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凍玻璃でできた水泡  作者: 西埜水彩
七神様のお願い
2/7

「そうそう、七神やしきで働いている月場(つきば)くんとは会うの?」


 母は話を変えた。どうやらこれ以上新都の話はしたくないらしい。


「うん、この後に会う」


 月場は私の幼なじみ。同じ年で、今は七神やしきで働いている男の子だ。


 同じ年なのもあって小学校に通っていたときはよく一緒に遊んだ。だけど私が新都の学園へ進み、月場は七神やしきで住み込みの仕事をしていることもあって、最近はほとんど会っていない。


「七神のやしき奉公は尊いお仕事だから、あまり邪魔しないようにね。うちの息子も七神のやしきに誰か奉公できたらよかったのに」


 母はため息をつく。


 うちの家は本当にお金がない。そこで兄達はみんな村の外で働き、姉はお金持ちの家出身の婿を取った。これが例えばほかの家だったら、兄達も村で働けたかもしれない。


「月場は顔立ちが整っているから、兄達とは違うよ。じゃあ行ってくるね」


 なんとかおかゆを食べ終わってから、再び外出する。


 七神やしきは村で一番大きい。そこで目立っているので、村のどこからでも場所が分かる。


 とはいえ新都的にはそこまで大きくない家なのかもしれない。この村と新都では、規模がそもそも違うのだ。


「失礼します。月場さんはいますか?」


 七神やしきの裏門。お手伝いさんが利用する門で、門番に話しかける。


「中でお待ちください」


 珍しく、やしきの中へ通された。


 月場は下っ端のお手伝いだ。顔立ちが良いことを理由に採用された、小学校出身の男子がやしきで尊いお仕事をできないので、それは仕方ない。


 それだけにいつもとは何かが違う。


「こちらでお待ちください」


 小さくて落ち着いた和室に通される。


 新都でも立派と言われるような、和室だ。少なくとも私の家とは違う村にあると言っても過言ではないほど、すごい良い部屋。そこに用意された座り心地のいい感じがする座布団、そこの上に座る。


「もう少しお待ちください」


 落ちついた感じの女性が、果物の入ったお皿とお茶を運んできた。


 七神は植物の神。そういうこともあって珍しい果物を栽培しているらしい。今回用意された果物も、新都では見たことのない物だった。


「ぼくと似ているもこー」


 もことよく似たふわふわもこもこの丸い綿。そんな見た目の果物。


 思わず口の中にいれてみた。口の中ですっと甘酸っぱさがとけていく。うん、とてもおいしい。


 この果物、少なくとも新都にはないはず。それほど珍しい物だった。


「今回用意したのは甘い綿の実よ。甘酸っぱさがくせになるでしょ」


 どんな絵の具でも再現できないような鮮やかな緑色をした、豊かな髪。そして村の人とは比べものにならないほど凝った和装。


 この人は七神様。月場に会いに来たのに、七神様がいらっしゃって びっくりした。


 新都には二神様以外、神様はいらっしゃらない。そして神様は人と関わることがほとんどないので、このような状況はまれだ。緊張する。


「ありがとうございます。おいしいです」


 七神様は私の目の前に座り、ゆっくりと話し出した。


「気に入ってくれてうれしいわ。今回は月場くんのことね。実は月場くん、行方不明なの」


「月場が行方不明ですか?」


 こんなど田舎で働いている人が行方不明になるなんて、想像もしなかった。


 新都なら行方不明になる人は、たまにいる。新都は犯罪が起きることもあるのだ、この村とは違って。


「月場くんは初都へお使いに行ったの。それでこの村へは戻ってこなかったのよ」


「初都でいなくなったのですが・・・・・・」


 初都ははじまりの都であって、すべての神のやしきがある。それもあってか七神様ゆかりの人が初都へ行くことも多い。


 とはいえ始祖神というえらーい神様が住んでいるし、新都よりも栄えていない初都で人がいなくなることが意外だった。


「今は農作業で忙しくて、私も初都へ行く余裕がないの。村の人も忙しいわ。そして初都にいる人は頼りないの。よかったら初都へ行って月場くんを探してくれない?」


「私ですか?」


 別に私は人探しが得意ってわけではない。それに単なる学園に通う生徒で、何か初都につてがあるわけでもない。


 それで月場を初都で見つけられる、その自信はない。


「そう。夏休み中のあなただけが頼りなの。大人がもう手に入れられない夏休み中のあなたしか無理なの。そして初都はこの冴夜村よりは栄えているわ、生活レベルも高いし」


「行きます。行って月場を探します」


 初都は新都よりは寂れているけど、都なので村よりは生活レベルは高い。


 それにこの村にはおかゆ以外まともな食事はでないけど、初都はそうじゃないはず。


 よーしそれなら初都へ行っちゃおう。そこで月場も見つけたい。


「受けてくれたよかったわ。じゃあ初都の人には頼むから、明日から行ってね」


「かしこまりました」


 初都の人が見つけられなかった月場を、私が探すことができるのか。


 それは考えない。今は初都で暮らすことのできる日々のことだけを考えよう。それになんとかなるでしょ、なんとか。



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