閑話─配信系発掘者 その5
※今回、2話同時更新しています。ご注意。
「おはらいとー! もしくは、こんらいとー! 今日はちょっと趣向を変えて、カワサキ・シェルターの中からライブ配信をしていまーす!」
そう。
今日の配信はカワサキの中から。なぜかって言うと、本日は大気の状況が思わしくなく、トーキョーやヨコハマから中継ができそうもないからだ。
本当ならトーキョー遺跡まで行ってライブ配信を行う予定で準備をしていたけど、中継できないのであれば仕方ない。
しょせん、人間は自然の力の前には無力なのさ、と自分を納得させつつ、俺は考えた。
配信自体を中止してもよかったけど、どうせならいつもとは違う方向で配信をしてみるのもいいんじゃないか、と思い至ったんだよね。
で、あれこれ考えた結果、以前から考えていた予備の武器を選ぶところを配信してみようと思ったのである。
「で、俺が今、カワサキ・シェルターのどこにいるかと言うと……」
いつもはオートモードで浮かんでいる撮影用ドローンを今回は手動で操作し、カメラをパンさせる。
そのカメラが捉えたのは、何ともファンシーなイメージの建物。
「みなさん、ここがどこか分かりますかー?」
「何じゃ、ここ? スイーツとか売っている店?」
「ばっか、【パンデミック】前じゃあるまいし、今の時代にスイーツ専門店とかあるわけないだろ!」
「じゃあ、ここどこよ? スイーツ売っている店じゃなきゃ、何かエロいグッズ売ってる店とか?」
「あれ? もしかしてここ……」
「な、なにぃぃぃぃっ!? し、知っているのか○イデン!? www」
「いや、そんな古いネタはいいからw コイツ何歳だよ?」
「ライちゃん、そろそろ正解教えてぷりーず」
うんうん、いい反応だ。
俺は改めて目の前の建物を見る。
建物そのものもファンシーな感じだが、色使いもまたファンシー。
確かに、【パンデミック】以前ならこういう店でスイーツとか売っていたんだろうな。
もしくは、激甘なロリータファッションを扱う服飾店ってイメージか。
「えー、実はここ、発掘者たちの間ではかなり有名なガン・ショップなんですよねー。その名も『人形の館』! いや、前々からここの噂は聞いていたけど、実際に見てもガン・ショップには見えませんねぇ」
そう。ここは発掘者なら知らない者はいないとまで言われる有名なガン・ショップなのだ。
この店のオーナーは、カワサキ・シェルターの技術班の主任さんらしい。
でも、そのオーナーは物造りにはかなりうるさいけど商売は全く興味がなく、ショップの経営は家族に任せっきりなのだとか。
もちろん、カワサキの技術主任を務める人がオーナーだけあって、ここで売られている銃器はどれも信頼性が高いともっぱらの評判である。
俺も前々からここの噂は聞いていたけど、この外観の店に一人で入る勇気はなく、以前はここじゃないショップで装備を揃えた。
だけどいい機会だから、この店の様子をライブ中継しつつ新しい装備を購入しようと思ったのである。
「さて、本日の目的は、サブウェポンになりそうな銃器の購入です。メインは今まで通りオート・ショットガンを使っていくつもりですが、サブの武器を購入しようと前々から考えていました」
「は? ここガン・ショップなん?」
「この見た目でガン・ショップとか。ぶっとんだセンスしてんなwww」
「是非、店主の顔が見てみたいw」
「これで店主がゴツいおっさんだったら大笑いだなwww」
視聴者たちも、ここがガン・ショップだとは思わなかったらしい。
まあ、このファンシーな外観を見て、一発でガン・ショップだと思う奴はまずいないだろうけど。
◆◆◆
「さて、店内を中継するにあたり、まずは撮影許可を得ないとね。ちょっとカメラはここに待機させて、俺一人で許可を得に店の中に入ってみましょう」
ドローンをホバリングさせたまま、ショップのドアへ手をかけた。
軽く押してみると、ドアは軋む音を立てることなくゆっくりと開いていく。
そして、店内には所狭しと並ぶ銃器類。
拳銃、SMG、PDW、ライフル、狙撃銃、ショットガン……様々な種類の銃器が展示されていた。
もちろん、弾薬や各種オプションパーツもある。
思わず無言で店内を見回していると、店の奥から誰かが出て来た。
「およよ、いらさーい。『人形の館』によーそろー……じゃなくて、よーこそー!」
出て来たのは女の子だった。
俺と同じぐらいの年頃の、ちょっと可愛い……いや、かなり可愛い女の子だ。
ピンク色をしたストレートロングの髪は染めているのか、それともウィッグか?
目の色が緑なのは、カラコンだろう。
身長は150センチの半ばぐらい。
「あ、あの……俺、実は配信者なんスけど、店の中って撮影しても大丈夫ですか?」
「へ? ハイシンシャ……? どこかの組織の裏切り者?」
はい? 裏切り者? って、もしかして「背信者」と勘違いしている?
「い、いえ、俺は『背信者』ではなく『配信者』でして……」
「ほむほむ。つまりぃ、裏切り者じゃあないのね? じゃあ、おっけおっけ! 撮影も許可しちゃうよん!」
と、店員さんと思しき女の子は何とも軽く答えてくれた。
「えっと……店長さんとか、そういう人の許可は……」
「えへん、あーしが店長だから! お店そのものはおじーちゃんのだけどね!」
なるほど。経営者はお爺さんだけど、実際にはこの女の子が店を切り盛りしているってわけか。
「じゃあ、撮影させてもらいますね」
「おっけおっけ! じゃんじゃんお店の宣伝しちゃってねー!」
俺は一旦店の外に出て、待機していたドローンを回収して改めて「人形の館」の中に足を踏み入れた。
◆◆◆
「どもどもー! ガン・ショップ『人形の館』の店長、エマちゃんでぇぃっす!」
俺が手にしたカメラに向けて、店長──エマさんはダブルピースでにこやかに自己紹介をした。
さすがに店内でドローンを飛ばすわけにはいかないから、手に持って撮影中です。
「お、おんにゃのこだぁっ!!」
「しかも、結構可愛いぞ!」
「いやっふー! 女の子! 女の子!」
「ライちゃん! そのままナンパしてベッドの中に連れ込め! で、その際の実況中継を是非! 是非!」
全く、男って奴はこれだから! 女の子が登場した途端、盛大に盛り上がりやがって!
実際、エマさんが登場したら一気に同時接続が爆上がりしたからな。「黒子さん」の時と全く同じだろ! こいつら、全然成長してねえな!
こいつら、絶対彼女とか恋人とかいないんだろうな。あ、俺も人のこと言えないけど。
……などなど、心の中では思っても配信中なので表には出さない。
「それでですね、エマさん。今日、俺がここを訪れたのは、予備の武器になる銃器を探していまして──」
「ほむほむ。今使っているメインはショットガン? じゃあ、予備にはSMGとかどう? 威力はライフルやPDFには劣るけど、嵩張らないし。何より拳銃弾を使うから安上がりだよん」
安上がり! なんて素晴らしい言葉!
もちろん、嵩張らないってのも重要なポイントだ。発掘の際は、荷物が少ないに越したことはないからな。
前回の発掘が赤字だったこともあり、低コストなSMGは俺にとって最適なサブ武器と言えるかもしれない。
「でねでね、ウチの売れ線なSMGと言えばコレ!」
いつの間にか、エマさんがじゃじゃーんとばかりにとあるSMGを掲げて見せた。
全体的に白っぽいカラーリングのSMGだ。
「コレの商品名は〈舞い散る聖羽〉! 9mm口径で装弾数は標準マグで30発! ロングマグなら50発まで装填可能! もっちっろっんっ、信頼性、命中精度もバリ高だよーん!」
ぴ、ぴ、ぴ、と立てた人差し指を左右に振りながら、カメラに向かって言うエマさん。
な、何て言うか……随分とカメラ慣れしてね? もしかして、以前にもこういう配信に出たことがあったり?
ところで、〈舞い散る聖羽〉って銃器の名称なの? マジで?
「あれ? そのSMGどこかで見たことあるぞ」
「銃器に〈舞い散る聖羽〉ってどんなセンスだよwww」
「買いまーす! お店まで行ってもいいでつか? お店、どこにありまつか? 買う時に握手してください、エマたん!」
「実は俺もその銃使っている。確かに使いやすくていい銃だぞ」
余計なノイズも交じっているけど、どうやら評判のいいSMGみたいだ。
他にもいろいろなSMGやらライフルやらを見せてもらった後、俺はこの〈舞い散る聖羽〉を購入することにしたのだった。
◆◆◆
銃本体以外にも予備マガジンやオプション類、弾薬などを購入していると、誰かが店の中に入ってきた。
ちらりとそちらに目を向けた俺は、露骨なまでの二度見をしてしまった。
なぜって、店に入ってきたのがメイドさんだったからだ。
正確には、メイド服を着た女の子なんだけど。
「こんにちはー!」
「およ、ミサキっちじゃん! おはおはー!」
どうやらエマさんとは知り合いらしい。
160センチには満たないぐらいの小柄で、内巻きにしたミディアムヘア。色は明るい茶色で、モノクロのメイド服にとても映えている。
胸は……っとと、じろじろ見たら失礼だよな。俺、紳士だし。
「今日はどしたん?」
「ご主人様の言いつけで、弾薬の購入に来ましたー」
「お、ミサキっちのご主人様、退院したん? この前、何か大怪我したって噂を聞いたけど?」
「それが退院はもうちょっとかかりそうなんですよねー。ここだけの話、最近ではアイナ様がご主人様を心配しすぎてなかなか離れてくれませんしー」
「にゃははは、アイナらしー! ミサキっちのご主人様、愛されているねー」
「ホントですよねー」
同じ年頃らしき女の子二人、話が合うようで楽しそうな様子。
うーん、どうやら恋バナの類らしいけど、他人が詮索することでもないよね。俺、紳士だし。
でも、ちらっと聞こえてきた「ご主人様」とか、どうしても気になるな。やっぱり、メイドさんだけに誰かに仕えているのかな?
このご時世、メイドさんを雇えるような人なんて、ほとんどいないと思うけどなぁ。
「め、めめめメイドさんや! ホンマモンのメイドさんや!」
「や、野生のメイドさんか? だったら、今すぐに捕獲に行きます! 捕獲用のボール持って!」
「メイド服着ている人なんて初めて見たわ」
「もしかして、これってライちゃんの仕込み? だったらあざといぞ! でも、そのメイドさん紹介して!」
「ライちゃんの知り合いじゃなかったら、名前と住んでいる場所聞き出せ!」
コメントも大盛り上がりだな。
まあ、気持ちは分かるけどさ。
でも、最後にコメントくれた…………えっと、ゴーヤンさん? さすがに本人の許可もなく名前や住所は公開できないぞ? ちょっと考えれば分かるよな?
俺は二人の会話が終わるまで、店内に展示されている銃器を見て回った。
俺の方が先客だったのに、とかは言わない。可愛い女の子が二人、きゃいきゃいやっているのを眺めているのも楽しかったからね。
◆◆◆
ちなみに。
この日の配信は、過去最高の接続数を叩き出した。
メイドさん効果、恐るべし。
これ以降、俺の配信には常に「黒子さん」とか「エマちゃん」とか「メイドさん」といったキーワードが飛び交うようになるのだが…………まあ、評判がいいのは間違いないので、細かいことは気にしない方向で。
うん。
これにて、第3章は終了。
そして、年内の投稿も今回で終わりです。次章である第4章は来年1月12日(月)から開始となる予定です。
年内は拙作にお付き合いくださり、本当にありがとうございました。
来年もまたよろしくお願いします。
できれば150話以内で完結したいなけど、無理かなぁ?(笑)
※コメントなどへの返信は、年明けに改めて行いまする。




