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〈ギガンテス〉討伐戦──勝利

「怪我の酷い奴から順に、カワサキ・シェルターへ後送する。ゲンタロウ、おまえのチームは帰還組の護衛を頼む」

「おう、任せろ!」

「イチカの姉ちゃん、《ベヒィモス》にはあと何人乗せられる?」

「牽引ユニットでショウ様とフタバの『治療』を行っていますが、〈ベヒィモス〉本体の方にはまだ余裕があります。後部座席を倒して寝かせた状態なら二名、着座可能な負傷者なら四名まで収容可能です」

「よっしゃ。じゃあ、怪我の酷い奴から条件に合う奴を優先して、早急にカワサキまで運んでくれや」

「承知いたしました」

 崩れ落ち、ほとんど燃え尽きた〈ギガンテス〉。

 カツト率いる〈ギガンテス〉討伐部隊は、一旦トーキョー遺跡の外まで後退していた。

 そこで、怪我人の応急的な治療などを行っているのである。

「なあ、カツト。あの装甲車の牽引ユニットなら、もう少し怪我人を乗せられるんじゃねえのか?」

 作戦に参加した傭兵の質問に、カツトはがりがりと頭を掻きながら答える。

「あー、実は二人ほど【インビジブル】の感染者が出てな。持って来ていたIV抗体は既に投与したが、さすがに感染者は隔離しておかないとな」

「じゃあ、あの牽引ユニットは今、隔離スペースってわけか?」

「そういうこった。いくら感染者とはいえ、ここにほっぽっとくわけにもいかねえからな。ってなことだから、あまりあのユニットには近づかないようにしてくれ」

「おう、そういうことじゃしゃあねえよな。んじゃ、他の連中にもそう伝えておくよ」

 実際、カツトの言葉は嘘ではない。

 いまだ意識が戻らぬショウだが、現在の症状から【インビジブル】に感染しているのは間違いないだろう。

 今回の作戦のため、ウイリアムからひとつだけ預かっていたIV抗体をショウに投与したが、専門家でもないカツトたちには症状を抑え込めたのか判断できない。

 この件は、早急にカワサキ・シェルターに戻り、アイナたち専門家に委ねるしかない。

 なお、大破したフタバは修理メンテナンスポットにて修復中。こちらも表向きは【インビジブル】に感染したとして、ショウと共に牽引ユニットに「隔離中」である。

「ご主人様……大丈夫でしょうか……?」

 心配そうに、ミサキが牽引ユニットへと視線を向ける。

「過去の【インビジブル】感染進行のデータに照らし合わせれば、今のショウ様は症状が落ち着いているわ。今以上に進行が進むことはないと思うけれど……」

「だが、ショウは二度目の感染だ。過去の感染はかなり軽度だったが、今回で感染状況が進み、中度って診断になるだろう。まあ、リアムの野郎だって中度の感染から回復したんだ。多分、ショウの奴も大丈夫だろうぜ」

 イチカとミサキの肩をぽんと叩き、カツトはにやりと笑う。本人は二人を安心させるために「にっこり」と笑っているつもりだが、その強面からどうしても「にやり」になってしまう。

「今は大気中の【ブルーミスト】が濃くてカワサキと連絡が取れないが、連絡が取れる距離になり次第、医療施設にショウや他の怪我人の受け入れ態勢を整えてもらえ」

「承知しました。カツト様はまだこちらに残られるのですか?」

「怪我人だけは先に帰すが、まだまだ後処理が残っているからな。〈ギガンテス〉の細胞サンプルが採取できれば言うこたねえが……難しいだろうな。できれば、あの怪物が突然あそこまで大きくなった手がかりが欲しいところだよなぁ」

 〈ギガンテス〉があそこまで大きくなったのは何か理由がある。というのが、カワサキ・シェルター化学・薬品部門の責任者であるアカネの意見だ。

 彼女個人としては、〈ギガンテス〉がゲームキャラのような「進化」をしたとは考えていないようで、あそこまで大きくなったのにはそれなりの理由があると睨んでいるらしい。

 そのため、〈ギガンテス〉討伐後は、可能な限りサンプルを集めてくるようにと、カツトに依頼していたのである。

 とはいえ、〈ギガンテス〉も他の【インビジリアン】同様、死後その体は早急に崩れていくだろう。そのため、ほとんどサンプルは採取できないとも半ば諦めてもいるようだ。

「イチカの姉ちゃんとミサキの嬢ちゃんは、《ベヒィモス》でショウや他の怪我人をカワサキまで運んでくれ。俺たちはもう少しこっちに残って、可能な限り〈ギガンテス〉を調査するからよ」

「承知いたしました」

「はーい、わっかりましたー!」

「おう、頼んだぜ」


◆◆◆


「結局、どうして〈ギガンテス〉は突然崩れ出したんだ?」

 足早に立ち去るイチカとミサキを見送るカツトに、まだ近くにいたゲンタロウが尋ねた。

 いや、カツトに尋ねたと言うより、感じた疑問を口にしただけのようだ。

「さあなぁ。俺にもそれは分かんねえよ。だが、ショウの奴が何かしたのは間違いねえだろ」

「そこは俺も同意見だが……一体、ショウは何をしたんだ? もしかして、再度の感染と何か関係があるのかね?」

 怪我人の収容などの撤収準備を始めた《ベヒィモス》を眺めていた二人の男は、先ほどまで聳えるように存在していた巨大【インビジリアン】へと思いを巡らせる。

 全身に炎が回っても、恐るべき生命力で攻撃をしかけてきた〈ギガンテス〉が、突然崩れ出したのは、それなりの理由があるからだろう。

 そして、その理由にショウが絡んでいるのは間違いない、とカツトとゲンタロウは考えていた。

「……大丈夫かね、ショウのやつ……」

「感染はIV抗体で抑え込めただろうが、怪我も相当酷いからな。ま、感染も怪我も、アイナが献身的に治療するだろうよ」

「違ぇねぇ」

 苦笑を浮かべる中年野郎ども。アイナのショウに対する想いは、当然二人もよく知っている。

「よし、ゲンタロウは予定通り帰還隊の護衛を頼む。俺たちはもう少し〈ギガンテス〉について調べるからな」

「おう、ショウを含めた怪我人たちは、無事にカワサキまで送り届けてやるぜ」

 カツトとゲンタロウは、互いに拳と拳を打ち合わせた後、それぞれの仕事へと戻っていった。


◆◆◆


「おいおい、ホントにここは『吸血庭園』なのか?」

 かつては新宿御苑と呼ばれた庭園を前に、カツトは呆然としていた。

 恐ろしい吸血性植物型の【インビジリアン】が大量に生い茂り、ここに足を踏み入れた者は全ての体液を吸い尽くされ、瞬く間に死亡すると言われた超危険エリア。

 だが、その「吸血庭園」は今、変わり果てた姿をカツトたちの目に曝け出していた。

 園内にびっしりと繁茂していた植物型【インビジリアン】は、全て枯れ果てて、周囲に動くものはカツトたちだけ。

「あれほどいた吸血性の植物どもは、どこに消えやがったんだ?」

「何らかの理由で全部枯れたんだろうが……一体、何が理由で……?」

「こっちの枯れたヤツは、既に崩壊し始めていて【ブルーパウダー】になりつつあるぞ」

 辺りを調べていた部下たちの声に、カツトは太い腕を組みながら唸る。

 〈ギガンテス〉が「吸血庭園」から移動してきたのは間違いない。

 ショウたちが偵察した際に「吸血庭園」内にいたことが確認されているし、あれだけの巨体が移動したのだから、その痕跡だって明確に残されている。

 〈ギガンテス〉の移動痕跡を逆に辿ったカツトたちは、ここ「吸血庭園」まで辿り着いたのだ。

「おい、カツト。あそこの地面、大きな穴が開いているぜ?」

「おお、本当だな。おそらくだが、最初はあそこに〈ギガンテス〉が鎮座ましましていたんだろうさ」

「あれだけ大きな樹だからなぁ。根っこも相当広がっていたんだろうな」

 「吸血庭園」のほぼ中央の地点。そこには巨大な穴が開いていた。カツトの想像通り、こここそが〈ギガンテス〉が文字通り根を張っていた場所であり、その根を使って巨大【インビジリアン】は移動をしたのである。

「それまで動かなかった〈ギガンテス〉が、何らかの理由で突然動き出した……? じゃあ、その理由は何だ?」

 穴を見つめながら、誰に問うでもなく独り呟くカツト。

 そんな彼の背中に、部下の一人が声をかけた。

「隊長、向こうで干からびていたホトケさんたちの身元が割れました」

 声に反応し、カツトはぴくりと眉を動かしながら振り返る。

 彼らがこの「吸血庭園」まで来る途中、数人の死体を発見していたのだ。

「所持品などから、ヨウスケという男がリーダーの発掘者チームのようです」

「ヨウスケ……? そういやちょっと前、西の方のシェルターからあまり評判の良くない連中が流れて来たとかゲンタロウが言っていたな」

 二、三か月ほど前、仕事終わりに立ち寄った行きつけの酒場で偶然ゲンタロウと鉢合わせした際、彼がそんなことを言っていたことをカツトは思い出した。

「その連中のリーダーが、確かそんな名前だったはずだ」

「吸血植物に襲われたようで、全員体中の体液を奪われていました。ですが、所持品のくたびれ具合から、ホトケさんになってからさほど時間は経過していないものと思われます」

「突然〈ギガンテス〉が動き出したことに、そいつらが何か関係してんのか……? まあ、いい。一応、今回の犠牲者と一緒に回収しておけ。もしかすると、何か真新しい情報が得られるかもしれん」

 今回の作戦に参加した傭兵や探索者、そして「KSST」のメンバーの中には、残念ながら命を落とした者が数人いる。

 彼らの遺体は丁寧に回収した後、カワサキ・シェルターにて正式な手順で弔われる。

 ちなみに、カワサキ・シェルターにおける住民の正式な葬儀は、火葬した後に遺骨や遺灰を墓地エリアにて埋葬する。

 墓地エリアも面積が限られているため、個人、もしくは特定の家族の墓というものはなく、遺骨や遺灰は全て同じ空間に納められ、共同の大きな石碑があるのみだ。

 だが、ヨウスケとその仲間たちは、その墓地エリアに葬られることはないだろう。

 彼らはカワサキ・シェルターの正式な住民ではない。単に他所から流れて来ただけの、一時的にカワサキに身を寄せている流れの発掘者に過ぎないのだ。

 彼らのような余所者や犯罪者などは、限られた墓地エリアに葬られることはない。一応火葬だけはした後、遺骨や遺灰は荒野に打ち捨てられる。

 これはカワサキ・シェルターに限られたわけではなく、今の時代はどこのシェルターも似たようなものだった。

 そんなヨウスケたちの遺体をわざわざ回収するのは、一連の〈ギガンテス〉に関わる騒動に何か関係しているかも、というだけの理由である。

「さて、『吸血庭園』がこんな枯れ野原みたいになったのも、〈ギガンテス〉が関係しているんだろうよ。おい、辺りを念入りに調べろ。どんな小さなことでもいい。何か気づいたら必ず報告しろ。いいな?」

 部下にそう指示を飛ばしたカツトは、自身も何らかの手がかりを得るために「吸血庭園」の奥へ足を向けるのだった。



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― 新着の感想 ―
戦い自体は先週で終わったものの特異な【インビジリアン】であった〈ギガンテス〉の調査が続行されている訳ですか。それにしても討伐まで随分とかかったものですね。何か有益な情報でもあれば良いのですが……。きっ…
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