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旧陸上自衛隊横浜駐屯地

明けましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いします。

「何? 【聖母】となるべき者が見つかったと? それは本当かね?」

「はい、教主猊下。潜り込ませていた者より、先ほど連絡が入りましてございます」

 貧相な体をこれでもかと華美な装飾品で飾り付けた男は、驚愕と歓喜を混ぜた表情を浮かべた。

「して、【聖母】の候補者はどこに?」

「かつては川崎市と呼ばれた場所に建造されたシェルターに住んでいるとのことです」

 教主と呼ばれた男の問いに、教主と同じ聖印を首から提げた男が答えた。

「川崎市……カワサキ・シェルターか。かかか、あそことは何かと縁があるの」

 にんまり、と。

 教主と呼ばれた男は、どこか歪さを感じさせる笑みを浮かべた。

「至急、【聖母】をお迎えする準備をいたせ!」

「御意にございます、猊下」

「ふむ……まずは【聖母】に我らが『聖地』に来ていただかねばな。そのために、誰かを迎えにやるとしよう」

 教主はしばし、何もない宙を睨むようにしながら考える。

 そして。

「やはり、カワサキをよく知る者を迎えにやるのが良かろうて」

 と、教主は再びにんまりとした笑みを浮かべた。


◇◇◇


「オーバーホールの結果はどうだ?」

 メンテナンスカプセルから出たばかりの黒髪の女性は、モニターを見つめる()に問う。

完美(ワァンメェイ)──完璧だよ」

 モニターを見つめていた彼は、メンテナンスのために脱ぎ捨てていた服を着る女性へと振り返って告げた。

「かなりひどいダメージを受けたようだな」

「ああ。マスターにも被害が及んでしまって申し訳ない限りだ」

 服を着た黒髪の女性は、確かめるように体の各部を動かす。どうやら異常はないと判断し、改めて彼へと視線を向けた。

「礼を言う、創造者(クリエイター)

「なに、礼を言うのはこちらだ。あいつをよく守ってくれた」

 彼は微笑む。確かに大怪我を負ったが、彼の唯一の()()は命を落とすまでには至らなかった。

 それも、目の前の女性が身を挺して庇ってくれたからだ。

「今回のダメージは、《ベヒィモス》のメンテナンスカプセルでは完全な修理は無理だったからな。マスターには黙ってここへ来たのは正解だった」

「《イィ》と《サン》……いや、イチカとミサキにも、時にはここでオーバーホールを受けるように伝えてくれ」

 了解した、と黒髪の女性は頷く。

「これからも、私に残された唯一の肉親……孫であるショウを守ってやってくれ。とはいえ、今後も私のことはくれぐれも内密にな」

 自身の生みの親である創造者に、黒髪の女性──フタバは、任せろと告げた。


◆◆◆


「自衛隊とアメリカ海軍の施設を改めて探索する?」

「そういうこった」

 自宅のリビングで、ショウは義父であるウイリアムからとある仕事の依頼を切り出された。

「この前の〈ギガンテス〉騒動で、大型の敵に有効な武器の必要性を考えさせられてなぁ」

「それで、改めて旧自衛隊や旧アメリカ海軍の施設を探索して、何か対大型用の武器として使えそうな物を探そうってことですかー?」

「おう、ミサキの言う通りだ」

 にぃ、と笑みを浮かべるウイリアム。巨漢で強面の彼が笑みを浮かべると、その威圧感がいやが上にも増すのだが、この場にいる者たちはそんなことを気にもしない。

 今、自宅のリビングにいるのは、ウイリアムとショウ、イチカ、フタバ、ミサキ、そしてアイナの、いわゆる「ウイリアム・ファミリー」全員である。

「もちろん、旧自衛隊施設や旧アメリカ海軍の基地(ベース)の全てをおまえたちに探索してもらおうってわけじゃねえ。おまえたちに頼みたいのは、旧陸上自衛隊横浜駐屯地の探索だ。海側の施設は大掛かりな場所ってコトもあり、他の発掘者たちの連合チームに依頼する予定でな」

 旧陸上自衛隊横浜駐屯地は、海上自衛隊の二つの施設や米海軍の基地とは異なり、旧横浜市保土ヶ谷区に存在する。

「あの施設は輸送隊や通信派遣隊といった、いわゆる支援部隊の拠点だ。海側の施設ほど大掛かりなトコじゃねえし、少人数でも充分探索できっだろうよ」

 また、かつての保土ヶ谷区は住宅地が多く、現在では車両(ビークル)で入り込むことも難しい。

 だが、ショウたちが有する《ベヒィモス》であれば、他の車両よりも旧駐屯地に近づけるだろう、というのが、カワサキ上層部がショウたちのチームに依頼を出す理由である。

「住宅地が多かったエリアだから、今でも相当な数の【インビジリアン】が潜んでいると予測される。もちろん、駐屯地の中にもな。まあ、おまえたちなら余程の強敵が現れなきゃ大丈夫だろうけどよ」

「でも最近のしょーちゃん、お仕事に出かける度に大きな怪我してくることが多いから心配だなぁ」

 ウイリアムとショウの話を聞いていたアイナが、ちょっと不満そうな表情で口を挟む。彼女の言う通り、最近のショウは発掘に出かける度に怪我を負う確率が高いので、アイナが心配するのも仕方ないだろう。

「我々がついていながら、申し訳ありません、アイナ様」

「ううん、イチカたちはしっかりとしょーちゃんを支えてくれているよ」

 頭を下げるイチカに、アイナはぱたぱたと両手を振りながら答える。

「ではいっそ、次の探索にはアイナも同行したらどうだ?」

「フタバ姉さま、それいいアイデアです! 仮にご主人様が怪我をしても、アイナ様が近くにいるのならすぐに処置できますしねー」

「そ、そんなの無理だよ! アタシみたいな素人が一緒だと、しょーちゃんたちの足を引っ張るだけだし!」

 フタバの提案をミサキが支持するも、当のアイナは否定的だ。確かに彼女の言う通り、発掘の素人が一緒ではショウたちの効率は下がるだろう。

「いや、案外悪くねぇかもしれねンじゃね? ほら、この前の若い連中……ユウジとジェボクだったか? アイナの護衛って役目であいつらも一緒に連れて行ってやればどうだ?」

 ぽん、と手を打ち合わせたウイリアムが告げた。

「元々、運営部としてもカワサキ病院には協力を願い出るつもりだったしな」

 今回計画されている旧自衛隊および旧アメリカ海軍の施設探索は、かなり大掛かりなものとなるだろう。

 カワサキ・シェルターの運営部としても、当然出ると予測される負傷者の治療のため、カワサキ・シェルターの医療施設に勤務する医師を何人か派遣してもらえるよう、医療施設に申請するつもりだったのだ。

 ショウたちもカワサキの運営部から依頼されて発掘を行う以上、医療施設の医師が参加しても問題にはなるまい。

「うーん、院長先生がその協力申請を受け入れて、アタシが派遣されることになれば……」

 医療施設も医師が潤沢というわけでもないので、派遣するとしても精々一人か二人。そこにアイナが含まれるかどうかは、医療施設のトップである「院長」の判断によるだろう。

「とりま、運営部としてはカワサキ病院に正式に協力を要請しておくか。ショウはユウジとジェボクに話をしておいてくれ」

「分かったよ、オヤジ。イチカ、頼めるか?」

「お任せください、ショウ様。彼らにはわたくしから連絡しておきます」

 こうして、いつものショウのチームに三名ほど人員を加えて、次の発掘の準備が進められていった。


◆◆◆


「え? ってことは、仮に高価な発掘品を見つけたとしても、俺たちの物にはならないってことっすか?」

「今回の仕事は、カワサキ・シェルターからの依頼だからな。見つけた発掘品の所有権は、全てシェルター側になるのさ」

「じゃあショウ先輩、今回の仕事ってあまり美味しくないんじゃないですか?」

 ショウの後輩たち──ヤマダ・ユウジとテイ・ジェボクは、旧陸上自衛隊横浜駐屯地の探索の話を聞くと二つ返事で依頼を請け負った。

 そして数日の準備期間の後、ショウたち四人にアイナ、ユウジ、ジェボクの三人を加えた計七人は、旧陸上自衛隊横浜駐屯地の跡地を目指して移動している。

「そうでもないぞ」

 ユウジの質問に、ショウは微笑みながら答えた。

「確かに発掘品の所有権は俺たちにはない。だが逆を言えば、何も見つからなくても規定の報酬は支払われるんだ」

「あー、そっか!」

「たとえ発掘が空振りでも、赤字にはならないンすね!」

「更に付け加えれば、移動で消費する車両の燃料代、現地の戦闘で使用した弾薬代などもカワサキ持ちだから、こういう指名依頼は手堅いって意味では美味しい仕事と言えるな」

「なるほどー。俺たちのような新人(ルーキー)には、こういう仕事は回ってこないっすからねー」

 特定の個人や発掘者チームを指名して、発掘を依頼される場合がある。

 このような仕事の場合、発見した発掘品の所有権は依頼人のものとされる。その代わり、発掘の際にかかる費用は依頼人が受け持つのが通例だ。

 もちろん、依頼を請ける際に依頼人との間であれこれと細かい条件をすり合わせた後に契約を交わすので、その時その時で細かい条件は変動する。

 そして、依頼である以上、たとえ発掘が空振りに終わっても、最低限の報酬は支払われる。よって、発掘人にとって指名依頼は「美味しい仕事」と言えるだろう。

 とはいえ、当然ながら誰もが指名されるわけではない。

 過去の実績や知名度、そして何より信頼度が高くなければ依頼を指名されることはない。

 たとえ目的の発掘品を発見しても、「何も発見できませんでした」と言われてしまえば、現地まで同行するわけでもない依頼人に真実を確かめる術はないからだ。

 そのため、指名依頼は信頼性の高い発掘者でなければ発生しない。

 まだまだ駆け出しのユウジとジェボクに、指名依頼がないのは当然と言えよう。

「今回の依頼主は、カワサキ・シェルターの運営部。つまり、お互いに身内のようなものですから、虚偽の申告をされる心配もなければ、報酬を踏み倒されたり値切られたりする心配もありませんから」

「え? 報酬を踏み倒されることとかあるんですか、イチカさん?」

 イチカの言葉に、驚くユウジ。そんなユウジに、ショウは苦笑する。

「依頼する側、される側……どちらにも不心得者はいるってことさ」

「はぁ……世知辛い世の中っすねぇ」

「世の中を嘆くのもいいが、おまえたちの仕事を忘れるなよ?」

「もちろんッス、フタバの姐御!」

「俺たちの役目は、アイナ先生の護衛! 忘れていませんって!」

「うんうん、頼りにしているからね、ユウジくん、ジェボクくん」

 微笑むアイナに、ユウジとジェボクはやや頬を赤らめながら何度も頷く。

「ま、任せてくださいっす、アイナ先生!」

「アイナ先生には傷一つ負わせませんから!」

「当然です。もしもアイナ様に怪我を負わせるようなことがあれば……分かっていますね?」

 底冷えがするような視線をイチカからじっと向けられ、二人は《ベヒィモス》の後部シートに座ったまま背筋を伸ばした。

「い、いえす、まむ!」

「ぜ、絶対にアイナ先生を守ってみせるっす!」

「もー、イチカったら。あまり二人をいじめないであげてね?」

「いじめてなどはおりません、アイナ様。あくまでも、これは教育です」

「教育……かなぁ…………?」

 思わず顔を引き攣らせるアイナ。

 そして、そんな彼らを乗せた《ベヒィモス》は、廃墟と化した横浜の街を警戒に走り抜けていた。



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― 新着の感想 ―
ムク文鳥様、あけましておめでとうございます。今年も楽しいお話をお願いします。 それでは早速ながら読ませて頂きます。 新年に際して新たな任務を受けるショウたち。今度の探索でも強敵に遭遇しそう。 誤字・…
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