人分のグラスをオレンジ色の液体で満たした後、僕と彼女の前それぞれにグラスを滑らせ、差し出す。


「どうぞ」


やけに得意げな顔が印象的だった。


「なんだか嬉しそう」


「だって、やっと紫月以外のお客さんが来てくれたのだもの。といっても、用意するのがオレンジジュースが格好つかないけどね」


「あたしもこの子もお酒が飲めないんだから、しょうがないじゃん」


「だから、そもそもお酒を飲める子を連れて来なさいよ。お店の利益にならないでしょ」


「どうせお金なら有り余ってるんだから、いいでしょ?」


少女が、吐息をついて答えた。

お姉さんはやれやれといった表情をする。


「せっかくなら、シェイクしてカクテルを作ってみたりしたいじゃない。バーっぽいことがしたいの」


「お酒を作りたいなら、自分で作って自分で飲めばいいじゃん」


「それはちょっと違うのよねー」


お姉さんは立ったままテーブルの上で腕を組んで、物憂げにつぶやいた。


目の前のお姉さんもまた、真っ赤な口紅と泣き黒子が印象的な美人だった。

後ろに結んだ黒髪に赤いネクタイが、バーテンの服とよく似合っている。


「ガキ君はさ、非行少年なの?」


お姉さんがカウンターの奥に引っ込んだタイミングで、シヅキと呼ばれた少女が話しかけてきた。


「⋯⋯⋯多分、そんなことはないと思います」


「でも普通、あんな時間に一人で駅にいなくない?」


「たまたま散歩がしたくなって……駅にいたのは、偶然です」


「ふーん」


僕はなんだかいたたまれなくなって、オレンジジュースが入ったグラスを持ち上げ、口に運んだ。


「なんかガキ君って、普通だよね」


「そりゃ僕は、普通ですけど」


手に持ったグラスをゆらゆらと揺らしながら、彼女はいう。

視線は、ぶっきらぼうに虚空を見つめている。


「やけに礼儀正しいし」


「初対面で年上の人には、普通敬語だと思います」


「そういう常識人ぶったところもさ」


「⋯⋯非常識な人には、なりたくないです」


「まるで、なにかに縛られてるみたい」


彼女の言葉に、胸がドキリとする。

偶然だろうが、彼女の言葉は的を得ていた。


物心ついて少しした頃から、いいようのない閉塞感を感じていたことは、事実だ。


学校にいかなくなってから、一ヶ月と少し。

日々の中に感じる心苦しさは、いまだなくなってはくれない。


「しょうがないな。お姉さんが、夜を教えてあげる」


今まで合っていなかった目線が、初めて合わされた。


お姉さん、というには、彼女は若すぎるように見える。

それでも余裕のある佇まいからか、僕なんかよりもよっぽど大人に見えた。


口元に、うっすらと笑みが浮かべられる。


その妖艶な笑みに、心臓が跳ね上がった気がした。


「ベニ、『シンデレラ』を一つ。この子に作ってあげて」


「──ん?ああ、やっと出番?了解いたしました」


シヅキと呼ばれた少女に呼びかけられたお姉さんは、やけにかしこまった口調で返事をした。


それからお姉さんは、手際よく氷やシェイカー、薄黄色の液体で満たされたガラス瓶なんかを用意していく。


「ちょ、ちょっと!僕、お酒は飲めないんですけど!


「キミ、カクテルは初めて?」


ニッコリと微笑まれる。

答えになっていない返答が返ってきて、戸惑ってしまう。

そうしている間にもシェイカーらしき容器に氷、そして数種類の液体が注がれていく。


そしてお姉さんはシェイカーに蓋をして、持ち上げ、振り始めた。


氷と金属がぶつかり合う音が店内に響き渡る。


凛とした姿勢でシェイカーを振るお姉さんの姿には思わず見惚れてしまうけど、それが僕の為に行われていると思うと、気が気ではなかった。


約十数秒が経った頃。

シェイカーの蓋が外され、黄色の液体がカクテルグラスへとなみなみ注がれる。

最後にお姉さんは、薄くカットしたレモンをグラスの縁へと添えた。


「『シンデレラ』です。どうぞ、お客様」


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