弐
みそ汁と命の実のつけもの、それから野菜いためとごはん。それだけのシンプルな朝ごはんを食べる。
とはいえいくらシンプルとはいえ初都の食事は冴夜村よりもうーんとおいしい。命の実のつけものだって、冴夜村の命の実とは比べものにならないくらい、塩気があっておいしい。
そして身だしなみを整えて、七神の初都やしきから出る。
八神様と会うので、今日はちゃんとした格好にしてみた。
白のシャツにネイビーのリボン、それに紺のスカートをあわせる。着物が多い初都では目立つけど、新都でしっかりとした学園生の夏ファッションだ。
そこでいつもよりもゆとりのある感じで、八神様の初都やしきへ向かおう。さて八神様の初都やしきってどこだっけ?
「八神の家へ行くの?」
昨日と同じく白い髪をお団子にして、ピンクの花が印象的な着物に、小さな花があしわられた袴をはいている。
そうこのお方は、始祖神様だ。
「そうです。月場は八神様の婿候補です。そのため月場が八神様と会っている可能性はあります」
「そうだよね。じゃあ私も一緒に行っていい? 始祖神が一緒の方が、八神様とも会いやすいよ」
「お願いします」
七神ゆかりの人よりも、始祖神様の方が八神様も話してくれるかもしれない。
そこで始祖神様と一緒に八神の初都やしきへと向かう。
「ごめーん、八神いる?」
フランクな感じで、八神やしきのドアをたたく始祖神様。
「いますよ。お久しぶりです」
八神様の色は朽葉色だけど、私はその色をよく知らない。
ということで八神様はやや明るくて緑かかった色の髪を短くしていて、濃い青の振袖を着ている。とってもクールな美少女って感じで、神様っぽさは七神様や初都神様よりも薄い。
「その服は初めて見るけど、またもらったの?」
「三神がおくってきたの。三神は青色を担当しているでしょ? それでこの振袖、帯、重ね襟、半襟、帯揚げ、帯締め、帯留め、帯飾り、すべて青系統なの」
くるりと一回転する八神様。
確かに濃淡あるけど、全体的に青い振袖だ。
「流石三神というべきか、真っ青じゃん。ところで七神から緑の振袖とかもらったの?」
さりげなく七神様の話を始める始祖神様。
これは月場の話をしやすくしているんだな。いきなり月場の話をしても怪しまれるから。
「七神は緑の重ね襟を持ってきてくれたの。私の朽葉色とあわせやすい緑で、素敵だったわ。そのうえにイケメンが持ってきてくれたの」
「そのイケメンって、初都に住んでいる人?」
「ううん。冴夜村で働いている人だって。よくは私知らない」
この様子だと月場は重ね襟を持って、八神様へ会いに行ったってことが分かる。名前すら知らないってことは、あんまり月場は八神様とは話していないのだろう。
「やっぱり色々な神が贈り物をしているなんて、人気だね、八神は」
「始祖神ほどじゃないよ。ところで後ろにいるのは新しい使用人?」
始祖神様の後ろにいる私、その存在に八神様は気づいたらしい。
「七神ゆかりの子だよ。私は使用人を連れて歩くなんてしないからさ。そうそうこの子はなんでも初都で行方不明になった幼なじみを探しているんだって」
「冴夜村、七神ゆかりの夜々と申します。よろしくお願いします」
私はおじぎをする。神様には丁寧に接しなくちゃいけないので、とても緊張する。
「新都の子よね。二神じゃなくて、七神ゆかりの子なの?」
「はい。現在は新都の学園に通っておりますが、冴夜村出身です」
「新都の学園に通っている子が、幼なじみを探しに初都へ来たの。ところで見つかったのかしら?」
八神様は不思議そうだ。新都や冴夜村と、ここ初都のつながりがよく分からないのだろう。
「見つかっていません。今のところ幼なじみは七神の初都やしきから出て、八神の初都やしきへ来たことが分かっただけです」
冴夜村出身で八神の初都やしきへ来たイケメンなんて、月場以外にはいない。そこで月場がここ、八神やしきで八神様と月場が会ったことは確かだ。
「だとしたら七神ゆかりの子が八神やしきに来たのが7月28日だったわ。その男の子が行方不明だと分かったのはいつ?」
「7月28日にはいて、7月30日の朝にはいなかったそうです。そして7月29日に七神の初都やしきへ戻ってこなかったみたいなので、7月29日だそうです」
これは何度も聞いた話。月場は7月28日には七神の初都やしきへ戻ってきたけど、7月30日の朝にはいなかった。
そこで失踪したのは、7月29日のはず。
「だとしたら7月29日に私は会っていないから、どうかは分からない。始祖神はどう?」
「私は月場自体見たことない。そういえば7月29日には六神が初都に来ていた。六神って平安っぽいファッションをしているから目立つのよ。いつもは初都に六神いないから、びっくりした」
新しい神様の名前が出てきた。確か六神様は銀皀村に暮らしているはずだから、初都へ来ることも無いのだろう。
「六神は銀皀村にいるでしょ。そこから初都へ来るなんて珍しい。だったら六神だったら何か知っているかも」
手がかりがない以上は、六神様に話を聞く方がいいかもしれない。
「そうね、ありがとう。とりあえず六神のおやしきへ行ってみるわ」
「私も行きます。ありがとうございました」
月場がいなくなった日に、六神様がここら辺にいた。
とはいえ今も六神様が初都へいるとは思えないので、六神の初都やしきの管理人に話を聞くことになるけど。
「来てくれてありがとう。婿や贈り物以外の話だったら大歓迎。いなくなった子が見つかったら、教えてね」
八神様は笑顔で見送ってくれた。
どうやら八神様は婿関連の話にうんざりしているらしい。それから何度もくる贈り物にも、いい思いを持っていないらしい。
神は人とは違う。でも人と同じく、人間関係にうんざりするかもしれない。
「ありがとうございました。失礼します」
「ばいばーい、またね」
私は丁寧に、始祖神は雑に挨拶をする。
そして八神やしきから、私たちは出るのであった。