表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/61

〈スライム〉討伐戦-2

「お、おい、ユウジ、ここらの地面って踏んでも大丈夫なんだよな? 〈スライム〉が残っていて、足が溶かされるってことはないよな?」

「イチカさんが大丈夫って言った! だったら大丈夫だ!」

「そ、そうだった! イチカさんが言うことなら間違いはないよな!」

 つい先ほどまで巨大な〈スライム〉の一部が占拠していた地面を、おっかなびっくり踏みしめながらユウジとジェボクが走る。

 彼らが抱えているのは、大きな袋。発掘者たちが、発見した発掘品を運ぶための合成布製の丈夫な袋で、ある意味発掘者たちの必需品だ。

 そして、彼らが立ち止まったのは、グラウンドのほぼ中央。先ほどまで〈スライム〉の本体が鎮座し、周囲に転がる【インビジリアン】の死体を手当たり次第に貪り食っていた場所である。

「こ、ここでいいんだよな?」

「ショウ先輩、ここでいいんですよね?」

 ユウジが無線で格納庫の屋根にいるショウに問えば、是の返答。高所にいるショウからは、ユウジとジェボクの位置がよく見えるのだろう。

「ジェボク、さっさと作業を終えるぞ!」

「おう! 姐御とミサキたんが敵を引き付けてくれているうちにな!」

 二人は袋の中に詰めてあった物を取り出すと、無造作に地面に並べていく。

「おい、この配線、これでいいんだっけ?」

「確かそのはずだ……多分」

 ユウジとジェボクは、事前に教わったように準備を進める。

「…………なあユウジ、こうやってあの化け物が囮役のミサキたんたちに引き寄せられているうちに、さっさとこの駐屯地から逃げ出せばいいンじゃね? こんな準備に手間をかけるよりもさ?」

「ばっか、おまえ、イチカさんの説明を聞いていなかったのか? 普通の〈スライム〉ならともかく、あれだけ大きいと逃げるのも一苦労って話だったろ? 姐御やミサキさんぐらい足が速ければ問題ないけど、俺たちやアイナ先生が一緒だとまず逃げ切れないってイチカさんは言っていたじゃないか。それに、姐御とミサキさんにだけ危険や役目を押し付けっぱって訳にもいかねーし」

「あー、それもそうだよなぁ」

 あの巨大〈スライム〉が姿を現してから観察を続けた結果、普通の〈スライム〉よりも反応速度が速いとイチカは判断した。

 流動体の巨体を雪崩のように上から一気に落とすことで加速を得られるのだろう、というのがイチカの分析である。

 結果、フタバやミサキのような強靭な脚力があればともかく、アイナやユウジ、ジェボクたちはもとより、ショウやイチカでさえ巨大〈スライム〉の速度から逃げ切るのは困難かもしれない。

「つまり、オレたちが助かるにはあの化け物を倒すしかないってことか」

「そういうこった。だから、ショウ先輩の作戦をこうして実行しているんだろ?」

 会話を続ける間も、二人の手は止まらない。

「……後はこの上に、その辺に残っている【インビジリアン】の死体を置いて偽装して……」

「おっし、バッテリーの接続完了! これで準備は大丈夫!…………のはずだ」

 二人は互いに頷くと、格納庫の屋根の上にいるショウに向かって大きく手を振る。

「よし、格納庫に戻るぞ!」

「後はパイセンたちにお任せだな!」


◆◆◆


 文字通り怒涛の勢いで迫る〈スライム〉を、何とか躱し続けるフタバとミサキ。

「イチカの分析よりも速い! 注意しろ!」

「高所からの落下速度が予想よりも少し速いですね!」

 間近に迫る〈スライム〉の一部を、フタバとミサキは左右に分かれるように跳んで回避する。

「──イチカから速度を修正した〈スライム〉の新データが届いた。新データを基に再構築した回避パターンだ」

 フタバはちらりと〈スライム〉のやや上空を飛行する物──小型のドローンへと視線を向けた。

 〈スライム〉の動きは、今も観測用の小型ドローンによって監視されている。

 単にカメラを積んだだけの安価な小型ドローンだが、自身とリンクすることでイチカはリアルタイムで〈スライム〉のデータを集積、解析しているのだ。

 そのデータは逐一フタバとミサキにも共有され、それを基に二人は囮としての役目を全うしていた。

 イチカから送られてきた新規データをダウンロードし、二人の回避確率が更に上昇する。

 それでも、フタバとミサキは決して油断しない。〈スライム〉が自分たちを「餌」だと認識できるよう、適度な距離を維持しつつ時折銃撃を加えて注意を引きつけ続ける。

 ざぱん、という波音と共に、彼女たちの足元へと〈スライム〉の体の一部が押し寄せる。

 もしもこの「生きた波」に足を捕らわれたら、そのまま〈スライム〉本体へと引き寄せられ、〈スライム〉の中で消化されてしまうだろう。

 フタバとミサキは散開し、押し寄せる「生きた波」を危なげなく回避する。

 だが、〈スライム〉の攻撃は途切れない。その質量に物を言わせるかのごとく、次々と「生きた波」がフタバたちに押し寄せる。

 しかし、それらの攻撃をリアルタイムで観測しているイチカによって、攻撃の速度や範囲、パターンなどを即時データ化し、それをフタバとミサキは共有して危なげない回避を続けていく。

「〈スライム〉は知能がほとんどないだけあって、速度こそ脅威ですが攻撃そのものは単調ですねー」

「ああ、おかげで回避が容易い。だが、油断して格納庫から離れ過ぎるなよ」

「分かっていますよ、姉さま。ご主人様たちがいる格納庫から離れすぎると、『仕込み』に食いついてくれなくなるかもですからねー」

「まあ、それならそれで、マスターたちが逃げおおせる機会が生じるというものだがな」

「ですねー」

 焦ることなく。されど侮ることもなく。

 二人は文字通り機械のような正確さで、〈スライム〉の攻撃を回避していく。

 やがて。

「イチカ姉さまから連絡! ユウジさんたちの準備が完了したようです!」

「こちらでも確認した! あの怪物をもう一度格納庫の前まで誘導するぞ!」

「わっかりましたー!」

 フタバとミサキは〈スライム〉の攻撃を躱しながら、その進行方向を巧みに調整し、再び格納庫の前へと誘導していく。

 そこに、この巨大な怪物を倒すための策が仕込まれているのだから。


◆◆◆


「ショウ様。フタバたちが戻ってきました。その後を〈スライム〉が追尾している模様です」

「ああ、こちらからもよく見えている」

 通信機越しのイチカの声に、ショウは笑みを浮かべながらその光景を見下ろした。

 イチカとアイナ、そしてユウジとジェボクが潜む格納庫。その屋根の上で、ショウは伏せ撃ちの態勢でバトルライフルを構える。

「相変わらず、〈スライム〉の【核】は身体の中央か……」

 〈スライム〉の巨大な体の丁度中央部分。そこにぼんやりと輝く【核】が存在しているのを、ショウの「目」は確かに捉えていた。

 その【核】へと更に意識を集中すれば、構えたライフルの銃口と【核】を結ぶ細いラインが見えてくる。

 そのラインに沿うように弾丸を放てば、放たれた弾丸が【核】を射貫くことをショウは確信できた。

 だが、【スライム】の体は、水よりも粘度の高いゲル状物質で構成されている。おそらく、強装弾とはいえ7.62mm程度の威力では、【核】まで到達できないだろう。

「…………なら、届くようにするまでだ」

 誰に聞かせるでもなく、ショウは呟く。

 そんな彼の視線の先で、()であるフタバとミサキを追尾した〈スライム〉が、グラウンドのほぼ中央まで到達した。

「フタバ! ミサキ! 安全圏まで離脱!」

 ショウは通信機で二人へと指示を飛ばす。それに合わせ、フタバとミサキは〈スライム〉を振り切るように速度を上げ、別々の方向に分かれて一気にグラウンドの外まで走り去った。

 後に残されたのは、グラウンドのほぼ中央で()を見失った巨大な〈スライム〉。

 怪物は餌を探すように数度巨体を震わせながら、その体を広げるように伸ばしていく。そして、〈スライム〉の体の一部が、グラウンドの中央付近で折り重なるように積み上げられた【インビジリアン】の死体に触れた。

 知能がほぼない〈スライム〉にとって、自身以外は全て餌だ。餌は餌でしかなく、その餌が動き回ろうがその場でじっとしていようが、〈スライム〉には大差ない。

 見つけた新たな餌を取り込むべく、〈スライム〉が巨体を揺らしながらゆっくりと移動する。そして、積み上げられた【インビジリアン】の死体の上からのしかかるように覆いかぶさり、餌を体内に取り込んでいく。

 その死体の下に仕込まれた、「仕掛け」と共に。

 〈スライム〉に味覚があるのかは不明だが、何となく満足そうな様子で巨体を震わせ始める〈スライム〉。

 その透明な体の中で、【インビジリアン】の体が溶けていくのをショウたちははっきりと視認した。

「C-4の取り込みを確認────起爆します」

 イチカは静かに告げると同時に、手元の起爆装置のスイッチを押した。



 申し訳ない! まだまだ仕事が忙しくて、次回の更新は4月6日(月)となります。

 そろそろこの忙しい時期も終わる……はず! 多分!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
更新ご苦労様でした。巨大なだけに〈スライム〉を斃すのは困難な模様。だがしかしみんなで協力すれば活路が開けるか…。今週で仕込みは終わり、次回には決着が付きそうですね♪ 誤字・脱字等の報告 特にありませ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ